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銀弾の射手~Der Freischütz~  作者: 明日は月曜日 (集団children)
転校生は魔法使い
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Chapter.8「天竜黒羽という男」




「おい」


黒羽が上履きに履き替えようと自分の下駄箱を開けようとしたとき、後ろから声をかけられた。

振り返ると、例の事件で停学中だった岡村がそこにいた。


「何だ、お前か…」

「何だとは何だ!」


(はあー)


心の中でため息をつくと、うんざりとした感じで続けた。


「愛なら今生徒会の仕事で正門に立ってるぞ」


本日も生徒会は朝の挨拶習慣中で、各門に立って活動している。


(つーか、廊下ぶっ壊したのに停学五日って短すぎなんじゃねえの?まあ、いいけどさ)


「今日は愛にじゃねえ、お前に用があるんだよ」

「あぁ?」


見ると、岡村はどうやらやる気満々のようだった。


(はぁ、嫌だねえ、せっかく停学解けたのにまた喧嘩なんて。バカなんじゃないの?)


「おい、早く構えろよ。あん時は、お前に直接当たんなくてうやむやになったが、今度は実力で俺がお前より上だってことを証明してやる」


(ったく、こうなるのが面倒だからうやむやにしたのに…、逆効果だったか、バカなんじゃないの?)


「お前さあ、お前が俺より上とか下とか、ヤンキー漫画かって…」


(…実力…か…)


そこで黒羽は何かを思いついたようだった。


「そこまで言うんだったら、その話、乗ってやらんこともない」

「だったらさっさと構えな」

「ただし、条件がある」

「んだとっ!?お前立場がわかってんのか?」

「まあ、待て。お前から言い出したんだろ?うやむやになったって」

「だからどうした?」

「だったら、ここは狭すぎだろ?」


そう言うと、黒羽は校庭に向かって歩き始めた。




「どうだ?ここなら言い逃れもできんぞ?」

「それはこっちのセリフだ」


登校する生徒の波を逆走して、二人は校庭の真ん中にたどり着いた。


「さーて、そろそろかな」


黒羽が西門の方角を見ると、そこから見覚えがあるシルエットが近づいてきているのを確認した。



「おい、そこで何をやっている!?」

「おー、雷斗、遅かったな」

「隊ちょ…、じゃなかった、黒羽先輩、何やっているんですか?」


西門の立ち番担当だった雷斗は、何やら不穏な空気を感じたのか、校庭へ降りてきた。


「いや、何、お前たちが俺の実力をどうやら疑問視しているようなのでね。ひとつ実力をお見せしようかと」


「…岡村先輩相手にですか?」

「なんでだよ。お前、俺がこいつ相手して納得するのかよ」

「…いや、全然」

「おいっ!!」


さすがに岡村がつっこんだ。


「うるせえな、お前との件もちゃんとするって」

「「??」」


二人の頭上に疑問符が浮かんだ。


「いいか、まず、俺たちは喧嘩しようとしている」

「ああ」


岡村が答えた。


「そして、雷斗お前たち生徒会には、校内で問題を起こした生徒を粛清する権利がある」

「ええ」


今度は雷斗が答えた。


「だから、お前は合法的に俺に手が出せるってことだ、雷斗」

「そんな、むちゃくちゃな…」

「ちょっと待て!」


二人でどんどんで話を進められ、だんだん岡村がイライラしてきた。


「何だよ、うるせえな」

「天竜、お前。その話はお前が俺に勝ったこと前提に話進めてるじゃねえか」

「「何か問題でも?」」


黒羽と雷斗がハモった。


「お前ら…」


岡村が怒りで体を震わせ始めた。


「なあ、雷斗。とりあえずこっち終わらせるわ」


その一言に、岡村の堪忍袋の緒が切れた。


「天竜!!一撃で決めてやる!!」


岡村は炎の槍を生成し、右手に構え、黒羽めがけて飛びかかった。


「お前…、そんなに近づいたら槍のリーチが死ぬだろ」


黒羽はぎりぎりでゆらりとかわしながら、右手でフィンガースナップ(所謂指パッチン)、親指と中指に力を入れた状態で人差し指をぴんと張って岡村を指した。


「バーンッ」


黒羽がそう言うと同時に指を鳴らすと、銃の形になった黒羽の指の先から風術による弾が周りの空気を巻き込みながら発射された。


「さて…、お膳立てはしてやったぞ」


雷斗が黒羽の指の先を見ると、五十メートルほど先で岡村がのびていた。


「…、まあ、いいです。実際にうちの生徒間の問題には変わらない」


(この前感じた何かが(わか)るかもしれない)


そう言いながら雷斗は黒羽に近づいた。


「では、形式通りに…。ゴホン、あー、私は生徒会役員として、規則にのっとり、あなたに警告します。これから、生徒会であなたの処分を決定します。おとなしく、我々の管理下に入ってください。さもなければ…」

