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DREAM DIVER  作者: 坂田クロキ
22/25

DREAM DIVER Real or Game?4


「……ただいま………」


家に帰ると、神山は小さく呟いてすぐに自分の部屋へと向かう。母親が何か言った気がするが、構わない。二階へと足を運ぶ。


「……ふう………」


学生鞄を置いて窮屈な制服を着替え、パソコンデスクの前へと座る。電源を入れて、カーソルに指を滑らせた……。


「……さて、と……」


神山の顔がブルーライトに照らされて、青白く光ったーー…。


(……ゲームは、いい……)


速やかにログインしながら神山は思考する。ゲームにもルールはあるし、パターンもある。こちらのほうがテンプレート化されていて、同じ動作の繰り返しではないか、と思う人もいるかもしれない。だが、ゲームは“例外”が無い。というよりは、予期せぬ事態が起きない。ある程度設定やストーリー展開に余白を持たせているゲームもあるとしても、それには一定の規則があって、それに気づいてしまえば自分で操れる。自分の望む展開へと、持っていけるのだ……。それに比べて、と神山は口を開く。


「…現実なんて、毎日同じことの繰り返しのくせに、時々想定外のことが起きるんだよね……全く意味もない……」


はあ、と神山は息を吐く。神山はリアルの日常がパターン化した退屈な繰り返しでありながら、時折起こる予測外の出来事に振り回されることがあるのが心底嫌いだった。


「同じなら同じで、全く変わらない日々を繰り返せばいいのに……」


薄暗い思いを低い声でぼそりと呟く。その間も手は別物のように動いていて、どんどんゲームを進めていく。昨日手に入れたゲームとはまた別のゲームだった……。これもこのまま行けば、今日中に全部クリアするだろう。手を動かしながら並列思考する。


「…時代が過ぎて、今が歴史になったとしても……ただ生きてる人が変わっただけ。人間のすることは何一つ変わらない……」


そう言って神山はふと、手を止めた。父親や母親、学校の友達のことを考える。学校に行って勉強をして、友達としゃべってくだらないことで笑って、家に帰って親と会話して、ご飯を食べてお風呂に入って、寝て起きてまた学校に行ってーー……そうして中学高校大学を卒業したら、そこそこの会社に入って、仕事を覚えて、毎日職場に行って仕事をして、夜になったらくたびれて家に帰ってご飯を食べて風呂に入って寝たらまた起きてーー……。神山は思わずクッ、と笑った。


「……父さんも母さんも、友達も他の大人も、みんな同じことをしてる……」


そんな社会の歯車の様な人生が嫌なわけじゃない。働くのが嫌だとか言うのでもない。替えのきく人間になりたくない、と叫ぶわけでもない。


「……でも、それだったら僕じゃなくても出来るよね………」


皮肉な笑みを浮かべながらも、彼の瞳は笑ってはいなかった。そう、自分はただ、そんな生活に何の意味も見出せないだけなのだ………。






「……何つーか、お前やっぱり小難しいこと考えて生きてたんだな……」


神山の話に耳を傾けていた織田がしみじみとそう言った。水のボトルを弄ぶ。


「哲学的っつーか、そりゃ『ドリームロストシンドローム』にもなるよな……というかそれ、俗に言う『中二病』ってヤツじゃねえのか?」


「うるさいな……そう言うオリタはどんな学生時代だったのさ?」


段々と失礼なことを言う織田に、神山は若干むっとしながら、言い返す。


「…俺?……俺か……俺は、そんな何も考えてなかったぞ?人生がどうとか、毎日が退屈だとか……毎日当たり前のように学校行って、飯食って、友達と遊んでーー…いつの間にか『ドリームダイバー』になってたな」


「…それはまた簡略的だね……」


神山が呆れた様子で肩をすくめる。ついでにスナック菓子に手を伸ばした。


「反抗期とか、無かったの?」


「…反抗期なー……突っ張る理由も無かったというか……ホント何も考えてなかったぜ?平々凡々なガキだったからなあ……お前は?」


「……まあ、自分はしてるつもりは無かったけど、親……特に母親からしたら、そうだったかもね……」


「まあそんなもんだろ」


織田が水を一口飲んだ。菓子をつまみながら、神山が尋ねる。


「オリタは、いつぐらいからドリームダイバーになろうって思ったのさ?」


「ドリームダイバーなあ……これも本当に漠然となんだけどな……新しい人気の仕事って感じで、中学生くらいから頭にあったなー……本格的になろうって思ったのは高校生辺りからだけど。そっから養成所行って、試験受けて、今に至るよ」


