DREAM DIVER Real or Game?3
「おはよっす、カミヤマ!昨日新しく出たゲームやったかー?」
「ああ、おはよ、ヨコタ……もちろん。もうクリアしたよ」
「うっそ!マジで!?お前、ホント早えーよなあ……」
学ランを着た中学生らしき男の子たちが賑やかに話をしながら学校へと向かっている。一人は黒髪の明るい雰囲気の男子生徒。もう一人は色素の薄い髪色をした、少し小生意気な雰囲気の、男子学生だ。その少年――『神山 晃仁(カミヤマ アキヒト)』――は、友達の言葉に時々相づちを返しつつ歩を進める。学校に着いて教室に入ると、色んな所から挨拶が飛んでくる。
「おはよー」
「はよー、昨日出たゲームやったか?」
「まだだ、この前のテストの結果次第って親に言われてさあ…自信ねーわ……」
「そうそれ!ウチもなんだよなあ…」
「フッフッフッ、何を隠そうこちらにおわすカミヤマ様は、もうクリアしたってよ!!」
「ちょっ、おまっ!マジで!?マジなの!?カミヤマ!?」
「……まあね………」
神山の答えに男子たちのテンションが一気に天井近くまで跳ね上がる。
「スッゲー!!スゴ過ぎる!!昨日だぜ?昨日の今日だぜ!?」
「しかもアレ、ネットの前情報ではステージ百以上あって、難易度激高の激ムズの、何かもう、クリアさせないために作ったんじゃねえのって言うくらいのヤツだろ?」
「さすが神山、やっぱお前神だわー……」
「何言ってんのさ……」
大げさだ、と言う風に、神山は溜め息をついた……。男子たちの会話は続く。
「お前、本当にゲームの天才だよな……」
「ってか、それでいて勉強も出来るってズルくねえ?」
「そうそう!俺なんてゲームの時間削って勉強しても、ちっとも頭に入りやしねえ」
「そらお前、やらしい動画ばっか見てっからだよ」
「るせー!カミヤマなんて家帰ってほぼゲームだろ?何でそんなに勉強も出来るんだよ」
「フフン、我らがカミヤマ様は頭の作りが違うのさ!」
「おい!どうしてお前が威張るんだ!」
「友達のよしみってヤツ?」
「…ヨコタ、それ使い方違うよ……」
友の言い間違いを直しつつ、神山は再度溜め息をついたのだったーー…。
「それでその攻略方法はよ……」
「おはようー!皆、席に着けよ〜」
朝の朝礼の時間が来て、教師が教室に入ってくる。
「ヤベ、カミヤマ、また後でな!」
「ああ、了解…」
周りにいた男子生徒たちはそれぞれの席へと急いで散らばって行く。出欠を取り、今日一日の予定と注意事項の確認を教師から聞き、挨拶をして次の授業へと向かう……。いつもの一日の始まり、いつもの日常、いつものーー……。
(……ああ……“退屈”だな………)
何の変わり映えもしない毎日。神山は席から見える窓の外の景色を眺めた。校庭では違うクラスが体育の授業でサッカーをしている。ひたすらボールを追いかけて何が楽しいのか。
(…いけない…授業を聞いてる“フリ”しないと……)
先生に目を付けられたくはない。前を向いてノートに手早く黒板の文字を書き込む。このノートに関しても思うことがある。
(…今時タブレット持ち込み禁止だなんてどうかしてるよ……)
一時期、電子端末による授業というのが持て囃されたが、生徒たちの学力低下と、教師の監督が追いつかないのとで、今はまた紙のノートと鉛筆に戻りつつある。このことは、何事も合理的に事を進めたい神山にとっては、呆れるレベルだ。それに数学の勉強なんて家で独りでも出来る。
(この問題も、前に一度解いたことあるしね…)
公式を当てはめれば難なく解ける。国語も社会も理科も英語も、一つの答えがあるのなら、そこに至る最速で最善の道を見つけ出して、テンプレート化して覚えてしまえば良い。後はどれだけ問題や解くルートが変わろうとも、決められた式を使って、予想する結果を導き出すためにその枠の中身を弄って組み合わせを変えてやれば良い。幾通りもの過程を全部やってみたり、同じ問題に何回も取り組んだりするのはナンセンスだ。勉強に関してそう思う彼は、殊、日常生活に関しても同じように感じていた……。
(毎日同じことの繰り返しで、よく皆飽きないもんだね…)
神山にとっては、この日常はひどく退屈なものに思えた。チラリと、教室内を見渡す。誰が誰のことが好きで、誰が誰に告白して、誰と誰が付き合ってる。どこそこの組の誰々が一番可愛い。好きな芸能人は誰で、自分は誰々のファンだ。どこそこのカフェは雰囲気が良くて店員が格好いい。いつぞやのテストの点がイマイチだ。親と喧嘩している。次の体育は長距離走で嫌だ。理科の教師は鬘らしい。昨日出たゲームは難しい………。
「……はあ………」
神山は小さく息を吐き出した。ぐるぐると眩暈にも似た感覚がある。ノイズがひどい。毎日似たような会話を繰り返し、同じような反応をして、同じ型にはめ込まれた生活を繰り返す。ちっとも建設的じゃない。よく何もない日常が一番幸せだとか言うけれど、そのただ惰性で生きる日常に幸福を見出せない自分はどうしたら良いのか。
「……何で皆気付かないんだろうね………」
そう口の中で呟いて神山はまた窓の外に目を移した。空が晴れ過ぎて薄く霞んでいる。そんなぼやけた天気に眉間に皺を寄せて、気怠げな視線を一つ落とした……。パターン化された日常を何の疑問も無く送る彼らと、その退屈な現実に気づきながらもまた、そのサイクルに取り込まれて、そこから抜け出す力の無い自分に溜め息をつきながらーー……。




