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銀弾の射手~Der Freischütz~  作者: 明日は月曜日 (集団children)
転校生は魔法使い
13/91

Chapter.11「いざ、九州!!!」




「ううぅん」


愛が目を覚ますと、どうやら今は昼らしく、寝起きにはきつい太陽光が愛を刺していた。


「ええと、ここはどこ?」


と、言ったものの、答えは返ってこない。


「まあ、列車は…、列車よね」


自分の体は揺られて、景色は動いている。十中八九列車の中だろう。


「問題は、何で私が列車に乗ってるのかってことよね」


愛は冷静になって自分の状況を把握することに努めた。

まず、自分がいるのは寝台車だ。自分がベッドに横になっているのでそれは間違いない。

次に、この列車は射手専用車の様だ。以前愛が射手本部に出張した時に乗った車両と内装がよく似ている(なかなかに豪華で、ちょっとしたホテル並みだ)。


「どうやら、善意ある犯人(・・・・・・)のようね」


…結論、思い当たる人物は一人しかいない。


「ん?」


愛は車両の真ん中にあるテーブルに見覚えのある字のメモに気がついた。


「『着いたら起こしてくれ』…ですって?」


そこで隣の車両につながるドアを開けると、そこにはこれまた見覚えのある顔が規則正しい寝息を立て横になっていた。


「黒羽ぁぁっ!!!」

「うぉっ!?何だ?地震か?」

「地震か?じゃないわよ!これはいったいどーいうことよっ!?」

「何が?」

「まだとぼける気?何で私たちはこんなとこにいるのっ!?」


すると、欠伸をしながらさも当然とばかりに応えた。


「なんで…って、九州に行くのにバスじゃ時間がかかりすぎるだろ?恨むんなら二十四時間稼働して無い日本の空港を恨むんだな」

「なるほどね…九州に…」


そこで、愛は三秒程固まった後…


「何でっ!!!?」

「何で、何でうるせえやつだな…、お前が言ったんだろ?九州統括府で祭りがあるって」

「いや、言ったけど、だからってどうして私たちが九州に向かってるのよ?」

「祭りに参加するからに決まってんだろ。だから、こうして列車手配してお前連れて来てやったんじゃねえか」

「参加するって、どうすんの?今日月曜日よ?射手はもちろん、学校だってあるのよ」

「大丈夫、大丈夫。お前が寝た後、雷斗に電話して特三のことはあいつに任せた。ビヘッドが現れた時は特四の隊長に頼んでおいたし、学校は適当にうまくやっといてくれって小雨に言っといたから」

「そんな…」

「いいから、いいから。あの後色々考えたんだ。昨日言ったとおりお前には特に世話になってるから、息抜きも必要だろ?」



「…りがと」

「ん?なんか言ったか?」


黒羽はすでに二度寝の準備ができたようだった。


「ありがとって言ったのよ。恥ずかしいから一回でちゃんと聞きとりなさいよ」

「別に…、そんな大したもんじゃねえよ」

「まったく、私が素直にお礼言ってんだからあんたも素直になりなさいよね」


黒羽がほとんど寝かけていたので、とりあえず自分の部屋に戻ろうとした時ふとした疑問が頭をかすめた。


「…よく、小雨さんと連絡付いたわね。私休日に連絡とれたこと無いのに」

「ああ、あいつ、仕事用の携帯は休日電源切ってるからな」

「ふーん」


ドアに手をかけた手がピタリと止まった。


「なんでそんなこと知ってるの?」

「ああ?親戚だから…」

「なんですって?ちょっと、それどういう…」


衝撃的事実をつげた黒羽はそのまま本日二度目の睡眠を開始した。


(じゃあ、先生は魔衣師なの…?)




