二章/5~/7
/5
「ところで、ルーミアは、今まで何をしてたの?」
何となく気になって、聞いてみる。
曰く、ただ当てもなくふらふらしているだけだと、言っていたけれど、
どうにも、それだけではない気がする。
違うと、否定されたのなら、それまでの話なのだけれど。
「ん~少し、ね」
そう答えて、彼女は静かに微笑んだ。
「……大丈夫だよ。残される辛さは、これでも分かってるつもりだし」
彼女が何年生きてきたかは知らないけれど、そこには相応の重みがあるように、
私には感じられた。
彼女にも、かつては想った人がいたのだろうか?
いや、私には関係のない話か。
「それはさておき、緋亜こそ、仕事は見つかったの?」
「人に大仕事を押し付けておいて何を言ってるのかな?貴女は」
そもそも、私一人に家の修繕を任せるほうがどうかしているのである。
私は、妖怪ではないのだから。
当の妖怪はというと、楽しそうに笑っていた。
/6
人形師がやってきたと、大声で騒ぎながら、
子供達が駆けていった。
アリス、だったか。時折人里に来ては、
オーケストラの真似事をして、人気を得ていた。
「先生、先生、一緒に行くぞ」
後ろから走ってきた少女が、急に立ち止まったかと思うと、
私の服の袖を引っ張りながら、そう言う。
「ああ、こころさんですか。一緒に行くのは構わないのですが、
しかし、以前洋楽はよく分からないと言っていましたが、
急にどうしたんです?」
「ん、師匠が、聞いてももねぇのに何言ってるんだと、
お怒りだったからな。少しは聞いてみようと思ったんだ」
「ああ、なるほど。では、お供致しましょう。
…… ?」
ふと、誰かに呼ばれた気がして、けれども、気のせいだろうと流した。
/7
一つ、真っ黒な唐傘を差して、人里へ向かう。
なけなしのお金を叩いた、食材の買い出しである。
ルーミアが、どこからか稼いできたというお金がなかったら、
明日あたりは断食していただろう。
どうしてあの博麗の巫女はお金に困っていないのか、
実に不思議である。
どう見ても、参拝客なんていなさそうなのだが。
いや、妖怪神社なんて言われるぐらいなのだから、
妖怪のほうの参拝客はいるだろう。
……あそこは一体何の神様を崇めているのだろうか。
まあ、外の世界からやってきた私が考えたところで、
外の世界から忘れ去られた神様のことなんて分かるわけがないのだけれど。
「――あれは、博麗の巫女ですか」
噂をすればなんとやらとでも言うのでしょうか?
雨の中、まっすぐに飛んでいく巫女の姿を見つけました。
その周囲を、なにか不穏な空気が包んでいるような気がしましたが、
あの巫女なら何とかするでしょう。
私と彼女とでは、生きている世界が違いますしね。