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銀弾の射手~Der Freischütz~  作者: 明日は月曜日 (集団children)
転校生は魔法使い
12/91

Chapter.10「チームとして…」



「どうだ、調子は?」

「ああ?」


射手本部、仕事を終えて帰宅しようとロビーを歩いていた黒羽は後ろから声をかけられた。


「何だ、お前か…」

「おい、上官に向かって何だとはなんだ」


振り返ると西岐波がコーヒーを持って近寄ってきた。


「別に直属の上官じゃねえだろ、そういうことは元部下にちゃんと上司への口のきき方を教えてるやつが言うセリフだぜ」

「お前と同い年のやつばっかじゃねえか」

「だからだろ、俺たちがやってるのは高校のクラブ活動じゃねえんだぞ」


特三部なる得体のしれない部活を作った本人が言うことではなかったが…


「当たり前だろ、何が言いたいんだ?」

「…客観的に見るとだな…、俺があの隊を指揮できるとは思えねーんだよ」


この答えには西岐波も意外だったようだった。


「何だ、お前らしくも無い。いつもの自信満々の態度はどうした?」

「うるせえな、俺は保育士じゃねえんだぞ。子守なんてできるかよ」


そこで黒羽は一度息をついた。


「お前ほど人付き合いうまくねえしな」

「…ちなみに聞くが、お前どんな付き合い方してんだ?」

「まあ、とりあえず雷斗の実力を量るためにちょっと風術弾なんぞをくれてやった」

「何やってんだ?お前…」

「部下の力量を知っとくことも必要だろう?」


学校での自分の特三との付き合い方を顧みると、黒羽はため息しか出なかった。


「なんとまあ、殊勝なこと言うじゃねえか、十七の小僧が」

「その小僧に隊を任せるこの組織も大したもんだがな」

「でもまあ、神原さんがお前で大丈夫だと判断したんだろ」

「だから、あのオヤジの考えは分かんねえって言ってんだろ」


西岐波はゆっくりとコーヒーをすすった。


「なあ、今の状況を嘆くだけじゃ、何も変わらねーぞ」

「あ?何言って…」

「与えられた意味をもうちょっと考えてみな」



それだけ言って西岐波は去って行った。


「…与えられた意味…ねえ…」


黒羽は去りゆく西岐波を背に帰路に着いた。





「どう?調子は?」

「ああ?」


第六都市、湖野林、高層マンション『セントピアガーデン』六階、六二〇号室、玄関、仕事を終えてまさに帰宅しようと鍵を開けようとしていた黒羽は後ろから声をかけられた。


「何だ、お前か…」


(なんか最近このセリフ多いな)