「こっちもずいぶんざっくりだね……でもま、そんなフワッとした感じでもダイバーになれたってコトは、オリタもこの仕事に才能あったんだとは思うよ」


「お前に誉められると、何かそんな気もしてくるよな」


織田が軽く笑って言った。


「…で、人生に退屈していた中学二年生のカミヤマはどうしたんだよ?」


「……嫌味な言い方だな……」


「まあまあ」


冗談めかして言った織田を目を細めて睨みつつ、神山は再び記憶の海のダイブへと、彼を誘う……。






「ひと味変わったゲーム……?」


神山はそう聞き返す。今日も神山にとっては苦痛な、何の代わり映えもしない一日が終わろうとしていた時、彼の友人が声をかけた。友人はとびきりの笑顔を見せて頷く。


「そう!俺の兄貴が持ってるゲームなんだけどさ、超面白いんだって!!」


「…へえ……」


「あ、お前、あんま信じてねーだろ?ホントだから!ってなワケで今日ウチ寄ってけよ。兄貴は夜まで帰ってこねーからさ、それで一緒に遊ぼうぜ!」


「……お兄さんにバレたらマズいんじゃないの……?」


苦笑しつつ神山が言う。だが、彼の中でもそのゲームに興味はあった。彼自身これまで数多くのゲームをしてきた。そこそこ楽しめたのもあれば、ハズレだな、と感じたものもある。今更、今まで見たことのない、度肝を抜かれるような興奮するゲームに出会えるとは、もう思ってはいない。それでも、だからこそと言うべきか、友人のヨコタの勧めるゲームも、一度見てみたい、やってみたいと思ったのだ。


「だからバレないようにやるんだって!」


「触ったら、動かした跡とか履歴で絶対バレると思うよ」


「まー、バレたらその時はその時よ!大丈夫、データさえ消さなければ、兄貴も許してくれるはずだ!」


「…結局、バレるの前提でやるんだね……」


ヨコタの兄が潔癖なゲーム狂でないことを祈るばかりであった……。


「ただいまー」


「あ、お帰りー。あら、お友達?いらっしゃい」


「…お邪魔します……」


「どうぞどうぞ、ゆっくりしてってねー」


ヨコタの家に入ると、彼の母親に迎えられる。それを背に二階の彼の部屋、否、彼の兄の部屋に入った。


「そこに適当にくつろいでいてくれよ」


「ああ……」


友人は階段を降りていく。失礼にならない程度に部屋を見渡す。恐らく社会人か大学生だろう友人の兄の部屋は、落ち着いた色の家具でまとめられていて、小綺麗に片付いていた。その中で神山の瞳を一際惹いたのは、パソコンデスクの下の存在感のある黒いボックス。明らかにゲーム専用機のコンピュータである。一見普通そうな見た目のPCディスプレイのその周りには、それ関係のツールや、スピーカーやマウスや個性的なキーボードなど、機器が充実している。それらが、整然とデスクの上に収まっていたーー……。


(……なるほど……ゲーム好きなのは確かなようだね……これなら期待できるかも……)


心の中で密かにそう神山が思ったことなど知らずに、ヨコタが戻ってくる。手には盆の上に乗せたガラスコップに入ったお茶があった。それを置きつつ、ヨコタがぼやく。


「お待たせ!母ちゃんに捕まっちまってた。この前のテストの点が悪くてさー、ゲームばっかしてないで勉強しなさい!ってさ」


「じゃあ、今日は勉強会にする?」


「かんべん!勉強は明日からするからさ、今日はこれ!また今度な、カミヤマ勉強教えてくれよな!」


「はいはい……」


そう言って明日も勉強ではなく、ゲームをしているのだろうと神山は思った。そんな神山を横に、ヨコタは何やらガサゴソと漁っている。


「……何やってんの……?」


「ん〜探し物〜、確かこの辺にあったはずなんだけどなー……」


兄のパソコンデスクの周りの棚やら引き出しやらを、手で探し回る。この時点で、もう兄にはこの部屋に入ったことがバレると思う。と、引き出しの奥からヨコタが何かを引っ張り出した。


