第壱怪奇 後ろの正面
『ねぇ、早苗。何か怖い話とかないの?』
京都のとある大学の秘封倶楽部。部室の中は椅子と机しかなく、唯一何かあるとすれば机に置かれたPCとエアコン。部室にはカタカタとパソコンのキーボードを打つ音とセミの鳴き声が響き渡っていた。傍から見れば只の雑談部である。唯一活動があるとすれば心霊スポットに部員自ら赴き、それを活動記録として学級新聞に載せることである。
『蓮子、無茶言うのはダメよ?早苗ちゃんだって最近入部してきたばかりなんだから。』
『いえいえ、私だって伊達に巫女やってませんから!』
蓮子の無茶ぶりを止めに入る金髪の少女は、マエリベリー・ハーン。通称メリー。曰く珍しい体質の持ち主で、結界が見えるらしい。その他心霊スポットの危険な場所が分かるため、彼女なしでは心霊スポットには赴かない。一方、無茶ぶりをされている緑髪の少女は東風谷早苗。曰く守矢神社の巫女なのだと。無茶ぶりをする茶髪の少女は宇佐見蓮子。曰く星を見ただけで現在時刻が分かり、月を見ただけで現在の位置が分かる。そう。曰く。
『では、私が最初に遭った霊体験でも話しましょうか。』
先程までの明るい声色は何処へ行ったのやら。少し暗い。それでいて恐怖心を掻き立てられる声で、緑髪の少女は話し始めた。心なしか先程まで涼しかった部屋はエアコンが付いているはずなのに生温く、蝉の鳴き声はいつの間にか止んでいた。それも気味が悪い程の静けさで。
『これは私が小学校低学年くらいの時の話です――――』
――――その日は何時もより蝉が五月蠅く、外の風は妙に生温かった。夏休みだったという事もあり友人4人と川辺に遊びに出かけていた。当然ながら水遊びや鬼ごっこをして時間を潰し、気付けば夕方になっていた。そろそろ帰ろうかな。そう告げようとしたとき、突如誰かが。
かごめかごめをしようよ。
帰らなきゃと思う気持ちより、もう少し遊びたいと思う気持ちの方が高く。いいよと了承してしまった。そこからだった。恐怖の始まりは。円になって一人が真ん中で正座し、顔を屈める。
か~ごめか~ごめ。
回っているうちに何か気付いてはいけない事に気付く。その違和感。明らかに一人多い。誰かは分からないが、回っている間に数えても五人になる。一人抜いて四人にならなきゃいけないのに。正体が暴けないまま私が真ん中になる。底知れない恐怖の中で。
か~ごめか~ごめ。か~ごのな~かのと~り~よ。い~つ~い~つ~で~や~る。よ~あ~け~のば~ん~に。つ~るとか~めがす~べった。
後ろの正面だぁれ?
…聞いたことの無い声。この世の物では無い声。だぁれだ?そう聞く後ろの声に答えてはいけないと第六感が言う。答えてはいけない。振り向いてはいけない。
だぁれだ?
ねぇ。
ダァレダ?
『~~~っ‼』
正体を聞いてくるその声は徐々に人の声じゃない。そんな声に歪んでいく。底知れない恐怖に自然と体が震えていた。もしこの声に答えてしまったら、私は死んでしまうのだろうか。五月蠅い…五月蠅い‼黙れ‼と心の中で必死に唱える。歯を嚙み締め、目を必死に閉じて。
後ろの正面、だぁれだ?
『黙れ‼』
――――気付くと、布団の上だった。起き上がって加奈子様と諏訪子様に聞いてみると、屈んでいる状態からいきなりばたっと倒れたらしい。何があったんだ?という加奈子様に起こった事全てを話した。それ以来。どうしてもかごめかごめをしている子供を見ると、どうしてもその出来事を思い出す。一体、あれの正体は誰で。私に何を求めていたのだろうか。あの時の事を友人に後ろの正面が誰だったか聞いても誰も覚えていなかった。というか。皆記憶がちぐはぐで誰もその日の出来事をちゃんと覚えていないらしい。
『――——というのが、私の体験談です。』
気付けば部室の中は嫌に静かで。先程まで、生温かった部室はは涼しくなっていた。
『鳥肌が止まんないわ…なんかごめんね?こんな話させちゃって。お詫びにファミレス奢るよ。』
『いえいえ♪今となっては何とかお祓いできますから!』
『じゃあ早苗ちゃん、蓮子。行きましょうか。』
こうして、先程までついていたエアコンのスイッチを切り、部室を後にする。蓮子さん。メリーさん。私の順で。そのとき不意に部室から聞こえた気がする。その声。
後ろの正面。だぁれだ?
何も答えずに、そのまま部室の扉を閉める。微かに子供の舌打ちの様な声が聞こえた。よっぽど私の顔が青ざめていたのだろうか。後ろを振り向いたメリーさんにどうしたの?大丈夫?と声を掛けられる。
『はい♪大丈夫です!』
こうして、学校を後にした。
読んでいただきありがとうございます。
夏の間更新しておりますので拙いですが、よろしくお願いします。