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銀弾の射手~Der Freischütz~  作者: 明日は月曜日 (集団children)
転校生は魔法使い
18/91

Chapter.16「麗島美鑑と書いてうるわしまみかんと読む」



バンッ!!


「何だっ!?」


放課後、特三部もとい、購買部の部室の部長の机を叩いて早子(はやこ)は詰め寄った。


「昨日のことよ」

「昨日?」

「昨日試してみたかったことってなんなの?」


黒羽(こくは)はポンッと手を叩くと、


「あー、あったな、そんなこと」

「そのために、昨日現場に行ったのよ」


早子が詰め寄った。


「いや、大したことじゃねえ、お前らでもビヘッドと戦えるか、試したかっただけだ」

「へー」


三秒ほど固まって…


「って、なにそれっ!?」

「言葉のままだけど」

「そんなことできるわけないでしょ!?」

「でも、(あい)はやってたぞ。なあ?」

「まあ、そうだけど…」


早子が振り返ると、戸口に愛が立っていた。


「ここに居たのね。早子、選考会の最終調整するんだからこんなとこで油売ってないで早く来て」

「それはそうだけど、この前のことが…」

「まあ、今、上が色々頭ひねってるらしいから、正式に発表があったらお前ら全員に話すよ」

「まあ、そういうことなら…」


早子はしぶしぶ愛について生徒会室へ向かった。


「さてと、選考会ね…なかなか面白そうなイベントだな…」


出て行った二人を見送りながら、黒羽はひとり何か企んでいるようであった。





「えーと、じゃあ、とりあえずあとはこの組み合わせのリストを印刷するだけね」


愛は生徒会メンバーに確認した。


「そうですね、今日できる作業は以上です」


雷斗(らいと)が答えた。


「あとは当日の進行の確認くらいね」


早子は手元の書類を見ながらつぶやいた。


「…でも」

「どうしたの?未来(みく)


愛も手元の書類を確認しながらさらりと聞き流しながら尋ねたが、それは所謂ちょっとした爆弾であった。


「黒羽さん、どうするんですか?」

「「「っ!!??」」」」


生徒会室の…時間が止まった。


…訳はなかったが、


「そういえば、どうするんだろ?」

「隊員の俺たちが隊長を審査してもいいもんか?」

「というか、私たちがあの人の能力を量れるのかしら?」

「無理じゃない?色んな意味で」

「まあ、一番の問題はあの男がどんな成績を出そうが、生徒会に入る気がないってことね」

「それだけじゃないっすよ。この試験は相対評価なんだから、黒羽さんが本気だしたら他の生徒の成績は軒並みE-(Eマイナス)になりますよ」


E-とはつまり、落第、再試験ということだ。


「ああ、それは大丈夫なんじゃない?あの男が授業を真面目に受けてるとこ見たことないもの」

「…そうなんですか?まあ、なんか大体想像つきますけど」

「そうね、そもそも魔術関連の授業なんてみんな免除されているからテストに名前すら書いてないし…」

「そのくせ古典や数学、物理みたいな一般科目はみんな優秀ってんだから腹しか立たないわね」


早子と愛が口々に思いのまま述べた。


「へえ、空を飛ぶなんて物理現象を思いっきり無視してる人が物理の成績がいいんですか?」


未来は至極まっとうな質問をした。実際には、理にかなって空を飛んでいるが、一般的に人は空は飛べないという意味である。


「ちょっと前にちらっと聞いたんだけど、十八支部(むこう)でも支配者ってただの魔衣師と違っていろいろと免除されてるらしいわ。暇だったから一般科目の教科書読んでたって言ってたわ」

「げっ、それ本当?」

「うん、しかも高校三年分の教科書高一の最初の半年で読み終わったからその後経済新聞なんかも読んでたって言ってた」

「なんか、ぶっ飛んでますね」


愛と早子の会話に鈴が入ってきて、そろそろ話が脱線しそうだった。


「まあ、それは置いといて、どうします?黒羽さん…」


ここぞという時の雷斗だ、生徒会唯一の男子生徒であるためにこの生徒会女子生徒同士の会話がどこまで行くと脱線してぐだぐだになるかは、この生徒会に入ってから嫌というほど体験してきた。


