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銀弾の射手~Der Freischütz~  作者: 明日は月曜日 (集団children)
転校生は魔法使い
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Chapter.5「昼下がりの間抜けなバトル」

「今日のお昼どうする?天竜君も誘う?」


四時間目の授業が終わった後、いつもどおり寿々は愛に昼食の予定を訊ねた。


「なっ、何で?私がアイツと一緒にお昼食べなきゃならないのよ?」


黒羽が特三の隊長であるということは、正式な辞令が降りるまで、クラスにはもちろん、学校側にも一部の者を除きまだ内密だということを、生徒会メンバーは西岐波から聞かされていた。


「何で…って、転校生教育係でしょ?」


寿々はきょとんとして答えた。


「ああ、そっちの方ね」


愛は自分がそんな業務内容がよく分からない職務に就いていることをすっかり忘れていた。

今思えば、愛の魔力が強いからというより、射手関係者だから黒羽のサポートとして任命されたのかもしれないと愛は思った。


「そんなどこの馬の骨とも分からんやつより俺と飯に行こうぜ」


そんな会話をしていると、見たくもない顔が急に声をかけてきた。


「げっ」


声のする方をみると、例の見たくもない顔とやらの先輩が立っていた。


「岡村先輩」

「なんだよ、御挨拶だな。せっかくわがマネージャーを部長自ら迎えに来てやったってのに」

「誰が我が部のマネージャーなんです?それに私小雨さんに転校生教育係に任命されたんで忙しいんです」

「転校生教育係って何するんだよ?だいたい、昼飯一緒に食うことがどう関係あるんだ?」


痛いところを突かれた愛であったが、


「だから、その…そう、食堂、食堂よ。今から転校生に食堂の場所を教えて、それから食券の買い方とか…」

「へーそりゃごくろうさん」


岡村との会話で意識がそっちにいってなかったからか、話の張本人がそこに居るのに愛は気付かなかった。


「黒羽!」

「誰だお前?」


黒羽の言葉はもちろん、このクラスに居るはずのない岡村に向けたものである。


「ああ、お前が転校生だな。俺はこの伊吹愛がマネージャーを務める野球部部長岡村将太だ」

「だから、違います!!」

「大層な肩書だなあ、…まあ、人のことは言えんが…。ようは岡村だろ」

「っああ?」


岡村はすごんだが、黒羽はどこ吹く風だ。


「さあて、飯でも食うか」

「そう、それ、ちょうど今、あんたに食堂を案内してあげようと思ってたのよ」


黒羽が昼食のことを話し始めたので、これ幸いと、愛は黒羽を食堂へ連れていく計画を実行した。


「いや、俺もうコンビニでパン買って来たんだが」

「何言ってるの、あんたがそんなもんで足りる訳ないでしょ?ほら、さっさと来る」

「えー」

「えー、じゃない。じゃあ、先輩そういうことで」


そう言うと愛は黒羽の手を引っ張って行った。


「ちょ、ちょっと、愛」


慌てて寿々は愛達の後を追いかけて行き、廊下には岡村がポツンと取り残されていた。


「ちっ」







「あ?要は俺をだしに使ったてことか?」

「まっ、まあいいじゃない。それくらい役に立ちなさいよ」

「てめえ、隊長に向かって…」

「隊長?」


黒羽を引っ張ってきた愛は後ろについてきた寿々と合流し、注文した昼食を受け取ると、テニスコートが見える日差しの良い席の一番奥の席に陣取っていた。


「あっ、あはははは。何でも無い、何でも無い」


寿々は必死に取り繕う愛を見た後、黒羽に顔を向けると、黒羽はお茶をすすりながら答えた。


「何でも無い、何でも無い」

「まあ、いいわ」


それ以上追及しても答えは返ってきそうになかったので、寿々はこの質問をやめる事にした。


(まあ、機会があればいつか教えてくれるでしょ)