「ふぁ~、よく寝た~」

「まあ、そうでしょうよ。あれだけ寝れば」


あの後、三時間ほど熟睡した黒羽はすっきりとした顔で九州最大にしての玄関口である『羽方駅』に着いた。


「で、統括府はどっちだ?」

「あんた、知らないで私連れてきたの?」

「なんだよ。九州統括府ってんだから、九州にあることは間違いねーだろ?」

「そりゃあ、そうだけど…」

「それに、お前前にここ来たことあるんじゃねえの?親に連れられて…」

「あら、愛、どうしたの?こんなところで」


噂をすれば何とやら、振り返るとそこには愛の母親、伊吹椿その人が立っていた。


「お母さん、何で駅にいるの?お祭りは?」

「ああ、それが、愛も来るものだと思っていたから間違えてあんたの着替えも持って来ちゃったのよ。で、湖野林(うち)に送り返そうと思って。この駅の射手専用貨物車両ならタダだし」

「ちゃっかりしてますね」


そこで、椿は駅の雑踏にまぎれていた黒羽に気がついた。


「あら、黒羽くんも…ふたりして、こんなところで何やってるの?お仕事?」

「いや、祭りがあるらしいから、愛を連れて来たんですよ。行きたそーな顔してたから」

「へえ、そうなの。なんだ~、愛ったらやっぱり来たかったんじゃない」

「違うわよ、こいつに無理やり連れてこられたのよ」

「こうでもしないと、色々なもんに押しつぶされそうな顔してたんでね」

「どんな顔よ?」

「さあな。雰囲気だ、雰囲気」

「いいから、お母さん、着替え頂戴。私シャワー浴びてくるから。よく考えたら、昨日のままだし」


さっさと、着替えを持って先頭を歩く愛の後ろを黒羽と並んで歩く椿は黒羽にささやいた。


「あなたみたいな人が、あの子の上司でよかったわ」

「ん?何です?」


駅の騒音で、黒羽には椿が何と言ったのかよく聞こえなかった。


「ううん、何でも無いわ。独り言よ」

「そうですか」


(あの子、こうと決めると絶対に自分を曲げない子だから、こんな仕事させていつか倒れてしまうんじゃないかと思ったけど…、これからはその心配は私の仕事じゃないみたいね)


「二人とも!早くしないと、お祭り始まっちゃうわよ」


愛のその笑顔は、十六歳の少女の笑顔そのものであった。









「へぇー、大々的に宣伝してるだけあって、やっぱ繁盛してんな」


愛の着替えを待つ間、黒羽は行きの半能駅で見た統括祭のポスターを思い出しながら、統括祭本会場に続く道を眺める事ができる、九州統括府本館ロビーにいた。


「あっ、黒羽さーん」

「ん?何だ、恋か…」

「何ですか、そのやる気のない返事は?見てください!お祭りですよ!お祭り!!もっと楽しそーにしてくださいよ!!」


恋は浮かれに浮かれて今にも飛んでしまいそうだ。


「いや、俺別にここに遊びに来たわけじゃねえし、つーか、ここに愛を連れてくることが目的だったしな。これからどうしたもんかなーと思っていたところだ」

「だったら一緒に祭りを回らないか?」


振り返ると、四十代半ばの顎鬚を蓄えた精悍な男が立っていた。


「お父さん!!」

「恋、会場は携帯の電波が入りにくいからはぐれないようにと言っただろう?」

「お…父さん…ねえ」


(この姉妹、顔は百パーセント母親譲りだな)


