戦場に血は流れる
「離れろ!! 戦闘の邪魔になるな巻き込まれるな、あの方を戦いに集中させるんだ!!!」
兵士たちが急いで撤退していく。どうやら東木の出撃時には全兵士の撤退命令が出されるというウワサは本当だったらしい。そりゃそうだ、東木が本気で能力を使えばここら一帯は焼け野原になるだろう。彼の存在はまさに "戦争" そのものなのだから。
だがまぁさすがに自軍の本拠地のど真ん中でそんなことはしないだろう。なにより兵士がいないこの状況はおれ的にもやりやすいわけだし、たとえ相手が英雄とはいえ十分に勝機はある。
さっきの空砲で上に向けられていた戦車の主砲が、ゴトンと蓮に向けられた。 ………来る!!
爆音とともに放たれた弾はまっすぐに蓮に向かって………蓮は左手を突き出し、それを受け止めた。
受け止めたと言うより "吸収した" と言ったほうが正しいかもしれない。表面の金属が彼の左手に溶け込み、弾は速度を落としながら彼の中に沈んでいった。
「ほう……それがお前の能力か。」再び撃とうと東木が意識を移したその瞬間、さっきの弾丸が彼の戦車に突き刺さっていた。
対戦車用の弾ではなかったため戦車の装甲は破れないものの、衝撃でバランスを崩した東木は地面に着地する。
「アンタさっきのだけでおれの能力を見切ったつもりだったのか? なんだ、英雄ってのもずいぶん早とちりのポンコツなんだなぁ。」
左手を突き出した蓮は、そのまま地面を蹴って東木に突っ込んでいく。
「糞生意気な……ッ!!」東木は再び戦車を操作し、当たらないならばと蓮の足元の地面に照準を合わせて撃つ。
避けきれず爆風で少し横に吹っ飛ばされながらも蓮は走り続け、無数に喰らって溜めこんでおいた兵士の銃弾を、彼に向かって目眩まし代わりにぶちまけた。
"目眩まし" とはいえ、それはもはや量も威力もショットガン。東木はとっさに無数の軍用ナイフを召喚して広範囲にシールドを展開する。キーンと耳鳴りがして、走馬灯が……………くそ、記憶が…ぁ。
東木の能力の代償でできた一瞬の隙に蓮は素早く回り込み、背後を取る。
「その首、もらったァ!!!」
右手の太刀が、東木に、振り下ろされて……………
ずぶっ
なにが起こったか分かっていないような顔。蓮の口元からは一筋血が溢れる。深々と槍が刺さった胸。そこから出た血が服を赤く染めていき、蓮はその場に力なく倒れ込む。
「ポンコツだ? ………ハァ、そりゃどっちのことだよ糞が。」頭を押さえたまま、東木は蓮を睨みつけている。
蓮はずっと能力を発動していた。ナイフが見えたからなおさら意識はしていた。金属なら彼には効かないはずであった……そう、金属なら。
彼の腹に刺さっていたのは、"竹槍" であった。
呻き転がり回る蓮に、東木はさきほどシールドにしていたナイフの切っ先をすべて蓮に向ける。
余裕と体力がなくなり蓮の目からは能力の文様が消えていた。ナイフに気づいてなんとか回避を試みても遅い。蓮の身体には次々と無数のナイフが降り注ぐのだった。