オワリのワイとセンセイのワイ
僕は大好きなので、大勢の人に知ってもらいたい。
ある男は朝起きると動画を撮る。
有名なデジタルカードゲームだ。
「母校と申します。今回は――」
という感じで意気揚々と喋り始め動画の撮影を開始する。しかし、この男。このカードゲームの実況には余り乗り気ではない。
何故なら、この男の視聴者はカードゲームが大嫌いだからだ。
どんなに編集を頑張ったり、プレイがうまくてもコメ欄では○四で溢れかえっている。これによりメンタルの弱い男は視聴者が予想する以上に精神的ダメージを負っている。
だが、これは自業自得なのだ。
男の持ち芸である声真似。これが全ての元凶だ。
「我らは○○れし、○○の血統○○!」
「嘘○外○○し○○と」
など、まるで機械のようにどのゲーム実況でも叫んでしまうのだ。
これは発作と呼ばれ、最初は面白くもあった。しかし、脳筋の様に繰り返す発作に視聴者は嫌気がさしたのだ。
「○判の○○」
もう、ウザい以外の言葉しかない。
視聴者はこの男の実況が好きなのだ。しかし、他ゲームの声真似発作。そして、ちょくちょく挟まれるキレ芸。
これで、嫌いになるな! という方が無理である。
前述の通り、デジタルカードゲームの動画が不評なのは自業自得であり、必然なのだ。
――とある先生が言った。
「偶然から必然への○○となる」
とてもいい言葉だ。
「おいいいい! このクソ陰○がッ! ○ね!」
なんだこれは。キレ芸が持ち味だとしてもこの連続で、全然面白みがない。
しかも、最近は良くわからない所でキレるのでとても心配していた。
「なんで、ここでキレれるんや……」
最近知ったがこの男はサイコパスなのだ。感情がわからない。微妙な所で涙を流し、つまらない所でキレる。人の心の痛みがわからない。
「ボクは~人より感情が豊かなんでぇ、皆がわからない所で泣いちゃうかもw」
サイコパスが良く言う言葉だ。
「はぁはぁはぁはぁ……」
これは過呼吸の演技だ。マジでつまらない。
だが、この男の動画で唯一楽しく見られるのは料理動画だ。
調理過程がメチャクチャでとても楽しい。
さて、ここまでダラダラしてきたが核心を突こう。
何故、デジタルカードゲームを始めこの男は、しょうもない男になってしまったのだろう。
それはズバリ。
――退化しているのだ
ゲームの実況力、編集力ではない。
人間性がただでさえオワっているのに徐々にオワのオワリになっているのだ。
私はついこの間、男の懺悔動画を視聴した。
そして驚愕した。
「反省はしません! 行動で示します!」
「は?」
反省せずしてどうやって行動へと移すのか……。
恐らく、このどうしようもない信念で生きてきたから変わっていないのだろう。
ここまで、ぼろくそに言ったが男の実況は大好きだ。
しかし、本当に好きなのは男ではなく『漢』の実況だ。
そろそろ、本物の漢としてゲーム実況界の王になってほしい。
「それでは、ありゃりゃした」
おっ、どうやら。撮影終了したようだ。
漢ではなく男はゲーミングチェアを立ち上がり徐にゴミ箱を漁り始める。
「あった」
どうやら財布を探していたようだ。
時刻は既に午前十一時を回っている。
「飯食いに行くか。午後からは後輩呼んで、リアルカードゲームしよ」
男は小銭しか入っていない財布を命よりも大事そうに握りしめ、外へ出る。
近くの三秒で提供されるカレー屋に行く気だろう。
呑気にボエボエと歌を歌いながら道を歩いていると、後ろからバイクのエンジン音が聞こえたので、身を端へ寄せる。
「え――――」
そのバイクは超スピードで数々の人を跳ね飛ばしている。
やばい。直感で思った時にはもう遅い。
「ゴッ……!」
ライダーの顔ははっきり見えた。それは有名な新参ゲーム実況者!
そして、跳ねられた人の顔をみるとどれも知っている顔。昨日まで仲良く動画を撮っていたかけがえのない大切な仲間だ。
男は跳ね飛ばされ、もう瀕死の状態だ。だが、最後の力を振り絞りライダーに手を伸ばす。
「クソっ。待ってろ……俺が絶対に負かしてやる……! 俺は漢になる! 真の漢になり、お前の登録者を上回ってやる……!」
その言葉を最後に男の手はパタリと地面に倒れた。
もももももももももももも
男が目を覚ますとそこはよく知っている、とても懐かしい場所だった。
「ここは……?」
そうここは。
「奈良!?」
そう、かつて伝説の漢が暮らしたとされる伝説の場所、奈良だった。
しかし、男の知っている奈良ではない。巨大な鹿、角の以上に発達したイノシシ。
そして、全てを破壊しまわる狂大猿……!
「ここは、奈良県なのか……?信じられない」
男はカレーに納豆を入れて食べる程の衝撃を受けた。
そんな男に狂大猿が目をつける。
「しまった。ロックオンされてもうた!」
地面が揺れる程の足音を立て男に迫る狂大猿。
その全てを壊したであろう肘を男に向かって振り下ろす……!
「何でナン!? 何で俺ばっかりこんな目に合わなあかんねん!」
男は遂いつもの癖で激怒した。
「回線切断!」
その声が聞こえると共に真空の刃が猿の肘を切断した。
「誰や!?」
「……わいや」
「お、お前さんは!?」
「わいは伝説の漢。名は……騙らんでもええやろ?」
漢は男に歩み寄り、手に持つピッケルを眼前に突きつける。
「さて、あんたが腐ったオワリのわいか……」
「そ、そういうあんたは。……センセイのわい……か?」
読んでくれて感謝の念を申し上げる。
二話も直ぐ投稿するで!