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1 ヒロイン宣言ッ! 1-4

4 


「「ラッキーパンツ!?」」

 

 桜と秀一の声が重なる。


「そう、ラッキーパンツですよ。パンツ! 『あ、パンツ見えたラッキーフッフゥー♪』のあのパンツです! ……時に、お兄さん、パンツは好きですか? あぁ勿論男のパンツでしたなんてケチなオチはつけませんのでその辺りはご安心下さいっっ!! さらに付け加えるならば……そうですね。高校二年生、ピチピチ、女子……イヤ美少女のッ!」


「アンタ、一体何を!?」


 突然世迷い言をのたまう葵に桜が声を荒げる。

 葵がパンツを見せろなどと言い出したら流石に協力など出来ない。かといって、ワタシが見せますはいどうぞと脱ぎ始めてもそれはそれで全力で止めるべき案件だ。


「勿論、あくまでラッキーの範囲です。凝視させてしまうのは流石に忍びない。ですが、正直にお答えくださいッ!! たかがパンツと侮るなかれ、これはお兄さんが伸るか反るかの交渉なんです。ワタシが賭けに勝てばその要望はお兄さんの『常識』を奪ってしまう。築いてきた当たり前の『当たり前』が崩れてしまいますッ! そして不肖この国穂葵、そのヴァージンを戴いてしまうことになりますフヘヘッ!」


 伸ばした指先をおでこに当てる桜。また始まった、とでも言いたげなポーズだ。


「シンプルな事ですッ! ワタシが勝てばお兄さんは『予知能力』を信じて下さればいい。そして我々に運命を任せることを約束して下さればいい。常識を喪失してしまったお兄さんのせめてもの慰みに、ワタシから贈るのが、パンツなんですッ! 心に空いた喪失感を、空虚を、その風穴をッ! 一瞬の(なま)パンツの輝きで満たして下されば実に幸い。空虚にパンツを詰めて今後の人生を強く健やかに生きて欲しいと願うのですよッ!」


「何かすごいパンツ万能説だな!!」


 パンツパンツと連呼する葵。彼女は秀一がパンツを全知全能の神と崇め奉り信仰しているとでも思っているのだろうか。パンツさえあれば如何なる艱難辛苦をも乗り越える戦士だと思っているのだろうか。それともパンツ自体にに復活薬並みの治癒力があると思っているのだろうか。


「勿論、ワタシはお兄さんが賭けに勝てば何でも望みを叶えるでしょう。全身全霊、身を粉にして! いかに厳しい労働でも、どんな淫らな願いでも受けて立ちましょう!! だけれど悲しい事にお兄さんは絶対に勝ちません。奇しくもワタシの予知能力は実在するのですからっっ!! 故にお兄さんが勝った時の話はお兄さんが勝ったら聞くと言うのが手っ取り早いと提言します!! ……さてどうでしょう。……もう好きか嫌いかではありませんね。お兄さんの未来への不安も予知能力という未知のものに対する心配も、パンツと等価交換にしませんかッ!?」


「要するに目の前で予知能力の実演をするから文芸部を信じろってことだろ? それなら構わない。もともと昨日の予言で予知能力を信じるのも吝かではないと思っていた」


「あぁ、エクスタシィ……」


 恍惚の声を上げ小指を噛む葵。表情もそうなのかもしれないが、如何せん眼鏡で隠れて表情までは読み取れない。視界の外から「ふ~んパンツ見たいんだ」とやけに低い声が響いてきたのを秀一は聞き逃さなかったが、聞こえなかったという脳内設定でやり過ごすことに決めた。


「では、早速準備をしましょう! 花ちゃんも一役買って貰いますよっっ! 拒否はダメです標的が花ちゃんに移ってしまいます。その場合大変18禁めいた事になります!!」


「葵、今アンタさらっと酷い事言ったでしょ!?」


 ーーこうして葵の下準備が始まった。秀一には何のことやら全く理解が出来ない内容だが、事の顛末を見届けるまでは口出しはしないでおこうと決意して従う。


 葵はまず中央に置かれていたテーブルを10センチほど壁側にずらし、少しだけ窓側に角度を付けた。入り口側からちょっとだけ離れるような感じになる。次に、入り口の扉の向かい正面に椅子を動かした。窓に半分背もたれがかかる程度、ややテーブル寄りに調整し秀一を手招く。そこが今回のスポットということだろう。秀一は言われるが儘着席した。


「お兄さん、これはお兄さんのためのデモンストレーションなんです」


 不意に投げかけられた言葉に、秀一は「あ、あぁ」と短く反応した。


「手段も、スケールも違いますが……あと詳しいことは言えませんが、要するにお兄さんを救うというのはこういう事なんです。既に決定している結果に過程を制限しコントロールして、都合のいい状態でその時を待つ、そういう事なんです。だからこれが成功したらお兄さんは不安とか捨てちゃいましょ、そうしましょう……むぐむぐ。全て計算してワタシがハッピーエンドに導きますから! それを今から証明して見せますからむぐむぐ……」


「いい事言ってる感じで何貪ってるの!?」


 はい、ご存じバナナです。そう言い切って皮をポイ。秀一は「バナナ……皮……パンツ……」と嫌な予感を募らせる。というかそれしか考えられない。バナナを食した葵は棚の脇にある洗面所兼流し台のようなもので手を洗い、手近にあった雑巾を浸して軽く絞る。そして柔らかくたたみ、テーブルの端の辺り、秀一の近くへ放った。


「それでは花ちゃんはここに立っていて下さい。ハイ、勿論何もしなくて構わないです。マナちゃんが体制を崩しても支えないで下さい。手を出したら花ちゃんがラッキーパンツしてしまいます」


「やっぱりあの娘が狙いだったのね……はぁ……」


 テーブルの中心から数歩、入り口から対角線を少し外した辺りに桜を立たせた。最後に葵は元の席に戻り着席する。明るい皮の腕時計と暫く睨めっこし、ふぅと息を吐いた。


「では、これから大体三分後くらいに、結果的に奇跡的なドジッ娘が部室に飛び込んできますっっ!! その娘のラッキーパンツと賭けの敗北をお兄さんはしっかりと目と心に刻み込んで下さいッ!!」


 ーーオペレーション・ジェノワーズ、開始っ!!!


「ちょっ、何その掛け声!?」


「作戦名です。毎回変わるので覚えなくて結構です……シッ、お静かに、お静かにですよっ!!」


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