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銀弾の射手~Der Freischütz~  作者: 明日は月曜日 (集団children)
転校生は魔法使い
11/91

Chapter.9「俺がお前の夢を笑ったら、お前は夢を諦めるのか?」




「ちょっとっ!」

「んあ?ああ、なんだ愛か。言われなくても生徒会室に向かってるよ」


校庭での出来事に呆けているものが多い中、黒羽はすたすたと歩いていた。


「そうじゃなくて…」

「なんだよ」


そこで初めて黒羽は歩みを止めて愛を見た。


「ねえ、さっきの…銀弾(シルバーブレット)?」

「へー、あんなもん知ってるやつがいるなんて思わなかったぜ」

「じゃあやっぱり…あれは銀弾…」

「まあ、正確に言えば銀弾じゃねえが…」

「えっ?そうなの?」


黒羽は再び歩き始めた。


「ああ、本物の銀弾はあんなもんじゃない」

「本物?それって一九四〇年代の紛争のときに使われた伝説の銀弾のこと?」

「へー、詳しいな。この学校じゃそんなことまで教えてるのか?」

「いいえ、これは私が個人的に調べたことよ」

「ほー」

「ねえ、いいから教えてよ。さっきの…銀弾じゃなかったら一体なんなの?」


黒羽は頭をかいた。


「言ったとおりだ。あれは銀弾なんかじゃない、ただの鉛弾だよ」

「でも、さっき」


(銀の竜が飛んでいる様に見えた)


と言おうとしたところで黒羽が話を続けた。


「確かに、大雑把にいえば同じだ。だけど、あのジジイの銀弾は周りの空気を巻き込むんじゃない。風の支配者の名にふさわしく、まさに周りの空気を完全に支配し、標的を破壊する。」

「ジジイ?」

「ああ、世間一般で言う、銀弾ってのは例の紛争に終止符を打った一発の魔術弾のことだ。でも、それが風術によるもんだなんてよく知ってたな」

「知ってるわよ。その直後に文明人と魔術師によって設立された射手は、その功績を(たた)えて銀弾(シルバーブレット)という称号を作ったんでしょ」

「ああ、それでその銀弾を放ったのが俺のジジイってだけだ」

「黒羽のおじいさん?」

「それより、早く書類くれ」


気づくと二人は生徒会室に着いていた。


「そんなことよりっ!なんでさっきのは銀弾じゃないの?」

「そんなことよりって…」


お前生徒会長だろとつっこみそうになった黒羽だったが、面倒くさいので話してやることにした。


「はぁ、だから、威力が全然違うわけ。俺のは自分の体内で生成した風術弾を指先から発射して周りの風を操ってそれを押して加速させてるわけだけど、本物の銀弾は放った弾が周りの魔素を自ら喰いながら威力と速度を増加させている、まあ、こまごましたことは他にも色々あるが威力だけで言うならさっきのやつの二十倍はある」

「そんなに…」

「大雑把に言うと俺のは弾の速度のみ、本物は威力と速度の増加だが、実際、本物の銀弾は周りの、相手が取り込む魔素も取り込んでるから相手は魔術使えないし、相手の魔術も魔素に分解してかき消す、風術の極みの技の一つさ」

「そんなにすごいんだ…」

「当たり前だろ、俺の夢だ」

「夢?」

「ああ、その銀弾を打てるようになることが俺の今の目標。そのために実戦が経験できる射手に入った。今、本物の銀弾を打てるのは俺のジジイと親父だけなんでね」

「へー、じゃあ銀弾違いで私の夢と一緒ね」

「銀弾違い?」


今度は黒羽が愛に疑問を投げかけた。


「違う銀弾ってなんだ?」

「爵位のほうの銀弾が私の目標なの」

「へー」


この答えは黒羽にとって意外な答えだったようだ。


「なんつーか、別にいいけどよ。お前はそういうのには無頓着なもんかと思ったぜ。生徒会長になったのもそういう地位的なもんか?」


愛は、自分の疑問が解決したのでもうこの話題にはそれほど熱意が無くなったようである。


「違うわ、生徒会長は小雨さんが推薦して半ば無理やり…、それに銀弾は恋との約束だからよ」

「恋との?」


二人は適当に椅子に座り、愛は書類を探しながら答えた。


「黒羽も知ってるでしょ?恋は魔術使えないから普通の公立高校に通ってるの」


「ああ、知ってるけど、それが?」


黒羽には愛の言いたいことがどうにも理解できてない様子だ。


「小さいころね、恋がどうしても魔法が使いたいって泣いてて…」

「へー」


(あの恋がねー)