「部下に向かって何だとは何よ、なんだとはっ!?」


振り返ると、愛が私服姿で自分の家の玄関を開けてこちらを見ていた。


「似たようなセリフを今日はよく聞く日だな」


無視して玄関の扉を閉めようとすると、慌てて愛が足を扉の間に挟んできた。


「てめ、愛!何しやがる!!押し売りか!」

「まあまあ、部下の話はちゃんと聞きなさい」


黒羽はあからさまに嫌そうな顔をした。


「いやだよ。何で俺がちゃんと話を聞かなきゃいけないんだよ。もう勤務時間は終了だ」

「ちょっと、ちょっと、じゃあ友達、友人としての話だから、ちょっとでいいから聞いてよ」


そこで黒羽は本日何度目かの大きなため息をついた。


「……ふぅ…、まあいい。じゃあお話を伺いましょうかね、生徒会長兼転校生生活指導係の伊吹愛殿」

「じゃあ、おじゃましまーす!!」

「まったく、こっち来てから調子狂いっぱなしだ」


勝手知ったる他人の家よろしく(まあ、間取りが一緒であるので当然と言えば当然であるが)、さっさとリビングに向かって行く愛の後ろ姿を見ながら、黒羽は呟いた。



「で、何だって?」


さっそく、お茶受けを片手にコーヒーをすする愛に向かって黒羽は言った。


「ん?ああ、まあそれはこれを食べてから…」


と、いいながら次のお菓子に手をだした。


「あのなあ、俺はまだ飯も食ってねえんだぞ。用件があるならさっさとしてくれ」

「じゃあ、作ってあげよっか?」


一瞬、空気が止まった。


「…何を?」

「何をって、夕ご飯に決まってるじゃない」

「誰が?」

「私が」


黒羽は自分の頬をつねった。そしてついでに、愛の頬をつねった。


「いたたた。何すんのよっ!何よその顔?私だってねえ。一応料理くらいできるわよ」

「ふーん」

「何よ、それ。ぜんっぜん信用してないでしょ!?」

「別に」

「いいわ、今すぐ作ってあげるからそこに座ってなさい!!!」


愛は張り切ってキッチンに向かって行く愛を見ながら黒羽はつぶやいた。


「…何にもねーんだけどな、うち」



「何これっ!?」


案の定キッチンから悲鳴…とまではいかないが愛の叫び声が聞こえてきた。


「そこまで驚くこともねえだろ…、別にコンビニ行きゃあ食うもんに困らねえし、給料もらってるしな」

「もうちょっと栄養バランスとか、色々考えなさい!」

「大丈夫だよ、偏ったら逆に偏ったもん食うから」


黒羽はあくびをしながらキッチンに入って来た。


「何よ、偏ったら逆に偏らせるって」

「だから、砂糖取りすぎたら塩たくさんとるってことだよ」

「あんた、馬鹿じゃないの?」

「冗談だよ」

「じゃあ今夜は何食べる予定だったのよ?」

「……カップめん」

「はあーー」


今度は愛が盛大なため息をついた。


「学籍番号四十三番、天竜黒羽!!転校生生活指導係として命令します。今から私に付いて来なさい」

「??」




「いいのか?お前んちの人心配するぞ。恋とかさ」


十分後、近所のスーパーにて―


「ああ、今日うちだれもいないんだ。だから、私もまだ夕飯まだ食べて無いからちょうどいいわ」

「珍しいな、あのお袋さんもいないのか」

「うん、恋と二人でお父さんの所行ってるの」

「親父さんのとこ?」


黒羽は本日の夕飯の焼き肉のメイン食材である特売の牛肉を選びながら質問した。


「確か、今九州統括府に勤務してんだっけ?」


西岐波から受け取った書類を思い出しながら答えた。


「うん、なんか今度九州統括府(むこう)でお祭りがあるから、それを見に行くって、あっ、キャベツ安い」


愛はどんどんと材料を黒羽の持つかごに入れて行った。


(…しかし、これって焼くだけじゃないか?それにしても…)


「お前、行かなくて良かったのか?」

「うん、生徒会とか、特三とか色々忙しかったし…」

「そんなの、俺がやっといてやるよ。生徒会だって他の奴らに任せりゃいいだろ……あっ」

「ん?何?」


愛が振り返ると、黒羽が固まっていた。


「あー、そういうこと…か?…」

「何?どうしたの」


黒羽は改めて愛を見た。


「なあ、愛、今日、晩飯作ってくんねえ?」

「はぁ?だからこうやって買い物に来てんでしょ」

「あとさあ、他の連中も呼ばね?」

「えっ?」


時計を見ると七時二十三分であった。


「みんながいいならいいけど…、なんで?」

「…いやっ、ちょっと思いついただけだ」

「ふーん、まあ、とりあえず連絡取ってみるわ」


愛は携帯を取り出して次々と電話をかけて始めた。


(…結局、俺もガキなんだよな…)


「…羽、黒羽」

「ああ?」


我に返ると愛が肩を叩いていた。


「みんな、オッケーだって」

「…そうか、じゃあ量もっと増やさねーとな」


そう言って二人は次々と人数分の食材を買い足していった。





「失礼します」

「あっ、早子、いらっしゃい」

「あれ?愛?どうしたの?その格好?」


玄関で出迎えた愛はエプロン姿で右手には切った野菜を入れたボールを持っていた。


「ああ、今ちょうどお肉がいい感じに出来てるところよ」

「そうじゃなくて、今夜は隊長が夕飯に招待してくれたんじゃ」

「いや、まあなんて言うか、招待したのは確かに黒羽なんだけど、元々私の実力のほどを見せる予定だったていうか、急にみんな呼ぼうって黒羽が言いだしたって言うか…まあ、うち隣だから」

