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乙女ゲームに転生した だがそんな事は知らん

作者:

むしゃくしゃして書いた。自分の中にあった読みたい小説を形にしたかった。

語彙なくてこれ以上は駄目だった。切ない。


「ああ、俺はモブなのか」


日差し照りつける春の空。


野良仕事の合間。

世界の真理を悟った俺はつぶやいた。


「どうしたトーマ。急に変なことをつぶやいて・・・ああ、いつもの病気かい?

 残念な事にボクは膝くらいしか貸せないがどうする?」

「意味が分からん」


隣で作業をしていた手を止め、こちらににこやかな笑みを浮かべるイケメン。


おお、我が友よどうしてお前はそうなのか。


スラリと長い手足、姿勢もバランスも良い肉付きの体。

サラサラと長い金髪を後ろでまとめ、中性的で柔らかいがどこか挑発的で飄々とした顔つき。

これで頭良し、性格良し、辺境伯子息ときたもんだ。


今の所奴に勝てそうなのは腕っ節とか戦闘力とか脳筋系だけである。


我ながら脳筋であるが勝てる所があるだけましと思うべきか。


「じゃあ、おーい。作業者衆どいてくれーい。

 後は魔法でチャチャっと仕上げるぞー、と」


手を振り、号令をかけると作業をしていた男衆が柵から遠ざかるのが確認できた。

『ムーブ・アース』と呪文を唱え、足踏みをひとつ。


完成形を想像するだけの簡単なお仕事です、と呟き地面を蹴った足から地面へ魔力を送る。

視線の先でもこもこと土が持ち上がり意志を持った水のように、木の柵で作った骨組みを覆っていく。


材料として使った土がなくなった所は堀として整えて活用すれば良かろ。


『サーチ』と追加で呪文を唱え、全体の形を把握。完成率3割、と。


「いやぁいつ見ても無駄に凄いねぇ」

「無駄にとか言うな。下級の生活魔法を褒められたって嬉しくないんだが」

「その下級の魔法を町一つ規模でやるのが凄いんだけど。

 ・・・君の頭が他の人と違うのは今に始まったことじゃないしいいか」

「それ絶対けなしてるよな、おい」


見た目土壁だから後で石材貼り付けて貰うかね。魔法万歳。


ずももという効果音を脳内で付けつつ更に多くの土を持ち上がっていくのを確認しながら魔力を注ぎ続ける。


スライムのように流動的な土が壁にへばりつき枠の木材よりも高く全体を覆った。

堀と壁の形を凸凹の無い様に圧縮して固めて形を整えて。よし、と。


完成の手ごたえを感じて一息。


「全体確認ー!」


号令に作業員達のおいーっす!との返答。

それぞれが不備がないかを確認に動いたのを見て小休止。


「はい」


そこに横からバスケットが差し出される。中身はサンドイッチか。


「あんがとよ」

「いやいや。当然の報酬さ。後は不備修正して全体見回ってここの町は終わりかな」

「そうだな。しかし、こういうのは魔法でやるのは楽だが・・・本来は長期的に人雇ってやるべきなんだよな」

「まあ、今回は仕方ないさ。今からこの規模の防壁を作ろうとしたら半年はかかるし被害が酷くなるからね」


アトリは少し笑い、考え、


「あと魔法で町一つしかも門・通用口・堀・用水路・休憩室完備の、

 実用的な防壁を作れるような人は普通いないからそこ勘違いしちゃ駄目だよ」

「そんな馬鹿な」

「石造りの小屋を10秒で建てるとか正気の沙汰じゃないからね?」

「またまた御冗談を」


山一つ消し飛ばすような魔法使いが一山いくらレベルでいる世界観なのにか。

俺の魔法、土とか動かしてるだけだぜ。丘一個分とちょっと量は多いが。もうちょい頑張れますよ?