「あったあった!コレだよ!」


「……これは…“VRゴーグル”………?」


その薄い色付きのサングラスのようなそれは、神山も一度は見たことがあるものだった……。


「そう、それ!この前さ、これ着けて兄貴とゲームしたんだけどさ、もう迫力がすごいの何の、臨場感ハンパねえんだよ!ぜってーお前も気にいるだろうと思ってよ」


「…確かに面白そうだけど……」


興奮気味にこのゴーグルの凄さ、ゲームの面白さを伝えてくるヨコタ。神山も“それ”は使ってみたいゲームのツールの一つだった。だが……。


「でもヨコタ、“それ”って年齢制限付きだよね?」


『VR(ヴァーチャル・リアリティ)ゲーム』――別名“仮想現実ゲーム”――、それは二十一世紀初頭から流行りだした特殊なゲームである。簡単に言うと、仮装、つまり現実ではない作り出された世界で、まるでそこにいるかのように遊ぶことである。二十一世紀の終わりくらいには、一般にも割と浸透してきていたのだが、それによって弊害が起きた。ゲームにのめり込むあまり、寝食を忘れて体調を崩したり、会社や学校に行かなくなって引きこもりになったり、家族がそれぞれ違うゲームにはまって、仮想現実で各自家族を作り生活を営んで、家庭が崩壊したり……。それだけではない。現実と仮装の区別がつかなくなって、おかしくなってしまった人たちもいた。VRゲームのせいで、リアルの日常生活に支障をきたす人々が出てきたのだ。それで政府は制限を設けた。その一つが年齢制限だ。


「僕たち未成年者は、買えないし、プレイもできないはずだよ」


神山が自分の記憶から情報を引っ張ってくる。ゲームをしない人間ならば、これもあまり知ることのない情報なのだろうが。その神山の言葉にヨコタが答える。


「そうだっけか?そう言えば、一緒にプレイした時に兄貴がそんなこと言ってたような気もするな……まーまー!カタいこと言わずによ、俺やった時どうもならんかったし、カミヤマなら全然大丈夫だろ!兄貴も法律なんてあってないようなもんだから、バレなきゃ大丈夫!って言ってたし」


「……君のお兄さんの性格を疑ってしまうよ……」


ヨコタの豪快な笑い声に、神山の溜め息が零れた……。ヨコタが待ちきれないという風に、VRゴーグルを神山に渡す。手慣れた様子でPCの電源を入れる。


「…パスワードとか知ってるの……?」


「ああ、任せとけ!兄貴が入力してるの横で見てたから」


そう自信満々に言ってキーボードを操りだすヨコタ。しかし次に画面に現れたのは残念なことにエラーの表示だった。


「あっ、ちっくしょう!兄貴のヤツ、パスワード変えてやがる!どうすっかな……」


ヨコタがマウスを握り締め、悔しがる。そんなことだろうと思った、と一人ごちて神山が長く息を吐いた。


「ちょっと貸して」


そう言って横からマウスに手を伸ばす。キーボードと椅子も奪って、ディスプレイを見た。


「何すんだ?」


「……ちょっとね……」


神山の目が画面に注がれる。キーボードを指で叩くリズミカルな音が部屋に響いた。しばらくしてーー…。


「…よし、開いた……」


「…うっ、わー!!本当に開いた!!マジで映画みてー!!お前やっぱりスゲーなあ!!」


タンッ、という最後のキーを打ち込んだ音がして、画面が変わる。そこにはロックが解除された画面があったーー……。


「やっぱ、お前連れてきて良かったよ。持つべきものは、カミヤマだな!」


「…何だよそれ……」


また変なことを言っているヨコタに、神山は再度長い溜め息をついた。そんな神山にゴーグルを着けるよう促し、自分も装着しゲームのセットアップを始める。


「ささっ!やろうぜやろうぜ!!」


「そんなに急かさないでよ……」


自分の背中を押してくる友人に、本日何回目になるか分からない溜め息を神山はついたーー……。


(……つい成り行きでパソコンのロックを解除しちゃったけど、まあ、しょうがないよね……もうすでにやってしまったことをくよくよ考えても仕方ないし。パスワードを解除した痕跡は消してあるから、ま、バレたら偶然で通すしかないか……)


プログラミング魂がうずいて、うっかり手を出してしまった。これで紛れもなくヨコタの片棒を担いでしまったことを憂いながら、神山はゴーグルを装着するのであった………。




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