DREAM DIVER Real or Game?6
「ようこそ!冒険者登録はこちらです!」
他より少し大きな石造りの建物の中に入ると、大勢の人で賑わっていた。筋肉隆々の体の大男、蜥蜴が服着ているような人物、腰に大層な剣を提げた青年、ドレスだか鎧だか分からないような服を着込んだ美少女等々……。そんな多種多様な人たちが、木で出来たテーブルと椅子でお酒らしき飲み物を飲んでいる。神山はその人混みを通り抜けて、様々な声が飛び交う中、耳に飛び込んできた登録を誘う声の場所へと足を急がせる。受付と思わしきカウンターには何人か人がいて、神山は手の空いていた、髪と耳が長い可愛らしい女性に話しかけた。
「…新しく登録をしたいんだけど」
「新規冒険者登録の方ですね!職業はもうすでにお決まりですか?」
「…魔法使いで…」
「魔法使いですね!あとお名前も伺ってもよろしいでしょうか?ここで登録するお名前が、あなたのここでの呼び名になります」
「……名前か……」
そう言われて、ふと神山は考える。せっかくこの全く違う世界に来ているのだ。何も現実と同じ名前にする必要はない。かと言ってあまりに奇抜な名前を付けて、黒歴史にしたくもない。そもそも今ここにログインしているのは神山晃典、父親の名義でなのだ。しばし考えて、簡潔なそれを口にする。
「……『アキ』…、でお願い……」
「かしこまりました!それではアキさん、この水晶の上に手を乗せてください。これで登録が出来ますからね」
そう言って受付嬢は、両手のひらで抱え込むような形の丸く透明な球体をカウンターに置く。それに言われるがままに手のひらを掲げた。すると、その水晶が明るく光って、数字や文字のようなものが周りを回ったかと思うと、スッと消えてまた元の様子に戻る。一瞬名前が漢字で見えた気がした。しばらくしてその女性が、銀色の金属で出来たプレートを取り出した。
「はい!これでアキさんの冒険者登録は終了致しました!これはこの世界での身分証明になるものです。失くさないように、身に付けた場所を“覚えて”おいてくださいね」
「…分かった……」
シルバーのプレートをよく見ると、この世界の言語なのかよく解らない象形文字の下に『神山 晃典』という文字が浮かび上がっていた。グラフィックの細かさに、現実に手にしてはいないのに、実際に持っている感覚になる。革紐のついたそれを首からぶら下げ、ローブの中に仕舞った。ちなみにローブの中は、普通のTシャツと動きやすい半パンだったりする。受付の女性が再び話し始めた。
「依頼はあちらの大きな掲示板でご覧頂けます。自分のレベルと相談しながら挑戦してみてくださいね!それと、ここでは一人で、または何人かでパーティーを組んで、一緒に任務を達成するかを選ぶことができます!それぞれメリットデメリットがあります。ソロだと、自由に依頼や行き先が選べ、自分の好きなペースで旅をしたりレベルアップしたりできますが、総合のレベルが低く、職業も固定されていますので、結局最初は中々やりたい依頼をすることができないかもしれません。逆にパーティーメンバーになると、依頼の選択や、行き先の選択肢などの決定の自由度は仲間との折り合いのゆえに制限されるかもしれませんが、総合的にレベルは高くなりますし、攻撃や防御のバランスも取れて様々な依頼に挑戦しやすくなる、というメリットもあります!どうなされますか?」
「…パーティー、ね……」
神山は考える素ぶりをしたが、そんなもの最初から答えは決まっている。パーティーだ仲間だなんて面倒くさいものに入るつもりは毛頭無い。そんなものに入ってしまったら、何のために親バレ、身バレの危険を冒してまでVRゲームのオンラインプレイに手を出したか、意味を成さなくなる。自分が得たいのは凝り固まったそんなものからの解放なのだから。
「パーティーには入らない。ソロでいくよ…」
「そうですか、分かりました!必要であればまた後でパーティー登録することも可能ですので、遠慮なくカウンターにおこしくださいね!それでは良い冒険を!」
可愛い笑顔を見せながら受付嬢は頭を下げた。彼女に見送られ、神山は早速掲示板を見に行く。そこは電光掲示板というか、巨大な電子タッチパネルのようなものに見えた。よく見えないな、と神山が手を伸ばすと、見たかった情報がズームされ神山のステータスウィンドウに表示される。
「…なるほど……」
思わず声を漏らす程上手く出来ていた。そこで自分のレベルに合った依頼を探す。
「僕のランクはFだから、この辺りか……」
薬草取りや小さな動物的モンスターの駆除が並んでいる。その中の一つをチョイスして出かけることにした。場所はこのギルドから遠くはないらしい。
「……いよいよだね……」
らしくなく、ワクワクする気持ちを抑え切れずに口角が上がる。少しの緊張とそれを上回る好奇心、高揚感。樹で出来た杖を握り締めて、神山はギルドの扉から出て行った――……。
