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銀弾の射手~Der Freischütz~  作者: 明日は月曜日 (集団children)
転校生は魔法使い
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Chapter.3 「鴉が鳴く」



全ての音がどこか遠くでなっているような感覚であった。そこに現れた男はその場の全ての大気を支配していた。



激しくも穏やかな出会い、それが私たちの本当の始まりだったのかもしれない。


「あんたっ!何やってるの!!?」


愛は一瞬呆けていたが、すぐに現状を把握すると、大声で叫んだ。


「何って、そうだな…現況をそのまま報告するなら、サーベルを受け止めてるな」


確かに、愛の方から見ると、黒羽は振り下ろされたサーベルを左手で受け止めているように見えた。


「そうじゃなくって、何でこんなとこにいるのかって聞いてんのよ!」

「いや…なんでいるかって聞かれてもな…」

「後ろ!!!!」


愛は素早く自分の炎をサーベル状に形成し、サイボーグの左手から振り下ろされたもう一つのサーベルを防ごうと黒羽の前に出た。


「うぉっと」

「!?」



確かに黒羽とサイボーグの間に入ったはずの愛であったが、気付くと黒羽に首根っこを掴まれ、二メートル程サイボーグから離れた距離に立っており、サイボーグのサーベルは空を切っていた。


「何やってんだ、お前?」

「あんたこそ何人を猫みたいに扱ってくれてんのよ。何やったか知らないけど、危険だから一般人は引っ込んでなさい!」

「一般人ねえ…」

「学校での模擬戦とは違うの!あれはOZが対魔術師用に開発したサイボーグ『TOP』で、魔術反射の特殊装甲を持っているから、ちょっとやそっとじゃ効かないの。一瞬の判断ミスが命取りになるのよ!」

「さっきみたいにか?」

「うっ、さ、さっきのは相手を油断させるための作戦よ」

「あっそ…」

(っていうか、本当にさっきの攻撃で効かないわけが…)


そう言うなり、愛は自分のサーベルを球状にして件のサイボーグめがけて放った。


「何…?」


愛の放った炎はTOPの装甲に間抜けな音とともに弾かれた。


「ふたつ訂正だ、軍曹…」

「えっ、何で私の階級を知って…」


疑問に思う愛を残して黒羽はTOPに歩み寄った。


「まず、あいつはTOPじゃない…、あれはOZが最近開発した新対地球人用遠隔式潜入型戦闘兵器『ビヘッド』だ、現行の…一般的な蓄魔器でほとんど役に立たないほどの耐魔性だ。対処法は…」


ターゲットを黒羽に変更したビヘッドが再びサーベルを振り下ろす。


「圧倒的魔力で破壊する」


黒羽が腕を振るとビヘッドが真っ二つになり、上半身が宙を舞い、耳をつんざく音を立て地面に落ちた。


「訂正ふたつ目、俺は一般人じゃない…」

「ご苦労だったな」


振り向くと、パーマの少しかかった少し長めの黒髪に無精ひげを生やした、二十代後半の背の高い男が立っていた。


「西岐波隊長」


西岐波(件の元特三の隊長である)は後ろに居た部下たちにビヘッドの回収およびOZの拘束を命じると、二人に近づいてきた。


「俺からも訂正だ、伊吹。私はもうお前たちの隊長では無い」

「えっ、それじゃあ転属先が決まったんですか」

「ああ、といっても第一特務隊だからちょくちょく顔を合わせる事があるだろうがな」

「特一って、エリート部隊じゃないですか!おめでとうございます!」

「まあ、また下からやり直しって訳だ」

「じゃあ、うちの隊長はもういらしてるんですか?」


巷の噂(高校の中のごく一部)では愛が隊長に昇格説が有力であったが、射手では実務年数が十年以上で無いと隊長にはなれないため、愛には隊長になることは無いことが分かっていたので、新しい隊長が転属してくることは分かっていた。