「??まあ、いいわ」

「いいから、入って、入って」


早子がリビングに入ると、すでに他のメンバーが座っていた。


「すみません、隊長。お待たせしてしまって」

「いいから、いいから。早く座ってくれ」


夕飯が待ちきれない様子で黒羽は早子を座らせた。

そこへ、愛が加わって卓を奥から時計まわりに黒羽、雷斗、未来、鈴、早子、愛の順で机をかこった。


「えー、その、なんだ…みんな、今日は集まってくれてありがとう」


そこで黒羽は言葉を探り探り選びながら話し始めた。


「いえ、たまたままだ食事をとって無かっただけです」


雷斗が答えた。


「えーっと、まあ、まずはみんな食ってくれ」


黒羽が促すと、みな思い思いの食材を自分の取り皿に取っていった。


「ああ、食べながら聞いてくれ」

「どうしたんですか隊長?いつもの歯切れいいものいいはどうしたんですか?」


たまらず鈴が訊ねた。


「その隊長ってのなんだが…」

「何?」


愛が豆腐を食べながら横やりを入れた。


「その…、まあ、学校では、辞めにしないか?」


黒羽は頭をかきながらつぶやいた。


「何言いだすの?」

「いきなり改まって」


愛も雷斗も意味が分からないようだった。


「いや、今日西岐波に会ってさ、ガキだって言われてよ…」

「まあ年齢的に言うと私たちは未成年ですけど…」


早子がもっともなことを言いながら豚肉を口にした。


「そうじゃなくってよ、俺はこの隊を急に任せられて…まあ、適当にやればいいかと思ってたし、どうにかなると思ってたけど…」

「どういうこと?」


突然の告白に一同目を丸くした。


「俺はこの隊に隊長として赴任してから、まあ、戦闘なんて俺一人でやればいいと思ってたし…できると思ってた」

「どういうことですか?」


なかなか要領を得ない会話に、雷斗は箸を置いて訊ねてきた。


「でも、まあ、別に俺一人でやらなくてもいいって言うか…」

「隊長、俺たちは…」

「いや、まあ、確かに交戦許可は無いけど」

「そうですね」

「なんか作戦的な部分っていうか…」

「黒羽…」


黒羽はもう一度頭をかいた。


「なんつーか、つまり!自分のできることをそれぞれしよう!」

「はぁ…」


そこで黒羽は一息置いた。


「これからよろしく頼む。俺たちは学生なんだ。全部が全部大人たちみたいにできるとは限らない。俺はビヘッドを始末するから、他のことは色々頼む」


この発言は予想外だったらしく、皆黙り込んでしまった。


「それで、今日の夕飯を私に作ってくれっていったわけ?」

「駄目か?」


愛が沈黙を破った。


「べっ、別にこれくらい、頼る頼られるってほどの話じゃないわよ。って言うか隊関係ないし……まあ、いいけど」

「そうか、助かる」

「私たちでも、できることはあります」

「生徒会じゃあ会計でも、戦闘になれば私も意外とやるんですよ」

「ああ、らしいな。西岐波から聞いてる」

「だったら俺達にもビヘッドとの交戦許可を」

「調子にのるな…、まあ、お前も思ったよりやるようで助かったけど…」


黒羽は軽く雷斗を小突いた。


「一応は隊長だぞ。そんな何でもかんでも認めてたら統率が無くなるだろ?面倒くさいけど…」

「…了解しました」


返事をしてから、雷斗は俯いた。


「どうしたの、雷斗?」


久しく黙っていた未来が訊ねた。


「先輩!俺、すぐにビヘッドとの交戦許可証取ってみせます」

「…ああ?ああ、そうか…、頑張れ」

「ええ、そして、いつかあなたと肩を並べて戦えるようになるわ」


早子が続けた。


「おっ、おう…」


(何なんだ?いきなり、俺なんかしたかな?)


雷斗の思いを直接聞いたのは未来だけであったが、例の、校庭で放った一発の風術弾が、本物の銀弾の威力までいかなかったとしても、特三部の心を動かすには十分だったことを皆が理解していた。


今まで特三内に漠然と渦巻いていた何かが一気に溶けたような気がした。


「まあ、いいから、とりあえず今日は親睦会ってことで、お肉焦げないうちに食べましょう」


愛がその場をまとめて、夜は更けて行った。


「そうだな、今日は学生らしくみんなでしゃべりながら適当にやってくれ」




「じゃあ、先輩、失礼します」

「ああ、またな」


その後二時間程だべった後、宴もたけなわに第一回特三鍋パーティーは解散することになり、雷斗達は帰って行った。


「ふぅー」

「終わったね~、いやー、食べた食べた」

「ああ、大勢で食うのも悪くねえな」

「まーね、ただ後片づけが大変だけどね」


愛は目の前の鍋を見てため息をついた。


「俺がやっとく、お前は座ってろ」

「へー、部下をねぎらってくれるわけ?」


愛が、冗談交じりで答えた。


「愛、お前には別個に…礼を云わねえとな」

「は?何で?」

「お前には、特に世話になってる。特三でも、学校でも…、苦労かける」

「そんな、改まって」

「だから、テレビでも見てろって」


そういうと、黒羽はキッチンに洗いものを持って姿を消した。


(まっ、いっか。じゃあお言葉に甘えて)


愛は近くにあったクッションを取り、それを胸の前に抱くと、テレビのリモコンを取った。


(与えられた意味…神原のおやじが言いたかったことがなんなのかは分からねえけど、やれることはやらねえとな…面倒くさいが…まったく、まさかこの俺が他人が使った皿を洗う日が来るとはな…)


黒羽は黙々と洗い物を片付けて行った。



「おーい、終わったぞ」

「……」

「ん?」


黒羽が洗い物を片付けてリビングに戻ると愛からの返事は無かった。


「愛?寝てんのか?」

「スー、スー」


規則正しい寝息は沈黙の肯定であった。


「はあー、風邪ひくぞ」


ため息交じりに愛を起こそうと近寄った黒羽は、寸前のところで何かを思いついた。


「あっ、そうだ。いいこと考えた」






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