「おっはよー!カミヤマ!」
「おはよう、ヨコタ…」
次の日、学校への道程を歩いている神山に声がかかる。朝から元気な友人だ。その友人、ヨコタは、神山の首にガシっと腕を回してグイッと自分のほうに引き寄せる。
「なあなあ、カミヤマさんよ〜、結局昨日は何の用事だったんだ〜?ん〜?」
「…ガラの悪い絡み方しないでよ……」
また昨日の続きか、と溜め息が出る。本当にどうしてここまで他人の言動にこだわるのか。友人と言えど、理解できない。しかし、邪険にして関係が拗れるのも宜しくない。神山は昨日から考えていた言い訳を口を開いて述べた。
「…実はプログラミングのほうで新しく勉強を始めてね……」
「プログラミングっていうと、パソコンでするアレか?前にカミヤマが兄貴のコンピュータのロック解除してたよな?」
ヨコタが神山の顔を見ながら歩き出す。やっと首が解放された。
「ああ、アレはあんまり良くない使い方なんだけど……まあざっくり言うと、プログラミングを勉強すると、新しいシステムを開発したり、コンピュータ上の色々なやり取りが分かる、ってくらいかな……その恩恵で生活が便利になったり、ネット上のセキュリティの脆弱性とか見つけて、より情報を強固に守ったりする助けにはなる。その知識を悪用したのがこの間のクラック行為だけどね…」
「すまん、カミヤマ、さっぱり分かんねーわ…」
ヨコタは頭が痛い、という風に右手でおでこを覆った。その仕草に苦笑する。学校の校門が見えてきた。
「何つーか、お前がスゴいってーのは分かった。てか、カッコイイよな!!俺もやってみてえ!でも絶対難しそうだよな……」
「……もしやるなら、オススメの塾とか先生教えてあげるよ…?」
「カミヤマが教えてくんねーのかよ」
「僕は人に教えるのはムリ」
「ははっ!かもな、お前頭良すぎるもん」
「誉め言葉と思っとくよ……」
手を振りつつ軽く返して、付け加える。
「……そうそう、それでそっちのプログラミングのほうの勉強に集中したいから、しばらく一緒に遊べなくなりそうなんだ……ごめんね…」
案の定その言葉にヨコタは盛大にブーイングをした。
「ええ〜っ!!何だよそれ!!つまんねーな、お前だったら頭良いんだから、その勉強しながらヨユーで遊べるだろ?」
「さすがに僕も完璧じゃないんだから、限界だってあるよ……」
主に時間の限界が惜しい、と内心神山は思う。学校に着いてからもずっとヨコタは不満だ!とばかりにブーブー言っていたが、学校帰りの別れ際には諦めた様子になった。それでも、と食らいつく。
「せめて日曜日くらいは一緒にゲームしようぜ?」
「……守れなかったら悪いから、約束はしないでおくよ……」
「おまっ、どんだけ!?」
最後のほうはヨコタに引かれながらも、神山は最初のスタンスを貫き通した。
「……やれやれ……」
ほう、と溜め息をつきつつヨコタを見送る。トボトボと帰るヨコタを見ると少し罪悪感も湧いてくる。しかし、それを振り切るように神山は自分の家のほうへと歩き出した……。
「……ただいま………」
「…あ、お帰り、今日は……」
「悪いけど、しばらく学校とパソコンの勉強で忙しくなるから、ご飯は置いといてくれたらいいよ……」
「ちょっ……」
母親の言葉を遮り、二階へと上がる。鞄を下ろし、服を着替えてPCの前に座った。起動させ、ログインする。昨日の続きからだ。
「今が五時過ぎだから、六時間くらいはできるかな……十二時には寝ないとね……」
カタカタと指を動かしながら時刻を計算して、プレイする時間を逆算する。パフォーマンスの低下を防ぐためにも、睡眠時間はなるべく確保したい。提出するよう求められている宿題は、とうに学校の授業の合間に済ませている。明日の予習なんて数ヶ月以上も前には終わっているのだ。
「…適当にご飯食べて、おフロは明日の朝でいいか…シャワーを浴びていこう……」
セットアップとログインが終わった。神山の目の前に“懐かしい光景”が広がる。この世界で拠点にしている宿屋の部屋だ。簡易な木で出来ているベッドと造り付けの棚があるだけだが、中々居心地が良い。ひょっとするとリアルの自分の部屋よりも。胸元の身分証明のプレートを握り締める。神山の今のランクはA。FEDCBときて、昨日の一晩だけでここまで上がった。
「今日はどこまで上げられるか……」
身なりと装備の使い具合などを確かめながら、神山は頭の中で復習する。あとはSとSS、SSSランク。ランクを上げるには、依頼をこなして経験値を貯めたり、訓練をして試験を受けたりと色々な方法があるが、面倒くさいので、神山は自分のランクより高い依頼を次々受けていた。そうすることによって、どん!と経験値が入るし、そのままランクアップしたりもするからだ。この抜け道的システムは良いと思う。
「…今日も楽しみだな……」
頭に被ったフードの下で、ひそかに笑んだ……。