「そうね…」





「…で、どうします?」


時を同じくして職員室、こちらも同じく同じ懸案事項を抱えていた。


「困ったもんですね。過去の判例に当てはめようにも、今まで支配者が我が校にいたことがないんですから」

八栄村(やえむら)先生?」


そこで、校長が苦い顔をした小雨に尋ねた。


「教師の立場から言えば、一生徒を差別すべきではないと考えますが…」

「では、八栄村(やえむら)小雨(こさめ)としてはどうです?天竜黒羽と同じ一族の者としての見解は?」


次は教頭が尋ねた。


「一族の者といっても私は彼と違って分家筋のそのまた分家ですから…」

「でも、幼少のころはご一緒に過ごされたと聞きましたが?」

「まあ、そうですが…」

「では、どうでしょう?」


そこで校長が話に割って入った。


「その天竜君に近しい者としての意見は?」


小雨は、数秒ためらった後、


「…おすすめはできません。選考会自体をめちゃくちゃにはしないでしょうが、何かしらトラブルを起こす可能性はあります」

「…何かしらとは?」

「それが分かったらこれまで苦労してません」

「うーむ、本当に参りましたね。選考会は『風の支配者(バハムート)』とはいえ免除の対象科目ではありませんから、まさか試験受けるなというわけにもいきませんし」


小雨のとなりの教師が小雨に尋ねた。


「まあ、免除って形で試験を受けさせないことはできますけど…」

「おや?そうでしたか?」

「ええ、軍属の場合特例で免除されることがあります。ただし、その者が所属する隊の隊長の許可が必要です。今回の場合、黒羽が隊長ですから本人が納得しないといけません。ですが、黒羽に試験を受けさせないならそれ以外方法はなさそうです」


小雨は何か考えがありそうだが、とりあえず言い切った。


「では、じゃあその旨を天竜君に伝えてもらえますか?」

「えっ?私がですか?」

「だめですか?」


(…いや、そんなこと黒羽に言ってはい、そうですかって言うわけないでしょ?また、面倒なことを…)


しかし、校長の笑顔は暗にやれと言っていた。


「…」

「伝えていただけますか?」

「…分かりました」


(覚えときなさいよ、黒羽)


黒羽は今回現時点では全く悪くはなかったが、とりあえず小雨は心の中で悪態をついた。





「あっ」

「あっ」


特三部もとい、購買部に向かった生徒会を代表する愛と教師を代表する小雨が購買部の前で鉢合わせたのは必然といえなくもなかった。


「何やってんですか?小雨さん」

「愛こそどうした?」

「黒羽のことですよ。あいつが選考会に出場したらどうなるものか、生徒会でちょっと問題になったんでそのことについて本人に探りを入れようと…」

「ああ、それね」


小雨が目をそらしたのを愛は見逃さなかった。


「そっちこそ、何かあったんですか?」

「うん、まあ、黒羽の選考会は免除ってことで辞退してもらおうってことを伝えに…」

「なんですか、それ?」

「まあ、あいつの普段の行いのせい…かな」

「それならもっと早くしてくださいよ、私たち生徒会は今日そのことについてずっと話し合ってたんですよ」

「こっちだってそうよ。しかも一番めんどくさい仕事回されて」

「面倒なことって?」

「あいつにそのことを伝えることよ!絶対になんか企んでるわ、あいつ」

「どうしてわかるんですか?」

「昔っからそうだからよ」


そこで愛は九州へ行く電車内での出来事を思い出した。


「そういえば、小雨さん。黒羽から聞いたけど黒羽と親戚なの?だったら魔衣師ってこと?」

「ちょっと愛、落ち着いて。確かに黒羽とは親戚だけど私の家は分家の分家で、魔力はそんなにないのよ。文明人に毛が生えたくらいのもんよ。だから蓄魔器使ってるでしょ」


そういえば、そうだ。と愛は小雨の指輪―蓄魔器を見ながら思いだした。


「まあ、そういう理由で私は今から黒羽のところに行くんだけど…生徒会はいったいどういう結論を出したわけ?」

「本人の意思を尊重しようと…どうせ選考会に参加させようが辞退させようがあいつは好きなようにやるだろうから」

「あんたらのほうがよっぽど黒羽のこと理解してるわね」

「…まあ、くさってもうちの隊長ですから」

「とりあえず本人にこのことを伝えないとね」


そう言いながら小雨は購買部の扉を開けた。


「で、あいつはどこに行ったわけ?」

「さあ、さっきまでいたんですけど…」


小雨が扉を開けるとかの男の姿はどこにも見えなかった。


「まあ、選考会は来週だし、今日中ってことでもないから別にいいけど…まあ、めんどーだから愛黒羽に言っといて!」


そう言って小雨はその場を去ろうと踵を返そうとして、


「待ってください、小雨さん」


愛に肩をつかまれた。


「えー、何?」

「えー、じゃありませんよ、小雨さんだって黒羽のケータイの番号を知ってるでしょ?自分で言ってくださいよ」

「えー、いーじゃん。愛、隣なんだし」


と、ここぞとばかりに甘えてみる小雨であった。

魔術校の教師になるにはそれなりに魔法の技術が必要なため、一般の学校と比べると教師の年齢が高いため、小雨の年齢で教師になるものは珍しく、控えめに言っても美人の部類に入る小雨に甘えられると、たいていの男性教師ならこの依頼を快諾しそうなしぐさであったが、あいにくと愛には通用しなかった。


