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新・仕置き人

作者: 頭山恒朗
掲載日:2015/07/19

ヤフーブログに再投稿予定です。


「復讐で殺すなんて最悪ですよ」と、男が言った。「それも殺された方が自分が死んだのを判らないほど、あっさり苦しませないで殺すなんて、悪手中の悪手です。相手の名誉・社会的地位も財産もすべて奪う。身に覚えの罪で逮捕、収監され。その上、刑務所仲間にもてあそばれる。まさに生き地獄。これこそ“完璧な復習”です」

「でもそんなに上手くいくものですか?」と、相手。

「こっちも十分調査をしました。あの男は何人もの人を騙して今の地位、財産を得てきました。人を騙してきた人間は自分が騙されるなんて夢にも思わない。だから、逆に騙されやすい」

「私は罪にはならない……」

「何の罪になるのです? 私はこの茶碗を、そこの百均で買ってきた茶碗を箱つきで五十万円であなたに売る。私は領収書をあなたに出す。ちゃんと印紙も貼ります。あなたはこの茶碗を五十万円の価値があると信じて買った。少なくともあなたには少しの違法行為もない! 」

「でも、それだけのことをするのに五十万円では“割りに合わない”のでは? 」

「その点についてはご心配なく! あの男の資産をごっそりいただきますから、こちらとしては十分にペイします」

「……」

「<あの>ドラマで杉下右京が言っていました。“殺されて当然な人間などいない”。これは完璧な正論ですが、“正論”は面白くない。でも“正論”は“正論”ですが、この台詞はポアロが“オリエント急行殺人事件”の中でも言った。しかしポアロは、結局、殺人者たちを見逃します。私たちはあの男を殺すのではなく排除するのです。居ないほうが方がいい人間を、この社会から排除するのです」


“しかし、世の中にはお人よしがいるものだ”とおれは男が店を出て行く後姿を見つめつぶやいた。“何人も! ”

 明日、相手を信用させるために相手の口座に振り込む。ほとんど、おれの全財産だが一月もすれば何倍にもなって戻ってくる!!


 本当にいい女だ! こんな若くていい女が女の方から声をおれにかけてくるなんて信じられない。と、思った。

「おじさん凄いわ! 」と、<こと>をすませると女が言った。「でも、ちょっと休ませて! これを飲んで、 その後は……」

 おれは勧められるままに女が差し出したコップのコーヒーを飲んだ。しばらくすると急に眠くなって寝込んでしまった。目覚めるとすでにあの女は姿を消していた。あわてて財布を確認したが現金もカードにも異常はなく、女が急に恥ずかしくなって先にホテルを出たのだろうと思った。

 おれはホテルで朝食をとり、通勤時間帯の混み合う電車に乗った。いいことは続くものでなかなか美形の女子高校生がおれの前に立ち、気のせいかおれに体を摺り寄せてきてかすかな体臭がした。豊かな胸の谷間も見え、おれの下半身の一部が変化した。


 おれは自宅に帰るとあの<お人よし>に電話をした。

 電話の向こうで機械的な声で女が言った。「現在この電話はお客様の都合で使われていません」

 おれは目の前が真っ暗になった。そして、おれはあの<お人よし>の家も事務所を知らないこと初めて気づいた。

 騙されたのだ! <お人よし>はあの男でなく、おれだったのだ。

 おれは全財産を失ったのだ!


 警察署に入ると窓口に向かった。不思議なことにそこに電車の女子高校生がいた。女子高校生はおれの顔を見つめ、制服を着た女の警察官に何かを叫んだ。おれが何も言う前にその女の警察官が(星の数で巡査とすぐにわかった)、「ちょっとこっちに来てもらえますか? 」と言った。


 結局、おれは痴漢容疑で取り調べを受けた。

 女子高校生が「電車の中で痴漢されて。制服を汚された」と届け出たところに、のこのこと痴漢当人が現れたというのだ。

 勿論、おれには身に覚えがないことだった。おれは「確かに、今朝、電車の中で自分の前に立っていた女の子だけれど、痴漢なんかしていない。制服を汚したなんてとんでもない濡れ衣だ」と言った。

 定年前の警察官(星が警部補だと言っていた)が「なら、DNAを提供して貰えますか? 」と言った。「やっていないならDNAを提供してもれますか? DNAがあなたの無実を証明してくれます! 」と続けて言った。

 おれにその申し出を拒否する理由はなかった。本当にDNAがおれの無実を証明してくれると思った。


 ところがそのDNAがおれの有罪を証明した!


 こうしておれは女子高校生に対する痴漢行為で逮捕され、「痴漢がのこのこ警察署にやって来た!! 」とマスコミに取り上げられた。

 いくらおれが「無実」と言ってもどうにもならなかった。弁護士でさえ「事実を認め、反省をしているふりした方が罪が軽くなる」と言った。

 悪いことは続くもので、おれがかつて騙した男や女が次々とおれを詐欺で次々と訴えた。おれの痴漢行為を「見た」と言う証人も出てきた。初めおれの冤罪を疑っていた警察嫌いたちも、おれを信じてくれなくなった。弁護士でさえ「なんで、こんな男を弁護しなければならないのだ! 」という顔をした。

 でも、おれは女子高校生には何もしていない!!

 定年前の警部補が取調の最後に言った。「あんたはいい男だ! 女みたいだ。刑務所では気をつけた方がいい」


 そしてそれは現実となった。いつ、何をされるか怖くてたまらない。こんなことなら、あっさり殺されたほうが何倍もましだ!

 すべての財産を騙し取られた。正当なおれの金、親からもらった金、まともに働いていたころに稼いだ金も失った。それなりにあった地位も名誉もなくした。こんな状態で出所しても野垂れ死にするだけだ。


 で、おれは自分で死ぬことにした。

 本当、こんなことなら誰かに殺された方がマシだった。


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