アトリはこっちにサンドイッチを渡し、周りを見回して、


「確認が終わり次第一旦休憩にしよう。休憩所に軽食を用意したから食べてくれ。

 ああ、もちろん手を洗ってからだぞ。こいつは洗わず食べたが。悪い奴め」

「渡したのお前だろ!?」


手の空いた作業者達がワハハと笑い、休憩に引き上げていく。


他の人達も現在の作業が終われば上がってくるだろと魔法で即席ベンチを作って座る。

隣にアトリも座り、飲み物を準備し始めた。


遠目に他の手伝いの女の子がこちらにサンドイッチを持ってこようとしているのが見える。


が、既にアトリは既に自分の分と俺の分を持っていて。

それに気づいた乙女達の嫉妬のレーザービームが俺に突き刺さり。

更に乙女に気づいた奴がニコリと微笑めば顔を赤くしてうつむく乙女に黄色の声をあげる乙女。

そしてそして乙女達にグヌヌと更に睨まれる俺。


世の中って不公平よね。知ってたが。



生まれかわり、と言う奴なのか。

自分は自分のものじゃない記憶を持っていた。


トーマ・クランズという自分の記憶と、もう名前も思い出せない生まれるより前の自分の記憶。


それをちゃんと自覚したのは10歳前後の事だった。


見た事のある奴がいたのだ。

それで思い出した。


ここは、前世でやった乙女ゲームに似た世界なんじゃね、と。


どうしてだよ。もっと他にあっただろう。

竜の冒険世界とか最後の幻想世界とか召喚の夜の世界とか。


よりにもよってこのゲームの世界に来てしまった事に絶望した。

なんで乙女ゲーなんだよせめて男子向けの奴にしてくれよ。


探るように思い出した事。タイトルは忘れた。

無意味に長かったしうざったい説明調のサブタイトルがついてたかなぐらい。


正統派RPGで女主人公が宿命によって巫女となり、

勇者と多くの仲間と共に困難を乗り越え、世界を救っていく。


その旅の合間にヒロインが仲間であるヒーローと仲良くなっていく感じだった。

女性向けのそういうゲームなので当然というかパーティーメンバーは男、イケメン揃いである。


どうしてそんなに覚えているのか。


BADENDで主人公がめろんぱんになったりゾンビ化したり、

お人形さんやだるまさんになったりすれば忘れるはずも無い。夢にまで出るわ。

処刑シーンを詳細にシナリオ書いた人は頭おかしいと思います。



最終的に豪華なイラスト付きフリスビーにして粉砕したところまでは鮮明に覚えてる。清々しい気分になったよ。


しかしなんで前世?の俺は乙女ゲーやってたのか。どうでもいい。


そうか、そうだな。だが知った事ではない。

ここがあのゲームの世界だとしてもストーリーの通りに進む保証はないし。進ませる気ないし。


でも、もしここがあのゲームの世界ならば俺のやる事は決まっている。


「よし、俺より強い奴に会いに行こう」

「トーマより強いって・・・またドラゴンでも狩りに行くのかい?」

「馬ッ鹿、ドラゴンは非常食だよ。計画的に乱獲しよう」

「それ頭おかしい台詞だって理解するといいよ。ああ、あとうちに迷惑かけてもいいけど後の事を覚悟してよ?」

「どうしてそう俺は信用が無いのか」


ふーやれやれとむかつくぐらい様になる身振りで肩をすくめる幼馴染。


辺境伯子息 アトリ・レギンレイヴ


ゲームの隠しキャラだった奴だ。こいつの事も良く覚えている。だがよく知らない。

ゲームをフリスビーにした直後に妹が情報持って来たおかげでな。

だからこいつのルートがどうなってるか分からんのだが。うむ。どうでもいいや。


「しかしなんでお偉い子息がこんな美味い飯作るかねぇ。普通使用人が作るんじゃねえの?」

「趣味だよ趣味。遠征の時にも役に立つし、美味しそうに食べてくれる奴がいれば腕の奮い甲斐もあるさ」


手のかかってそうな色とりどりのサンドイッチをもぐもぐ。うめぇ。


美味いからいいんだけど毎回毎回メイドに「アトリ様のお料理はいかがでした?」とキラキラした目で見られる切なさときたら。


なんで部下のテメェが我が息子の手料理食ってんだよ立場弁えろよアァン?