「断る」


途中で黒羽が遮った。


「力を持って強制的に連行します」

「やってみな」


黒羽が不敵な笑みを浮かべると同時に、黒羽の後ろ髪がなびいていた。


「あんまり、俺を舐めないで下さいよ。一応これでも特三なんで、ご存じでしょうが…」

「いいからこいよ」

「くっ!」


雷斗は右手から雷術、つまり電撃を放ち、電撃は雷の線となって黒羽めがけて襲いかかった。


「ふーん」


黒羽は左手ひとつで雷をかき消した。


「まずまずだな…」

「無論、あいさつ代わりですよ」


雷斗の言っていることが本気であることは、黒羽にはわかっていた。


「さて、じゃあそろそろ始めようかね」

「そうですね」


雷斗は今度は両手で構えると、先ほどの倍のスピードで電撃を放った。


「よっと」


黒羽は、そう言いながらぎりぎりでかわしながら、ゆっくり雷斗に近づいていった。


「くっ」


ぎりぎりでかわされているものの、雷斗には違和感…絶対に自分の攻撃が黒羽に当たらないと確信した。


(でも、何故だ?)


「終わりか?ならぼちぼち俺のほうからいくぞ」


黒羽は準備運動でもするように右腕を回し始めた。


「待てよ…」


雷斗は何かを思いついて後ろに跳んだ。



「何やってるの!?」


そこで、騒ぎを聞きつけた愛が近づいてきた。


「ああ、愛。それが、なぜかあの二人が戦ってるのよ」

「はあ?」


先に校庭に着いていた早子に言われ、愛が見ると、徐々に黒羽が雷斗に詰め寄っているところだった。


「おー、愛。そこに岡村がのびてるからどうにかしてくれ」

「どうにかって…」

「雷斗も眼中にないって感じね…」


そこで、早子は珍しく声を張って雷斗に向かって叫んだ。


「雷斗~、向こうは全然本気じゃないわよ~。ちょっとは焦らせな」


これには雷斗は苦笑いするしかなかった。


「簡単に言ってくれますね」

「そーだ、そーだ。俺を焦らせてみろ」


そうは言いつつも、相変わらずのろのろと黒羽は雷斗に近づいて、臨戦態勢というわけではない。


「っ!!」


(しかし、待てよ。なぜ最初は左手で防いだんだ?今の攻撃をかわせるなら最初のなんて楽にかわせたはず…)


今度は、愛が叫んだ。


「雷斗~、あんたの実力はそんなもんじゃないでしょ!どーんとかましてやりなさい!!」


(…実力?)


雷斗が改めて黒羽を見ると、相変わらず黒羽の髪がなびいていた。


「…風…術…」


そう雷斗がつぶやくと、黒羽が目を細めた。


(ほー、もう気づいたか…。想像以上だな)


「次は当てますよ」


言うと、雷斗は自分の雷術により、電撃を棒状に凝縮した。


(放出系はその術によって起こる現象の性質が大きく出る。もし、黒羽先輩の髪がなびいているのが、全身に風術による風をまとっていることによるものなら、先輩の周りの空気は密度が異なっていることになる…)


心の中で自分の考えを整理しながら、右手に雷の杖を握りながら黒羽に近づいて行った。


(そうなると、俺の雷撃が空気密度の低いところに流れて先輩に絶対当たらない…。さっき実力を見せるといっていたことをふまえると…)


「凝縮して固定した攻撃なら届くはずっ!」


雷斗が地面をけって雷杖を振り下ろそうとすると、同時に視界から黒羽が消えた。


「なっ?消えた?」


雷斗の右腕が空を切った。


「まあ、トリックに気づいた時間を考えると、合格かな…」


声のほうを見ると、雷斗の左側に黒羽が先ほど岡村を吹っ飛ばしたときと同じ手の形(指パッチン)をして立っていた。


「でも、まだ俺には届かないな、雷杖(それ)はな」


言いながら、黒羽はゆっくりと右手を雷斗の顔に近づけ、ピタッと人差し指を雷斗の眉間に当てた。


「チェックメイトだな」


そう言うと、黒羽は右手を雷斗の顔から外し、道路を挟んで学校の裏にあるため池に向かって、狙いを定めた。


「まあ、雷杖(それ)が当たるようになったと思ったらまた相手になるぜ」


そのままの態勢で目をつむると、黒羽の右手の人差し指を中心に風がらせんを描くように集まっていった。先ほど岡村を攻撃したそれとは、動作は一緒であるにもかかわらず、美しさは数段上であった。


パチンと音がしたと同時にらせん状の風の弾になってため池の中心に命中し、大きな水柱を立てた。


その光景を見た者はそれをまるで銀色の竜が校庭を駆け抜けていったかの様に感じた。



皆がたたずむ中、愛だけがその場を去りゆく黒羽の後を追っていた。


「あれは…、銀弾(シルバーブレット)…?」





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