などと心の中で思っていると、その男は黒羽に改めて向き直って話し始めた。


「私は伊吹紅葉(こうよう)。階級は九州統括府中佐だ。君が、天竜黒羽くんだね。いや、第三特務隊天竜黒羽中尉と呼ぶべきかな?」

「どっちでも構いませんよ、俺は。階級なんて、今の俺には有って無いようなものですから。伊吹中佐」


そう答えると、紅葉は笑い出した。


「はっはっはっ、いやいや、プライベートではおじさんで構わないよ。お隣さんらしいしね」

「そうですか。まあ、おっしゃる通りにしますけど」

「そうかい、ではさっそく行こうか?」

「どこへ?」

「お祭りに決まってるでしょ!?」


それまで黙っていた恋がようやく口をはさんだ。


「まあ、そういうことだ。色々射手での愛のことも聞きたいし」

「そういうことなら、今夜、祭りがひと段落したころにお話ししますよ。家族水入らずを邪魔したんじゃ、愛をここに連れてきた意味がないですからね」

「そんな遠慮は不要だよ、黒羽くん」

「そうそう、黒羽さんも行きましょ!!」

「いいえ、俺はホントにこれで…」


立ち上がると、黒羽はどこへ行くあてもなく紅葉達と反対側に歩き出した。


「愛の話が聞きたいのでしたら、今夜二〇〇〇(フタマルマルマル)時にこの場所にいますんで」


それだけ残して黒羽は祭りの雑踏に消えて行った。








「さて、とは言ったものの…どうするかな、これから」


黒羽は再び羽方駅に戻っていた。正直、家族揃って何かを楽しむという感覚が黒羽には分からなかった。もしかしたら、それは黒羽にとって眩しすぎて直視できなかったのかもしれないし、単純に興味が湧かなかっただけなのかもしれない。しかし、それは彼の家族が特殊であることを考えれば仕方のないことであった。


「しかし、どこもかしこも人だらけだな。ここは」


それもそのはず、この駅は九州最大の駅なのだから。

そうこうする内に、まさに今、新しい電車が駅に到着した。


「へー、また増えたよ、全く、みんな暇人ばっかだな」


その暇人の中に自分がいる事は棚に置いて、黒羽は呟いた。


「ん?」


次々と出てくる人の波の中に、知った顔を黒羽は認めた。


「あいつは…確か、蓄魔器の工場にいた…、誰かだ」


誰か、というのは顔は完全に覚えているが、顔を見ただけで名前を聞いていなかったので、その他に情報が無い黒羽にはこれが最大限の譲歩だった。


「おや、あなたは」


そんなことを思っていると、後ろにまとめた少しパーマのかかった長髪をなびかせながら向こう側から黒羽に近づいてきた。


「射手の方ですよね?覚えておられるかは存じませんが、私、以前あなたにお会いしたことが…」

「ええ、覚えてますよ、例のビヘッドの蓄魔器(マジック・レコーダー)工場襲撃事件のときに事件後の工場側の後処理をされていた方ですよね?」

「ええ、一応あの工場の魔術変換技術部門の統括責任者ですから。あっ、自己紹介が遅れましたね、私、蓄魔器製造会社、『㈱マジックレコーズ・ワーカー』湖野林工場、魔術変換部統括部長、道長京です」

「私は、射手の第三特務隊隊長、天竜黒羽、階級は一応湖野林支部中尉ってことになってる」

「噂はかねがね、その若さで、大したものですね」

「そのセリフは、そっくりそのままお返ししますよ、道長京、確か何度か新聞でそのお名前を拝見した記憶があります」


十八支部時代、暇な時にパラパラっとめくった経済新聞か何かで名前だけ見た記憶がある。もちろん、中身は読んでいないが…。


「いやいや、十で神童十五で才子二十過ぎればただの人…今じゃなかなか思うように行かなくてね、今日も少しでも蓄魔器の質を向上するためにこの祭りに出展されている蓄魔器の見学をするように上から言われたもんで…はるばるここまでやって来た訳なんですよ」


道長はため息をついた。


「しかし、君と話している方がよっぽど有意義かな?確かに、色々な蓄魔器を見れて刺激にはなるかも知れないけど、核心には迫れないだろう。企業秘密を知られるようなへまなこと、私なら絶対にしない」

「まあ、そりゃそうだろうな」


もっともなことを言う京に対して、黒羽は感心した。


「で、どうかな?君はこれからの予定はあるのかい?」

「二〇〇…いえ、午後八時までは残念ながら時間をもてあましてましてね。自分はここに部下を連れてきただけですから」

「じゃあ一緒に回りませんか?風の支配者(バハムート)の方でもなかなか刺激的だと思いますよ。今回の蓄魔器展、私の分かる範囲でご説明しますし」

「ええ、じゃあお願いします」

「では、参りましょう」


黒羽は道長の後ろについて歩き出した。


(ん?俺が風の支配者(バハムート)だってこと言ったっけ?)