というお前の親父さんからの無言の重圧に晒される俺の立場をもう少し考えて欲しい。


お前の親父さん目で人が殺せそうなくらい怖いんだから。

俺の親父はどうやってあの人と親友になったのか。


夫人も母さんもニコニコ生暖かい目で見てくるし・・・。


「君が何処からか仕入れてきた料理の話のおかげでレパートリーも随分増えたし色々はかどるよ」

「あぁ、うん。そうねお前はいいお嫁になるんじゃないかな」


軽い冗句。


「・・・え、あ、うん。その、嬉しいよ」


ちょっと言葉に詰まり俯き照れたように頬を染め、つぶやいた。


おい、なんだその反応。おかしいだろ。


見ようによっちゃお前凛とした女顔なんだからやめろ。

年を経る毎にお前の腰の辺りとか割とヤバ目なんだから更にやめろ。


・・・しにたくなってきた。気分を変えよう。


さてこの世界の事である。前世でテレビに向かってピコピコやってたゲームの世界である。


前の世界でのゲームの評価は「ゲームとしては面白い」だ。

後「バッドエンドざまぁ」、「世界を救いに行く部分は要らなかった」とか。


敵の強さや全体のゲームバランスが良くサクサク遊べるシステム。

見やすく分かりやすい画面、情報。適度にも重度にもやりこめる要素も多くあった。

収集要素とかそれに加わるボーナスだとかミニゲームとかペット育成だとかマスコンバットだとか。

ロボ開発から交易、研究開発による領地開拓だとか。時間を忘れてやりこんだよ!