「で、なんで、毎回毎回あんたは先輩の告白断ってんの?」

「へー、毎回断ってんのか。そりゃあ毎回だしにされてるやつは大変だな。ぜひとも、慰労のことばでも送ってやりたいもんだ」

「失礼ね。だしに使ったのはあんたが初めてよ!」

「威張るな!」

「で、何で?」


寿々が答えを促した。


「えっ?だってタイプじゃないし」

「…あんた、ぱっと見ものすごく贅沢なこと言ってるわよ?そりゃ、あんた綺麗だけど」

「そう?お世辞でもうれしいな。一応私女の子だから。まあ、おだてられても付き合わないけどね」


他人の色恋沙汰に巻き込まれた黒羽はややうんざり気味だ。


「いいじゃねえか、付き合えば。お前みたいなガサツな女がいいなんて言うもの好きはこの先半世紀は現れねえぞ」

「うるさい!あんたには関係ないでしょ」

「関係無い俺を巻き込んだのはお前じゃねえかっ!?」

「あーもう、男のくせにごちゃごちゃと、済んだことはしょうがないでしょ?覆水盆に返らずってことわざしらないの?」

「水こぼしたのはおまえだろ!?俺はその覆水をかけらただけじゃねえか」

「……」


そのあと、延々と三十分ほど繰り広げられた舌戦を寿々は黙って見ていた。





「天竜!!」

「またお前か」


六時間目の終了後、掃除時間に黒羽と愛、その他の班員が渡り廊下を掃除していると、声をする方に目をやると、件の岡村がそこに立っていた。


「お前、ここのルールを知らないのか。転校生のくせにずいぶん粋がってんじゃねえの?」

「さあ、粋がってるかどうかなんて知らん。なんせここのルール知らないもんでね」

「アンタはまた話をややこしくして」


そう言った愛が岡村の方をみると、怒り心頭か、はたまた呆れているのか岡村は何かブツブツ言っていたが、


「さーて、さっさと掃除終わらせて仕事、仕事」

「あっ、ちょっと」


勝手にスタスタ行く黒羽をみて、愛はその影を追いかけた。


「ちょっと、そっちじゃないわよ」

「じゃあ、どっ…」


黒羽の言葉は岡村の絶叫に阻まれた。


「ここのルールはな……強さがすべてだ!!!!!」


「っ!!?」


後ろからする声に振り替えると、愛の眼の前には炎の槍がこちらに向かって飛んで来ていた。しかも二本。


同系列のしかも自分より弱い炎術であったので、愛は避けるか自分の炎術で掻き消すかどうか迷っている間にその炎の槍の一本は目の前だった。


「じゃあ、俺はルール守ってるじゃねえか」


ひゅうと風が炎を切る音がした。


「?」


今の今まで目の前にあった火の槍は、円を描くように回された黒羽の腕から先、そこに見えない壁でもあるかのごとく、愛の眼の前で消えていった。


「…何?」


そう思ったのもつかの間、コントロールの定まらなかった二本目の槍は愛の足元、つまり、渡り廊下を破壊した。


ふわっとした感覚が愛を襲う。


(ああ、今私落ちてるのね…)


破壊され、支えを失ったそれは、そこに居た者たち、黒羽と愛を巻き込みながら重力に従って落ちて行った。


(ああ、もう。走馬灯のように浮かぶ思い出…もなくこんな死に方って一体)


自分の終わりを覚悟した愛はそんなことをどこか他人の様に思いながらいたが、何かに引っ掛かって感覚で、急に現実に引き戻された。


「危ねーなぁ。何ボ―としてんだ?」

「へっ?」


みると、愛は黒羽の両腕にすっぽり収まっていた。所謂それはお姫様抱っこというやつで。


「えーと、これは夢?」


そうだ、確かに自分は渡り廊下と一緒に下に落ちていたはずだ。

が、しかし、今こうして自分は上官でありまた部下でもある男の腕の中にいる。こんな奇抜なシチュエーションは、夢でもないとそうそうあるものではない。転校早々ロクに学校に来ない黒羽に教育係として色々と考えさせられたために、夢の中までこいつが現れたのだ。ついでに顔も見たくない岡村まで出てくるのだ。夢から覚めたら、黒羽に文句の一つでも言ってやろう。


なんだ、どうせ、午後の授業で眠くなってうたた寝してしまったのだろう。そう確信しようと心に言い聞かせようとすると、その現実逃避は愛を支える張本人によって見事に打ち砕かれた。