僅かな疑問を感じたが、特に気にする必要はないと判断してそのまま道長について行こうとすると、何か感じ取ったのが、道長が振り返って黒羽に話しかけた。


「…ああ、どうして私があなたのことを風の支配者(バハムート)だって分かったって顔ですね?」

「いや、まあ」

「論理的に組み立てれば割と簡単ですよ。今、射手はビヘッド対策で支配者を各地に配置している最中ということは私たちの業界では割と有名ですし、あの事件でビヘッドが破壊されたということは、湖野林にも配置されたということです。」

「ほー」

「前隊長の西岐波さんとは以前お会いしたことがありますし、現隊長があなたなら新たに配置された支配者はあなたということになります。現にあなたは蓄魔器を身に着けていない」

「まあ、そう…だな」

「ん?何か間違ったとこでも?」

「いや、何というか一瞬でそこまで考えをまとめられるとは、恐れ入った」

「いえ、そんなんじゃありませんよ。どうも昔から物事の順序を飛ばして話してしまう筋がありましてね。いつも皆に疑いのまなざしを向けられるんですよ。以後、気をつけます」

「はあ」


(やはり、天才というやつか)



そうこうするうちに、蓄魔器展のブース入口に着いた。


「まず、ここから見ましょうか。眞崎魔術研究所?聞かない名前だな。しかし、出力はそう悪くないようだ」

「ほー」

「こっちは、出力の割に軽いな、コンデンサーの違いか?」

「へー」


ブースに入った瞬間、道長はまるで新しいおもちゃをみた子供のように自分の世界に入っていって、黒羽が見えていないようだった。


(この男、全く読めない)


「にしても」


黒羽はあたりを見回した。


「蓄魔器って結構メーカーがあるんだな」


今まで全く縁のない蓄魔器だったが、今回の特三赴任で若干蓄魔器のことについて知っておく必要があると思っていたことも事実だ。

様子を見ると道長はしばらくこっちの世界に帰って来そうにない。


「まあ、いいか。適当にその辺みてまわるか」


黒羽は道長が見ている会社と反対側の会社の前にたった。


「なあ、ちょっといいか」

「これはこれは、どうぞゆっくり見て行って下さい」

「あんたんとこの製品の売りは?」

「はい、こちらの製品ですと当社比三倍の魔術伝達速度があります」

「ほー、で、それは使えるのか?」

「何をおっしゃいますお客さん。こんなに使いやすく強力な蓄魔器はそうありませんよ」

「ふーん、じゃあ例えば第六都市の軍曹級の奴が使ってビヘッド倒せるのか?」


店員が一瞬固まった。


「なっ、そんな無茶な…。スポーツカーの大会に軽自動車で参加するようなものですよ」

「ふーん、やっぱ無理なのか」


黒羽は妙に納得したような顔で呟いた。


「じゃあ、いいや」


それだけ言って黒羽はその場を離れた。


(そもそも容量をでかくしないとだめなんだよな、たぶん)




「いや~、ごめん、ごめん。すっかり話しこんでしまってね。待たせてしまったかい?」

「別に、俺は俺でテキトーに見てたからな」

「で、いかがでしたか?」

「駄目だな。伝達速度を重視すると威力が足りないし、威力を重視すると使用者の負担が大きい。うちのメンバーには負担が大きすぎるな。多分だけど」

「それは残念だったね」

「そうでもない。蓄魔器なんて必要ないもんだったからな。改めて勉強するいい機会だったよ」

「そうかい?なら、よかった」


初めて会った時の印象とは大いに異なる道長との会話に一瞬黒羽は気遅れした。


(こいつ、蓄魔器のこととなると、人が変わるな)


「しかし、もうそろそろ時間のようですね」

「ん?そんな時間か?」

ポケットから携帯を取り出すと、午後七時四十三分を指していた。


「じゃあ、俺はここで」

「ええ、ではまた、いずれ会う機会もあるでしょう」


そう言って、黒羽は約束のロビー、道長は羽方駅の方向に向かって歩き出そうとした。


「あっ、そうだ」

「ん?」


何かを思い出したかのように道長は突然黒羽に話しかけてきた。


「よろしければ私が作りましょうか?」

「……、はい?」


黒羽の頭上には疑問符が並んだ。


「蓄魔器ですよ、蓄魔器。これも何かの縁だし、研究所に帰ったらまた連絡するよ」

「…はあ」

「じゃあ、そういうことだから、また」

「ああ」


そう言って、今度こそ道長は駅の方へ消えて行った。


「やべ、俺も急いで行かねえと」









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