ここまで整理すればわかるが。


ストーリーは無かったものとして扱いたい。切に。

主人公がひたすらにブーメランを投げて自分に刺さるを繰り返すだけだからだ。


一途な愛を説きつつ自分は複数人の異性に愛を囁いたり。

貴族としての生き方を説きつつ貴族を否定したり。

力づくは駄目だと説きつつすべての解決方法が力付くだったり。

義務を説きつつ義務を理解しない果たさない破りまくり。

人に話を聞けと言った直後に大事な話を聞き逃して重要な封印を破壊したり。

そして、負わなければならない責任は言及されない・封殺・見ないふり。

むしろ根底にある冒険物語そのものが壮大なマッチポンプだったり。


・・・ストーリーは無かったものとして扱いたい。


が、問題なのは、だ。

この世界でストーリーを再現された場合、今後レギンレイヴ領で多くの事件が起こるという事である。


元々、乙女ゲームなのだ。魔物を倒し名声を得たりする件はむしろサブであり、

本筋としてはヒロインとヒーローのラブストーリー(笑)がメインなのである。


男から見た乙女ゲーの男ってどう考えても女々しすぎるというかなんというか。

精神弱すぎというか対人能力低いしBADENDでは軒並み病んでるし。


でもイケメンだから許されるよ! ケッ。


まあようはサブよりメインの部分に力を注ぐのは当たり前のことで。

所々で設定がふわっとしていて基本的にご都合主義でヒロインの味方するのである。


結果としてどうなるかと言えば、適当な部分の皺寄せを引き受けているのが我が陣営。


サラリと調べただけでも領地内にボスフラグがこれでもかとてんこ盛り。

今回の防壁も最近増えてきた魔物対策であるし。


ゲーム上の勇者・巫女の一団的には問題を解決した名声を得られるので問題無いのだが、

損害を被るのはレギンレイヴ家、ひいてはその傘下にある我がクランズ家他レギンレイヴ閥の貴族、その領地と領民である。


空想ならいいんだが現実にゲームの状況になると酷いな。


領内の問題が他の、国に認められた勇者とはいえ他所の人間に解決されるのは体面的によろしくないし。

基本的に勇者達の活躍は大々的に喧伝されるから面子を立てる為の誤魔化しも隠す事も出来ない。


その上、勇者を擁する中央貴族派閥と俺達のレギンレイヴ辺境伯派閥は控えめに言っても良くない。

表面的には味方であるがはっきりと敵対派閥だ。面倒な事この上ないな。


管理責任云々とまでいかなくとも色々面倒になるのは目に見えている。


最終的にレギンレイヴ領とその周辺は全土が瘴気と呼ばれるなんか良くないモノに汚染されて魔物に乗っ取られるし。

ゲーム上では事件後どうなったかの詳しい描写がされなかったが状況が良くなるとはとても思えん。


領地がそうなる原因が勇者・巫女一団だというのが笑えない。

そして、その事実を反省もせずばれなきゃ問題無いで押し通すような連中だった。


それもどのヒーローのルートを選ぼうと、である。

世界とヒロインを天秤にかけてヒロインを取ってくれる理想のヒーロー様だ。


流石だぜ!


恋愛脳ですね。わかります。

浸ってんじゃねえよ。お前らのせいで苦労すんだよ。お前らじゃない誰かが。


「なあアトリ」

「なんだい?」


昼休憩のゆるゆるとした時間帯。いかんな少し眠い。

ふーむ。と少し言いたい事を整理。


「ちょーっとウメさんとかアルタイル辺りの奴ら借りていいか?調べたい事あるんだけど」

「ふむ?君の「狩り」に連れて行くのでなければ構わないよ」

「情報畑の人員にそんな無茶振りはしないっての」

「この前君に連れていったジョッシュ達が魂抜けかけてたけど?」

「知らんな」

「こっち見ようか」


たかがオークチャンピオンの率いるストーリーボス(予定)に飛び込んだだけであの様である。軟弱な。


ため息を一つ。これからの予定を考える。

魔物大量発生するはずの南部はアトリの親父さんに進言して兵士増やして貰ったし西部の遺跡は現在調査中。

北部はまだ大丈夫だが他国の間諜がちらほらいるし・・・東部は後で問題になる奴はもうつぶしたから・・・。


あとは問題発生毎に対処かなぁ。今現在はまだ手を出せない物もいくつかあるし。

他勢力との交渉は領主殿と親父に任せるほかないし。


万が一にも奴らが正常でまともで有能ならそれでいい。

が、そうでなかった場合はレギンレイヴ領破滅直通なので警戒するに越した事は無いだろう。


もう勇者も選定されて、ヒロインも巫女に選ばれてストーリー自体は始まってる様子なのでしばらく要警戒の日々だ。


もしも万が一にも奴らが有能ならいいが魔物を倒すために重要な建物吹き飛ばしたらしいし、その辺りは望み薄か。

他にもストーリー序盤で奴らが破壊する予定の遺構もストーリー通り壊れてたし奴らの目撃証言もバッチリ。


そもそもまともで有能なら怪しい封印を破壊してあったら放置したりしないよな。

一応こっちで封印管理してる領主に話は通したからどうにかするでしょうさ。


奴らは現在うちの隣領の辺りに向かってるらしいって話だった。

その辺を少し調べて貰わねば。


風が吹く。含む匂いはむせかえるほど土と花。


前の世界の記憶は写真に近いものだ。

前世のこの世界に関する事は必死で思い出したが、自分の常識はこの世界のものに固定されている。


魔物はいるし。魔法もある。そこに違和感はない。

文明は記憶の中のモノほど洗練されてはいないが、ゆったりとした時間が流れている。


覚えている現代ほど娯楽は多くないが、かつてほど急かされもしない。


便利そうだなと他人事のように思い。

あれは再現できるかなでもなぁなどと思い悩んで。

ごちゃごちゃ考えるのは性に合わないと放り投げる。


嘆息。


ちらりと見る先に思い悩むアトリ。


「新しい芋の品種…やはりストロングジャガーとかいいんじゃないだろうか」


さっきから何真剣に悩んでるのかと思えばコレである。

ちょっと思い悩んでるだけで絵になるイケメンはやはり爆発するべきでは?