「で、どうしたら恋も魔法が使えるのかをお父さんに聞いたら、銀弾になれば恋も魔術を使える街を作れるって言われて…」

「それって…つまり恋は魔力があるってことか?」

「ええ、まあ」

「へー、じゃあ何で皆風学園に入らなかったんだ?」

「なんで…って、恋に魔力の陽性反応がでたのが恋が四歳のときだったから」

「…だから?」


やはり、黒羽には愛の言いたいことが分からなかった。


「だから、恋の魔力はごく微量なの!そんなのが魔術学校に入ったら役立たずのレッテルを貼られてみじめな思いをするのは目に見えてるでしょ!?」

「………はっ?」


黒羽の頭上には疑問符が浮かんだ。


「魔力が低いって…お前ら全員似た様なもんじゃねえか」

「あんたは…」


愛は黒羽のそのあっけらかんとした答えに毒気を抜かれてしまった。どうやら、本物の魔衣師から見れば、皆同じように見えるらしい。


「はあ…でも、まあ、私の目標も考え方は似たようなもんなんだけどね」


愛は反省文用の書類を黒羽に渡しながら答えた。


「似たようなもの?」

「つまり、魔力に差があるからそういったわだかまりがあるのよ。だから、私は特区制定し、魔力が弱い人達のために魔術学校を作って恋が魔術を学べるようになることを恋と約束したの…。周りが同じくらいの魔力なら、そういった差別は無くなるだろうから」

「ふーん」


黒羽は書類を受け取ると、さらさらと何かを書き始めた。


「まあ、小さいころの話だけどね。もう恋は自分で魔術を学ぶことは諦めたみたいだけど、その惰性…ってわけじゃないけど、そんな魔術学校を、街を、魔力の低い人たちのために作るのが今の私の夢なの」

「そのための銀弾か?」

「ええ、銀弾になれば小さいけど、街の行政権が与えられるから、そこで学校の設立を提案するわけ」

「ほー、そりゃあでっかい夢だな」


黒羽は反省文を書きながら話していたが、愛が黙っていることに気づいて手を止めて愛のほうを見た。


「どうした?」

「笑わないの?」

「何で?」

「何で…って、銀弾よ、銀弾。その勲位を持つのは今五十人もいないのよ。私の数倍魔力を持つお父さんでもなれないのよ」

「お前の親父さんってそんなに魔力が強いのか?」

「まあ、あんたら本物の魔衣師に比べれば大したことないのかもしれないけど、それでも九州統括府で管理官をやってるわ。階級は中佐」

「へー」

「そのお父さんが頑張ってもなれないのよ、なのに私が銀弾になるなんて非現実的でしょ」


それを聞きながら黒羽は書き終えた反省文を愛のほうに投げた。


「わっっと」


あわてて手を伸ばした愛はそれを何とか受け止めた。


「俺がお前の夢を笑ったら、お前は夢を諦めるのか?」


黒羽の言葉は静かに愛の心に響いた。


「少なくとも俺はその程度で諦められる夢じゃないんだがね」


そう言いながら黒羽は生徒会室を出た。


「ああ、お前の夢は二人の夢か…。まあ、いいんじゃねえか、夢は見る分にゃ自由だぜ?」


そう言い残すと黒羽は廊下をけって風にのって自分の教室に向かった。


(やっぱ、アイツ変わってる)


愛は自然と笑みがこぼれそうになったが、黒羽が書いた反省文を見てその表情が百八十度変わった。


「何よ!この反省文はっ!!?」


黒羽が愛に渡した反省文には、三行、次のように書いてあった。


『ちょっと手加減しすぎたかな。

 もうちょっと雷斗ならレベルを上げても良かったかもしれん。

 次はもうちょっと本気を出そう。』




―――数分前


「ちょっと、雷斗、なにボーっとしてんの?」


皆が立ち去った後も、雷斗は呆然と立ち尽くしていた。


「…ああ、未来か…」

「何だとは何よ?どうしたの?」


未来がそう問いただしてみても雷斗は黙っていた。


(強かった…、西岐波元隊長と同様、いやもしかしたらそれ以上…)


「雷斗?」

「なあ、やっぱ天竜先輩の言うことは結構正しいんじゃないか?」

「正しいって、何が?」

「例のビヘッドに関すること…というか、先輩が判断した俺たちの実力のこと」

「ああ、そのこと…」


未来は妙に納得した様子であった。


「さっき対峙して、はっきり分かった。年こそ一つしか違わないが、実力は今の俺たちじゃ足元にも及ばない。その先輩が俺たちじゃビヘッドに敵わないって判断したんなら、それは本当のことだと思う」

「うん、そうかもね。私は直接対峙したわけじゃないから雷斗とは感じるものが違うかもしれないけど、あんなの見せられちゃね…」


あんなの…とはもちろん、先ほどの銀弾もどきのことである。


「ああ、あれはすごかった。言葉じゃうまく説明できないけど」

「そうね、早子さんも何かしら感じてたみたいだし…」


未来は、黒羽が去った後、校庭の端で見ていた早子は何かぼそっとつぶやいた後、すぐにどこかへ行ってしまったことを思い出しながら答えた。


「なあ、未来」

「何?」

「俺はこれからの特三、結構すごいことになる気がする」

「ふーん、奇遇ね、私もさっきそう思ったわ。もしかしたら早子さんも…」

「まあ、このまま指をくわえて先輩の後ろついていく気はないけどな。ビヘッドはいつかこの手で破壊してやる」


こうして、黒羽の知らぬところで新生特三メンバーの心境は刻々と変化していくのであった。


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