「隣だからって毎日会ってるわけじゃないですよ」

「あのー…」


いい加減、話がループしそうだったのでいつの間にやら二人の後ろに立っていた未来(みく)が話に割って入った。


「あれ?未来、どうしたの?」

「どうしたの、じゃありあせんよ。いつまでたっても帰ってこないから来てみたら」


そこまで言って、未来は部室を見ると続けた。


「何で本人がいないのに二人してこんなところで油売ってるんですか?」

「なんというか、まあ、黒羽のせいよ」

「黒羽のせいね」


今度は知らぬうちに濡れ衣を着せられた黒羽がこの瞬間にくしゃみをしたかどうかは定かではない。


「それより、黒羽さんが出る出ないでここの組の人数変わってくるんですから、早く戻ってきてください」

「ああ、そっか。そこ変えないといけないのか…」

「へぇ、生徒会は大変ねぇ」


組とは、選考会の予備戦の組のことである。

人数が多いため、選考会への出場は何人かのグループに分けそのグループの優勝者が本選へ出場する。


「何でそんな他人事なんですか、小雨さん?」

「だって、私は組み合わせ関係ないし」

「あんた、それでも教員か!?」

「一応ね、えへ」


と、わざとらしい擬音を口で言いながら小雨は去って行った。


「ふぅ…」


愛は購買部の部室の時計を見ると、6時15分を少し過ぎたところであった。


「未来、あんたたちもう帰っていいよ。私が家でちょっと考えてくるから」


そう言って、愛は未来が持ってきた組み合わせ表を取って購買部の黒羽の机に向かって歩き出した。


「大丈夫ですか?愛さん」

「大丈夫、大丈夫。黒羽は選考会免除させるように言われてるし、むしろいない方がバランスよく振り分けららるわよ」


うやうやになったが、結局愛が黒羽に選考会辞退を伝える羽目になりそうだ。


「そうですか。ではお言葉に甘えて…みんなにも伝えておきます」

「よろしくね」


そこまで言うと、愛は机から鍵を取り出すと(鍵の場所は黒羽と愛しか知らない)鍵をかけて自分の教室に荷物を取りに向かった。


「よっ、久しぶり」

「なにが久しぶりよ。今日の放課後はほとんどあんたのことで時間がつぶれたのよ?」

「へー、そう」

「何を他人事みたいな顔してるのよ。おまけに購買部の鍵まで締めさせて」

「いや、なんかお前が来る気がしたんだよな」

「だからって引き出しの中に置手紙入れてたんじゃ私が購買部に行ったからって気づかないかもしれないじゃない?」


先ほど、愛が引き出しを開けると中には、『鍵閉めておいてくれ』としっかりと見覚えのある字で書かれていた。


「まあ、そうなんだけど…いいじゃねえか。結果鍵は締まってんだから」

「まあ、もういいけど…」

「そういうことだ。さーて帰ろ」


黒羽はそう言ってかばんを右手にかけて教室から出ようとした。


「ちょっと待ってよ、私も帰るから」


愛も自分の席からかばんを取って黒羽の後を追った。





「なんだ、そりゃ」


案の定、黒羽が『はいそうですか』と言わなかったのは、帰りの電車の中である。


「だ~か~ら、選考会辞退してって言ってんの」

「何でだよ、俺生徒会じゃねえじゃねえか」


生徒会は教師と同様、選考会の審査側であるために選考会へは参加しない。


「だって、あんたその生徒会以上の実力を持ってるじゃないのっ!?一体何を選考させるつもりよ?あんたもう…って言うか生徒会こそ入ってないものの特三の…しかも隊長でしょ?」


(だからこそ…、なんだけどな)


とは口には出さないかわりに、愛が持つその選考会の組み合わせのリストをさらっと手から奪ってごまかした。


「まあ、いいじゃねえか。どれどれ…」


黒羽は自分の名前を探し始めて、指を止めた…が、そこで止めたのは自分の名前ではなかった。


「れいとうみかん?」

「はっ?ああ、麗島美鑑(うるわしまみかん)ね」


一瞬訳が分からないと言った様子であった愛であったか、すぐに納得した。

たしかにれいとうみかんと呼べなくもない。


「誰だこいつ?二年七組って、うちにこんなやついたか?」


自分の記憶をたどってみても、こんな変わった名前のやつがクラスメイトだという記憶はない。


「ああ、彼ここ数か月学校来てないから」

「何で?」

「彼、私の次くらいに魔力強いし、魔術は私以上の才能があるの…で、いつもなんかつまらなそうな顔しながら授業受けてて…学校来なくなる前はもうほとんど真面目に授業受け無かったから、魔術が強すぎて張り合いが無くなったんじゃないの?」

「ふーん」


そう短く答えた黒羽はまたしても何かを企んでいるようだった。


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