「なんか強そうだな。だけどアレ魔物だからな。根っこが動いて虫捕食してんじゃねえか。

 物理的にストロングなのは勘弁」


視線の先にはうねうねと獲物を探すかのように動いてる根と葉をもつ植物。

なんかキシャー言って虫型の魔物を捕食中。


とりあえず殴って消し飛ばそうと拳を構える。


「おい、何をしてる!?」

「いやいや、被害が出る前に消し飛ばすのが慈悲だろう」

「害虫を自ら退治する逞しさがあっていいじゃないか!?かわいいだろう!?」

「お前の美的感覚おかしい!」


はぁ、と一息。


植物?はカサカサ動いてアトリの後ろに逃げ込んでチラチラこっちを見ている。

なんだその動き。


「新しい作物を探すのはいいんだがね、もういいんじゃないか?」

「いや、まだまだ。君が治安維持や土地開発で働くのに比べれば僕の働きなんてちっぽけなものさ」

「俺は魔法でドバーやったり、魔物相手にヒャッハーしてるだけだけどな?」

「身も蓋も無い言い方だがね?現状、僕はその働きにすら届かないんだよ。父上が魔物退治は危ないとかでやらせてくれないし」

「お前も過保護に育ってるよな。うちは8の時には魔物の群に叩き込まれたぞ」


母さんがパワフリャッな人だったからな。

一通りの戦い方叩きこまれたし、母さんの見守りがあったから問題はあんまなかったが。


カサカサ動く植物(魔物)がこちらにジャガイモらしきものを献上してくる。

受け取るとササッと畑へ戻っていく。これをどうしろというのだ。


「君の母上は、うん、まあ、凄い人だからな」

「物理的にな」

「うん。それにまだ土地を治めたりの父上達の仕事はまだ勉強中だし。

 だから今のうちに料理や衛生やその辺りの民の生活の改善を、と思ってね」

「その果てが魔物ってどうなんだよ」


いい奴なのだ。コイツは。やってる事微妙に空回ってるけど。


「その辺はヘス子と相談しろよ。あいつ畑関連ならすごいぞ。他はあほの子だけど」

「…善処する」


何とも言えない表情。


あのないすばでーの元気娘とでもくっつけば色々楽なんだけど。

まあ婚約関連は面倒だからなぁ貴族。


真面目に領地や領民の事を考え、毎日領地に出て身を粉にして働いて。

領主様や親父の背中を見て学んでいる姿をずっと見続けてきたのだ。


俺みたいな脳筋馬鹿を友達と呼んでくれるし、遊んだり、仕事したり、まあ喧嘩だってする。


だから、とは言わない。

命の全てを賭けれるとも、まだ言えない。


けど、腕の1本分くらいなら犠牲にしたって構わないとは言える。


だけど衆道だけは勘弁な!


持ってる情報を、それがどんなに卑怯なものでも利用してでも。


ここを。家族を、友達を守りたい。

少なくともコイツをあのヒロインと恋をさせるのだけは阻止したい。


ホントにそれだけは勘弁してくれ。一度見に行ったがアレは見てくれがいいだけの毒婦以外の何者でもねぇぞ。


とりあえずの目的はそれでいいだろう。


それに・・・


「なんだ、随分いい空気吸ってそうな顔してるね?またなんぞ悪巧みでもするのかな?」

「知らんな。俺は俺の仕事をしてるだけだぜ?鉱山開発とか開拓とか魔物討伐とかな」

「楽しくは、ならんだろうね。君の顔を見る限り。この間の勇者の話が何か関係あるのかな?」

「有るが無い。奴らがうちの領の土を踏む事は無いんだから、な」


なんせ何の問題も起こってない。


確かに魔物の量は増えたが他の領で問題になってもうちでは自前の戦力でどうにかなるレベル。

問題になるであろうボスクラスも既に潰した。


これから出るであろう問題にも最低限の対処はしたし、

勇者達が入ってこれないよう政治的な動きはアトリの親父さんが既に動いてくれてる。


ククッと喉が鳴る。

口の端が釣りあがるのがわかるくらいの愉悦の気分。


もうひとつの目的を思う。

ゲームに関してもう少し、覚えていた事があった。


ストーリーの流れにある程度沿えば、

この領に被害が及ばないうちに同年代最強といわれる奴と戦える機会があるのである。


本来ならモブである俺が出会う事も交流する事も出来ないような相手と、だ。


コレを生かさない手は無いよな。


ああ、楽しみだなぁ、と。


血湧く、血湧く。


今生の我が侭マイボディは割と好戦的なんだ!