「何寝ぼけてんだ?寝るんなら保健室にでも行けよ」


そう言われて下をみてみると、はるか下にさっきまで自分たちがいたそれは見事に砕けていて、自分はと言えば…


「きゃああああああああああああああああああああ」

「うるさいやつだな。耳元でそんな大声出すな」


愛が絶叫するのも仕方のないことで、彼女を支える黒羽の足を支えるべき床がそこには無かった。


「うっ、うっ、浮いてる!!!」

「はぁ?当たり前だろ、俺は『風の支配者(バハムート)』なんだからよ」

「なんでもありかっ!?あんたはっ!!」


つまりこいつは空を飛んで然るべきとおっしゃってるわけだ。


「こらー!そこで何をやっている!」


騒ぎを聞きつけた教員たちがぞろぞろとやってくる。渡り廊下を壊した張本人は、ことの大きさにこそこそと腰を抜かしながら教員とは別の方向に去っていった。


「何をやっているかって、見ての通り、人命救助なんだがな」


黒羽はぼそっと呟きながらも、ゆっくり下に降りて行った。




「いったいこれは何の騒ぎ?」


掃除場所が音楽室であった寿々は、帰って来るなり愛に尋ねた。


「まあ、話せば長くなる訳でして」

「どうして、渡り廊下をふっ飛ばした訳?」

「私じゃないわよ」

「じゃあ誰が?」

「岡村先輩よ」

「じゃあやっぱり原因はあんたじゃない?」

「なんでよっ!?原因は黒羽のせいよ」


寿々は、じゃあ、やっぱり原因はあんたじゃない。と言いたかったが黙っておくことにした。


かの天才魔術学者ガルティア・クレイが開発した増幅装置は、すべての魔術の伝達条件を解明したわけではないが、魔術の使用する点では、何の問題もなかった。ただ一つの魔術を除いては。

その魔術こそが、『ウィンド』である。日本においては風術と呼ばれるそれは魔力の源が他の魔力と性質が異なるのか、伝達条件の過程が全く異なるのか定かではないが、クレイの装置では、使用できない。つまり、文明界の人間は『ウィンド』を使用することが出来ず、今日に至る。


「で、その張本人は今どこにいるのよ?」

「ああ、小雨さんが連れて行ったけど」


―――渡り廊下から無事帰還してすぐ、小雨がやってきた。


「あんた、何やってんの?」

「俺は何もやってねーよ」

「まだ、あんたのこと教員全員が知ってるわけじゃないんだからね」

「まあ、知ってたらそこのおっさんみたくならんだろうな」


そちらをみると、第一発見者の教員が、(う、う、浮いてる?浮いてる?…なぜ)などと呟いている。

そんな会話をどこか遠いところで聞いていると、


「ところでさ、愛はいつまでそこに居んの?」

「!!」


そこで愛は自分が置かれている立場に気がついた。さっきから、ざわついてる野次馬たちが、自分たちでは使えるはずもない魔術を使用している見知らぬ不審者をみる感嘆の声に交じって、別の意味で騒いでいる輩が黄色い声をあげているのが聞こえたからだ。


「離せ!」

「おい!暴れんなって」


言ったが、そんなことで落ち着く訳もなく、腕の中で暴れる巨大魚よろしく、愛は黒羽の腕の中でもがきまわっている。そんなことをしていると当然…


「きゃあ!」


腕からこぼれおちたその体は、そのまま地面にたたきつけ…


「!?」


られなかった。みるとそこにはやはり、見えないクッションでもあるように黒羽の風術が愛を受け止めていた。


ぺたん


へたり込む愛を確認すると小雨は黒羽に言った。


「いいから、とりあえず黒羽は私と一緒に校長室へきて」

「はいはい。んじゃあ、愛、悪りィけどここの掃除よろしく」

「はぁ!?ちょっと何勝手にきめてんのよ!」


そう言ってはみたが、黒羽と小雨の背中はもうはるか遠くに見えていた。

残ったのは元々廊下だったがれきと愛だけであった。




「で、今までそのがれきを片付けてたわけ。まったく、どういうつもりなんだか…」

「へえ、それは御愁傷様。まあ、本人に聞けばいいんじゃない?帰ってきたみたいだし」

「えっ?」


振り返ると、小雨に連れられて黒羽が教室に入るところだった。


「みんな、知ってる人もいるだろうけど渡り廊下がこの馬鹿のせいでぶっ壊れちゃったから、これからのことも含めて臨時会議が開かれるわ。今日の授業はここまで、じゃあまた明日!」

「えーーーっ」


様々に意見が交わされているが、とりあえず午後から授業が無くなったことに関しては皆幸運と判断したようだ。そこへ、


「ねえ、さっきのどういうつもり?」

「何が?」


自分の席の後ろで自分の荷物を纏めている黒羽に質問した。


「あんたなら、廊下壊さずに事態を収拾できたと思うけど…」

「ああ、まあ、そうだな」

「じゃあなんで…」


「黒羽!!早くしな!」

「へいへい」


そう言って荷物を適当に突っ込んだ鞄を持ち上げると、黒羽は愛の方を振り返り、


「悪い、とりあえず全部明日にしてくれ」

「ちょっ…」


それだけ言って黒羽は小雨に校長たちが待っている会議室に連行されていった。




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