「何を言ってる?お前の後ろに居るじゃないか」

「えっ」


振り返るとそこには、二人の会話をボーっと聞いている天竜黒羽その人が立っていた。


「どこにも居ませんけど」

「一体どこを見ているんだ?居るじゃないかここに」


そう言うと西岐波は頭をかきながら話を聞いていた黒羽の肩を叩いた。


「あぁ?」

「紹介しよう、第十八支部特務隊から転属になった天竜黒羽中尉だ」

「えっ、えっ?」


愛は西岐波と黒羽の顔を見比べていたが、しばらくして…


「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


と、しっかりと原稿用紙三行分叫んだあと、愛は立て続けに思いの丈を述べ始めた。


「何で!?これが!」

「まったく、上官捕まえてこれ呼ばわりとは…」

「だいたい、さっきのは何をしたの!なんでビヘッドが急に真っ二つに…」

「もしもーし」

「そもそも、隊長は実務十年で、でもこいつは同級生で、私はこいつの教育係で、その人が私の上官で」

「聞ーてねーな」


ひとり混乱している愛を放って、黒羽は西岐波に話し始めた。


「でも、まさかこいつがお前の言ってた出来る部下とはね。しかも、聞きゃあ他のやつらも全員学生らしいじゃねえか」

「おいおい、何を言ってる?俺の部下はどいつもこいつも立派に射手やってる頼れるやつらだぜ?そもそも申し送りちゃんと読んでないお前が悪いんだろ?」

「ここに着くまでに読んだよ。けどなあ、隊長が俺ってことは全員が高校生だぞ。射手での未成年の発言が聞き入れられないのは周知の事実じゃねえか」

「まーたまた、そんなこと全く意に介さないくせに」

「まあ、そりゃそうだけどよ。そういう問題じゃねえだろ。仮にも隊として動くんならいざって時にちゃんと動けねえと困るぜ」

「まあ、全国には学生の隊員もそこそこいるんだし、何とかなるだろ。何しろこの人事異動は神原さんが噛んでるからな」

「まったく、あのオヤジの考えは昔っからさっぱり分からんぜ」


「まあ、期待してるぜ。『十八支部(いまち)の八咫鴉』さん?」

「八咫鴉!?」


ふたりが話している間も何やらぶつぶつ独り言を言っていたが、八咫鴉という言葉を聞いて愛は急に黙り込んだ。


「何だ?急に黙りこんで」

「…」

「ん?」

「これが『八咫鴉』!!?」


思いっきり黒羽を指さして叫んだ。


「てめぇ、さっきからこれこれこれって、人を物扱いしやがって、しまいにゃあ怒るぞ」

「てことは、あんた『風の支配者(バハムート)』なの?」

「はいはい、俺の意見なんかどーでもいいのね」

「いいからさっさと答えなさい!生徒会長命令よ」

「隊長の権威はあったもんじゃねぇけどな!!」


黒羽は右手を腰にあてて答えた。


「まあまあ、天竜、これじゃあ話が進まねえよ。伊吹もちょっと落ち着け」

「はっ、はい」

「なんなんだ、この態度の差は?」


不平を隠さない黒羽だったが、これでは本当に話が進まない、というより会話にならないので黙っていた。


「伊吹、じゃあ改めて言うけど、こいつは今日付けでお前たちの隊長だし、射手の意向で皆風学園に転校したし、十八支部の八咫鴉だし、俺たちとは違って器械なんて使わなくても魔術を使用できる純正の魔衣師なんだよ」


魔衣師とは、魔術をまるで衣のごとく纏って戦う様から、上位魔術師の呼称となっている。ちなみに、どんなに優れた文明人の魔術師でも、魔衣師とは呼ばれない。


「じゃあ、急にあいつが真っ二つになったあれは風術を使ったわけね。魔衣師って初めて見た」


『あいつ』とは、もちろん足元に転がっているビヘッドのことである。


「ああ、そうかい」

「でも、何でそんな十八支部のエースがわざわざここに?確かに最近襲撃事件が多いですけど、何もそんな遠くから呼び寄せなくても」

「その答えはあいつだよ」


黒羽が指差したのは自分が真っ二つにしたビヘッドであった。


「さっき言ったよな、新型は強力な魔術で無いと破壊できないって」

「ええ」


今度は大人しく愛は答えた。


「その強力って基準は曖昧だがこれだけは言えるのが280Mi / min程度の性能の蓄魔器じゃ役に立たねえってことだ」


Miとは、魔素の量の単位で、質量を持たない魔素のその単位は、ガルティアが最初に作った蓄魔器の限界量を1Miとしている。

つまり、280Mi / minとは、最初の蓄魔器の二八〇倍の魔素を一分間に取り込む性能を持つということである。


「じゃあ私のこれは150Mi / minだから…」


そう言いながら自分のイヤリング型の蓄魔器に触りながら黒羽の答えを待った(ちなみに未成年が150Mi / minの蓄魔器を使いこなすことは大したものである)。


「焼け石に水だな」

「そんな」

「てことで、蓄魔器を必要としない『魔衣師』のご登場ってわけだ。」


そこで西岐波が話を続けた。


「政府は今、射手に性能のいい蓄魔器の配備を全力でやっているが、生産が間に合って無い状態だ。だから、応急策とし各隊に一人ずつ『支配者』クラスの隊員を配備することになったんだ」


