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始末書

6.

「無駄な行き来をしている気がする」

 小さな部屋の中、真っ白な紙を見つめて、無理やり持たされたペンを必要以上に強く握ってショウキは呟いた。

「俺の仕事を増やしたからだ」

「あんたが逃げるからよ」

隣に座って同じように無理やりペンを持たされていたファーラと壁際にもたれかかっていたタイトが同時にショウキの問いを返す。

「全く……、仲がよろしいのは非常にいいことだが、もっと他人に迷惑を掛けないようにしてくれよな」

「……」

 この言葉にはファーラが赤面する。

「まあ、反省しているならいいが、それなら今日中に始末書を書きあげてくれよ。長官も忙しいんだから」

「なんかイベントでも実施するんですか?」

 ショウキは自分が反省しなければならない点を懸命に考えながら、口を開いた。

「イベントといえばイベントかもな」

「そうですか」

 ショウキは曖昧な答えに対して深く考えることはせずに、ただ相槌を返した。

「なんでそう思うんだ?」

 タイトはショウキのある意味的を得た問いに疑問を覚える。

「いえ、ちょっと気になることがあるんですよ」

「なんだ? まさか監視されているとか言い出すんじゃあないよな?」

 その問いに筆を止めて顔を上げたショウキは不思議そうな顔をする。

「どういうことですか? まさかタイトさん、監視してたんですか?」

「そんなわけあるか」

「ならいいんですけど……。気になっているのはノワールさんのことですよ」

「長官?」

 予想外な言葉にタイトは目を開く。

「ええ。さっきらしくない命令を受けたので、ちょっと気になって」

「命令? ……多分それは別件だろうな……」

 深刻そうなショウキの言葉とは裏腹にタイトは何やら安心したような表情を見せた。

「別件?」

「気にするな」

 すかさずショウキはタイトの漏らした言葉を反芻させるが、タイトはあたかもなかったように呟きを否定した。

 ショウキはわけもわからないという顔をタイトに見せたが、一方で黙って始末書を書き続けていたファーラは二人の気づかないうちに何かを悟ったような表情を見せた。

 また、密かに部屋の様子をうかがっていた人物が静かにその場から立ち去ったことにはその場にいた全員が気付くことができなかった。


7.

タイトが持ってきた報告書を静かに読んでいたノワールは、おおよそを読み終わったところで顔を上げた。

今は他の人間の影はなく、長官室は静寂が包んでいた。

ノワールは溜め息をつくと、報告書を無造作に机に置き、何かを考えるかのように目を瞑った。


「戦の薫がしますね、主」


その声がした瞬間、ノワールは急に立ち上がって辺りを見渡した。

しかし、声の正体が壁際に立っていたことに気づくと、冷静さを取り戻し、

「いつも急に現れるのは控えてほしいと言っているのは本気のつもりなんだがね?」

と、話しかけた。

 そこにいたのは黒い陣羽織のようなものを羽織った女性だった。着物と同じような黒髪と鋭い眼光が目立つ彼女は二十代にも三十代にも見える。

「これでも気配を出しているつもりです。これ以上は到底……」

 きっと冗談を言っているつもりなのだろうが、ノワールにはそんな風に感じ取ることはできなかった。

「せめて普通に入室してくれると嬉しいのだけど?」

「善処します」

 無表情に返答する彼女を見て、次回もきっとこのやりとりを行うことになることをノワールは予想しつつ、改めて着席した。

「で、君の用件はなにかな、シズヨ?」

 シズヨと呼ばれた女は鋭い目を一度閉じてから、ジッとノワールを見て口を開いた。

「主がきっとお呼びになるだろうと思い、先に参上した次第です」

「どういった根拠でそう思ったんだい?」

 ノワールは予想だにしなかったシズヨの言葉に驚きつつ、その意図を確かめた。

「風が変わりました。これは嫌な風です」

「どういう意味だい?」

「風はこちらに来て、嵐になるのでしょう」

「???」

「それは主にとってわずかながら脅威になることは間違いないのでは?」

「……」

「嵐が壁を破ることはないでしょう。ですが、主はなにかを危惧していらっしゃる。違いますか?」

 シズヨの言葉が終わっても、ノワールはすぐに問いに答えられることができなかった。

 シズヨはそんなノワールの姿を見つめながら、話を続けた。

「主が危惧していることにきっとお役に立てると考えて、参上したのです」

「というと?」

 ノワールはここに来てシズヨの真意を掴みかねた。

「主の想いと同じということです」

 部屋にはシズヨの強い意志に賛同するかのように、強い風が舞い込んだ。


「今度こそ到着だな」

数時間にわたる長い始末書を書きあげた後、再び市街地へと入っていた。

書き上げる寸前にタイトから口は災いを呼ぶだろうという忠告を言われたショウキは首を少し傾げながらもそれを守り、当たり前のようについてきたファーラもあまり口を開かなかったため、特になにか起きることもなく目的地に着こうとしていた。

最初に商店街で集めたときに、彼は多くの商店主からまだ誰も寄り付かず、開発も全く進んでいないエリアに一件、商店があるのを見たという話をショウキは聞いていた。

結局喧嘩騒ぎやら、ファーラに追われるやらで随分遠回りをしてしまったが、彼らの目の前には野原になぜか佇む一件の家があった。

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