男の子なんだよ!暴れっぱなしなんだよぉ!


さあ早く早く、戦おうぜ。と煮えたぎる戦闘民族の血である。母さんの血だな。間違いない。


だがそんな男の子に待ったをかけて、領地の事を考える。

友達大事。平和っていいよね!迷惑かけない程度に暴れよう!


割と冷静に混乱してる自分は間違いなくもやし父さんの血だな。間違いない。


前世がどうだとかは知らん。この世界は冒険に、危険に溢れてる。いいね。

いつだって前のめりに行こう。死んだとて、もう一度死んだ身だろう?


平穏な日常?よろしい。拳で守ろう。

陰謀絡みの勇者達?知った事じゃあない。

封印された邪悪な遺物?最初から無かったかのようにぶっ潰せ。


乙女ゲーム?ストーリー?知らんな。


そんなもの最初の前提から終わらせてしまおうさ。


手が引かれる感触。


「どうした?」

「君は、…その」


迷うように目線が揺れている。

何か言いたげなのは分かるんだが。


「…晩御飯は、何がいい?」

「肉で」


こんなんだから衆道とか言われるんだよな。


「あー…なんか珍しく、拗ねてるみたいだが?」

「一人だけ蚊帳の外に置かれれば拗ねたくもなるさ。父上も君も僕を除け者にするのか」


まあ気づくか。関わらせないように色々画策はしてることぐらい。


だが、割とすっぱりと物事を言うコイツにしては言葉を濁すのは珍しい事である。


「君が何かを成すとして、君の隣で一緒に事を成したいと思うのはいけない事かい?」

「そうは言わんがね」


お前が巫女に惚れる可能性があるから出来るだけ遠ざけておきたい、とは言いにくい。


そして、


「俺が知りたいだけだからなぁ」


ここで生まれた俺が、どこまで強くなれるのかを。

あの閉塞した現代では見られなかったような高みの景色を。


バカみたいな望み。


この世で一等一番強い男に。男の子だもの。そんな自己満足を目指したい。


「それこそ、僕が隣に居たって何の問題も無いだろうに。

 君は高く飛べる奴さ。あんな勇者よりずっと高く、ね」


まっすぐに、真剣に軽い笑みをのせて。

なんてことないように嬉しい事を言ってくれる。


「そして、僕はそれが見たいだけさ」

「過大な評価だな」

「オークキングを正面から倒した奴が何言ってんのさ」


呆れたように笑いあい。いつも通り。

このいつも通りを守る為に。


乙女ゲーム?だがそんな事は知らん。

ヒロインヒーローそっちは勝手にやってくれ。


こっちはモブなのでお前らの思惑なぞ知らんので勝手に動きますよっと。









「で、いつになったら貴様の愚息はうちの娘に気づくのだ?」

「うーん。賢しいふりした山猿だしなぁ、うちの息子。

 君の娘さんの男装趣味をやめさせれば気づくんじゃない?」

乙女ゲーで百合は禁断だと思う。

だけどサバサバしてて宝塚系の飄々とした男装令嬢がふとした時に見せる乙女な一面とかは大変によろしいと思います。

男友達のように気軽に付き合って、小馬鹿にしあってるけど互いに信頼しててその場にいなくてもあいつなら大丈夫とか言い合える素敵な関係の恋愛小説が見たい。山もオチもなさそうだけどネ!


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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒロインという名の毒婦に近づかないように友人に注意するいい子ですね。
[一言] 面白かったんですが、乙女ゲームの隠しキャラが女の子って変だと思います。
[良い点] 面白かった [一言] 良い区切り方なので、これでこの話は終わりでも十分なのですが、続編も楽しめそうだなと期待してしまいます。余裕があれば是非続編をお願いします。
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