「へぇ、そうだったんだ」


『支配者』とは、魔衣師の中でも、自分の体内に魔素を取り込まずとも周辺の魔素を操り魔術を使用できることのできるものである。


「おかげで十八支部(うち)は今はもぬけの殻だがな」

「そう言えば、十八支部ってほとんどが『支配者』なんですよね」

「ああ、そうだ。俺も初めて十八支部に行った時はビビったぜ」


西岐波は遠くを見ながら答えた。


「まあ、おかげでうるっせーのが居なくなってせいせいするがな」

「あんた、さっき散々私に言ったくせに上司に向かって大口叩くわね」

「いいんだよ、全員親族だ」

「へ?」


泡を食ったような愛に構わず、黒羽は続けた。


「だ~か~ら、し・ん・ぞ・く。従兄に伯父に爺さん、婆さん。右も左も知った顔ってわけ」

「何なの…あんたの一族」

「東方の五竜。つまり、火竜、地竜、水竜、雷竜、天竜を姓に持つ日本式魔術の五大一族のひとつさ」


西岐波が答えた。


「なんか、聞いたことある。確か授業で」

「正確には、その一族を支部の一つとして向かいいれたといったほうが正しい表現かな」

「まあ、詳しくは説明されてはいないだろうがな、元々閉鎖的だったからな、うちは。それに政府も噛んでるらしいしな」


黒羽は大きくため息をついた。


「まあ、昔色々あったから仕方ないさ」

「!!」


黒羽の顔が一瞬曇ったが、すぐにまた元の調子に戻ったので愛は気がつかなかった。


「いつまでもしつこいんだよ。終わった事だ」

「何の話?」


そこで、西岐波が話を変えた。


「まあ、それはいいじゃねえか」

「隊長、自分で言ったんじゃ…」

「とにかく、今日本の多くの魔術師や俺たち器械者はガルティア・クレイという偉人も手伝ってほとんどが西洋式魔術だが、知っての通り全ての魔術は自然界に存在する魔素を使用するわけで、地域によって魔素の濃度は違う訳だから当然その土地にあった術式が一番力を引き出せる。車だって寒冷地仕様があるだろ?つまり、俺たちは貧弱な魔力で、他所の術式使ってるもんだから、ほんのちょっとしか力が使えないわけさ」

「じゃあ、西欧に行ったら魔力が強くなるんですか」

「まあ、そういうことになるね」

「じゃあ、なんで日本は独自の蓄魔器を作らないんですか」

「さあ、でも昔は結構頑張って作ろうとしてたらしいぜ、結局失敗に終わったらしいけどな」


そこで、あくびをしながら黒羽は答えた。


「何それ、術式が違うってこと?」

「それすら分からん」

「?」

「俺らの一族…いや、日本古来の魔衣師は全員、魔素を体の一部として考えてる。いちいち、術式を組み上げたりしない。だから火竜一族は火を起こそうと思えば火が付くし、俺は風を吹かせようと思ったら風が吹くわけ。まあ、これが『支配者』って呼ばれるゆえんか。西欧ではどちらかというと魔素を道具として使うイメージらしい、聞いた話じゃな。まあ、行きつく先は同じ『支配者』らしいけど…、バハムートなんて名前、どう考えても日本発祥のもんじゃねえだろうし」

「何それ?あんたもしかして基礎術式生成論も分からないの?」


基礎術式生成論とは、西欧魔術で魔術を発生させるために必要な術式の基礎の基礎である。しかし、実際には蓄魔器が術式の構成を行うため、実質ほとんど役に立たない。高校一年で習う魔術関連の授業であるが、ほとんどの者には必要の無いもので、よく言う『因数分解を将来いつ使うんだよ』、『古文漢文が読めたから何?』と並んでよくネタにされる授業の一つである。


「まあ、必要無いからな。考えたこともないし、まあ、やってることは一緒なのかも知れんが」

「でもよくテレビとかの陰陽師は呪術とか使ってんじゃん」

「あー、『あれ』はちょっと違うんだ。陰陽師でもな、昔々居た陰術師って呼ばれる奴らさ。とっくに絶滅したらしいぜ」

「絶滅って…」


それもあんたの親族でしょ。とつっこみたかった愛だったが、それは心にしまっておくことにした。


「ああ、もう面倒くせえ、いいだろ、そんな昔の人間のことなど知らん。とりあえず帰ろうぜ」

「そうだな、もう俺たちの仕事は終わったしお前らも帰っていいぞ」


後ろを見ると、生徒会メンバーが集合していた。


「誰だ、お前は?一般の生徒がこんなところで何している?」


生徒会の一人が当然の疑問を口にした。誰とは、もちろん制服を着た黒羽のことである。


「まったく、なんでここの連中は上官に向かって敬語が使えねえんだ?どーいう教育してんだ?西岐波」


と、言っても黒羽は今現在制服なので仕方のないことだが…


「元気があって何よりだろ?」

「はあ…、もういい」


そう言いながら黒羽はさっさと歩きだした。


「ちょっと、あいつらに説明しなくていいの?」

「面倒くさい、お前が説明しろ」

「えっ、なんで私が!?」

「任せたぞ、副隊長」


そう言って黒羽は夕映えの街に消えて行った。









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