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DREAM DIVER  作者: 坂田クロキ
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DREAM DIVER 2020年特別編「大晦日」


ジェシカはふと手を止めて時計を見た。時刻は十一時半過ぎ。もう少しで日付けも変わる。しかし今日はただ曜日が変わるだけじゃない。


「…年末か……」


今日は大晦日、もうすぐ年が変わるのだ。そのまま手を休めて視線を窓の外にやる。パソコンの画面を見過ぎて、急にはピントが合わない。目も休めたほうが良さそうだ。他業種の多くもそうだが、ここ『Dream Lost Syndrome(ドリーム・ロスト・シンドローム)治療室――日本支部――』にも休みという二文字は無い。今日は偶々、患者の不在と十二月三十一日という日が重なっただけだ。いつDLS患者が運び込まれてくるか分からない。年末年始なんてものは全く関係無い。それでも上司、また同僚として、クルーには休みを取ってもらいたいものだ。家族がいるクルーには特に。牧田は家で妻と子どもが待っているし、織田や神山も親がいるだろう。浅井とマックは家族らしい家族はいないが、激務を担ってくれている大事な捜査官だ、こんな日くらい休みをくれてやっても良いだろう。独身者が犠牲にならなければいけないような風潮を肯定している訳ではないのだが、大抵の事態は自分がいれば何とかなる。必然的に自分が出ることが既に決定していたのである。


「何だか淋しいわね……」


そう言って嘆く。一人が、というのではなく、こんな状況でも何とも思わない自分に少し呆れてしまう。仕事は、“好き”というものではないのだが、やりがいは感じているし、休みがほぼないことを苦に感じてもいない。


「最早生きがいとまでも言うのかしら……わたしも相当なワーカホリック気味ね」


そう呟いて苦笑する。幸いにもというか、副監理官としての仕事は山ほどある。通常の潜入捜査の間に滞った事務作業をこなしていく。


「総監の大変さがよく分かるわ……」


目の間を揉みながら、これからはもう少し自重しよう、とも思う。その彼も、もちろん別室の総監室で事務処理中だ。窓の外の人通りや車の流れを遠目に眺める。皆地元に帰省したりするのだろうか。そう考えてふと自分のルーツについて思いを馳せる。自分は日本で生まれたけれど、本家はヨーロッパにある。高校を出てからはそこにいたこともあったが、また日本に戻って来た。この人種や国籍が混じりつつあるダイバーシティで、自分のルーツ、というのも今更な話だが。そんなどうでも良いようなことを考え始めてしまうのも、年の瀬だからか。ジェシカは軽く溜め息をつくことで、生産性の無い長引きそうになる思考を振り払った。


「おーい、副監いるか〜?」


そこに呑気そうな声と共に事務室の扉が開いて長髪の男が入ってくる。浅井だ。


「アンタ、こんな時間にこんなトコで何してるの?」


いると思わなかった人物に、思わず呆れた声が出る。


「そりゃねえだろ?そっちこそ、今日は大晦日だってのによ、仕事なんざしやがってよ」


『ほらよ』と、浅井がジェシカにエナジードリンクを手渡す。手渡されたそれに、ジェシカは深い溜め息を隠さない。


「もうちょっとマシな物持ってこれないの?栄養ドリンクだなんて、色気のイの字も無いじゃない。せめてワインの一本でも寄越しなさいよ」


「あんだよ、せっかく俺が気を遣って来てやったんだぜ?てか、酒飲みながら業務禁止じゃねえか!」


「冗談よ。何なら貴方も手伝っていってくれても良いのよ?この仕事」


「いや、無理!!」


そう言って示されたPCの画面に並んだ文字と数字を見て、浅井の脳は即座にそれに拒否反応を起こした。パソコンから飛び退いた浅井は、そのまま踵を返して手を上げる。


「じゃーな、まあ無理するなよ?どうせまた明日には会うんだろうけどよ」


「そうね、昼頃には楽しい初夢から目覚めないDLS患者たちが運ばれてくるでしょうね」


「笑えねえな、それ」


苦笑する浅井が背中を見せながら手を振り、ドアから出て行った。再び訪れた静寂。窓の外にはいつもと変わらない風景、でもどこか去る年を惜しむ哀愁と、新しい年への希望と願いを込めた喜びと光を帯びた空気が漂っている。


「……新しい年、か……どんな年になるのかしらね……」


そう言いつつも、深くは考えない。きっと毎日仕事に追われて、去年と変わらぬ忙しい年になるのは目に見えている。だが、それと同時に“仲間”の良さを認識できる一年にもまたなるだろう。


「……今年も一年楽しみね……」


そう囁くと、再びパソコンの前へと向かう。


日付はいつの間にか変わっていた――……。



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