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消費生活センター窓口なアベル

「こんにちはー!町長さん!マーガレットでーす。」



町に着いた二人は真っ先に町長宅を訪ねていた。


朝からマーガレットに驚きの話を聞かされた後、アベルが理不尽な要求だから何とかしようというと、今度はマーガレットが驚いた。町長たちの要求に疑うことを思いつかなかったらしい。

その後、町に向かう道すがらマーガレットと今後の打ち合わせもした。町に着いた頃には二人の今後の予定も決まり、町長宅を訪ねることとなった。


町の中心を通る道の一つである商店街表通りに町長の店舗兼自宅はあった。二階建ての立派な建物だ。表に面している側がよろず屋になっている。裏側は中庭を囲むように客室も作られており、なかなか裕福そうである。

マーガレットはいつものように裏口で叫んだ。立派な呼び鈴はすぐそこに付いている。

年頃の女性の子供のような行動に、アベルは少し離れた物陰で残念な気持ちになりながら見守っていた。

アベルはこの町に来た初めに騎士として町長に話を聞いていた。そこで警戒されないよう、まずマーガレットだけで町長を呼び出してもらったのだ。


「やあ、マーガレット!こんな時間に珍しいね。

 商品の納品は先週に終わったと聞いていたが、まだ何かあったかい?」


呼び鈴でなく呼び出されたことも気にせず、でっぷりとした体格の白髪混じりの薄い頭の男が出てきた。町長のジョルトだ。マーガレットを見てニコニコしている様子に悪意は感じられないが・・・・・・。


「納品は終わってるんだけど、ちょっと聞いてもらいたいことができてさ。今でもいいかな?」


最近はこの時間はお客さんで込み合うからと夕方に納品するように言われていた。町長の息子たちに。


「ああ、お上がりなさい。最近息子たちに仕事を任せているから私は空いているんだ。

 それにこの時間帯なら客足もまだ少ない。息子たちも必要なら呼ぶかい?」


「?」


マーガレットが、え、暇なの?っと言葉に詰まったところでアベルは物陰から姿を現した。

あらかじめマーガレットから、お店の忙しい時間帯だから町長と相談するのは無理かもと聞いていた。しかしアベルはおかしいと思っていたのだ。町の様子を知らないマーガレットなら騙されるだろうが、ただのよろず屋に朝から客足が多いとは思えない。



「今は必要ありません、ジョルト町長。先日お会いしていましたが、覚えておいででしょうか?

 今はこんななりですが、私はルーン領で騎士を拝命しております、アルベルト・キルラーと申します。

 本日はマーガレット嬢の事について話し合いに参りました。」



アベルの顔を見てギョッとした町長は急いで二人を客室に通した。マーガレットは町長さんがジョルトって名前なんだ!と初めて知り(10年以上の付き合いなのに)、アベルがアルベルト?と混乱し、ただ二人の顔を見るしかできなかった。



通されてた客室では主にアベルが説明し、町長はだんだん顔を青くしながらしかし静かに聞いていた。


「マーガレット、本当にすまなかった。

 息子たちが何かこそこそやっているとは思っていたが、まさか魔女様(マーガレット)から搾取しようとしていたなんて・・・・・・。」


町長は声を絞り出すように謝罪の言葉を出した後、息子たちを呼ぶから待っていて欲しいと言って席を立った。

二人きりになったところでアベルはマーガレットに言った。



「どうやらジョルト町長は君にずっと優しかったようだね。息子たちと違って。」


「うん、おばあちゃんが亡くなった時は一緒になって悲しんでくれたし、お墓作りも手伝ってくれたよ。

 おばあちゃんもいないし、これからはこの家に一緒に住まないかって言われてた。

 あと娘になって欲しいとかさー。

 あいつらをお兄ちゃんとか呼ぶのは嫌だなってすぐ断ったよ。」


「そこはちょっと違う娘だと思うけど。ああ、やさしさにも打算が含まれていそうだねぇ。」


「?」



アベルはそこまで説明する気にはなれなかった。

町長もだいたいのところ息子たちが何をやっていたか気づいていただろう。秘密の仕事(レンタル)がうまく商売になれば良し。これを機に息子の内の誰かとマーガレットが上手くいけば、魔女様を身内にできて家も安泰、尚良しと。

だが、息子たちはマーガレットを搾取する対象にしか見なかったようだ。マーガレットも息子たちを伴侶候補として見ることはなかったようだが。

信頼している町長達の裏切りをマーガレットに言っても傷つけるだけだろう。


マーガレットの生活を元通りにしなくてはと思っていたが、騎士が云々よりも、これはなるべくしてなったようなものだなと溜息が出た。

恒久的に魔女を町に留めるため婚姻で縛りつけて、さらに魔女の子孫が増えてくれたら、と考えるのは為政者であれば誰でも思うことだろう。前任の魔女は子を残していないようだし、それが自分の血族になるとなればなおさらだ。


マーガレットはよそ者への警戒心は立派だったが、自分のテリトリー内の人間は全く疑いもしない。この問題が片付いても根本的な解決にならないことにアベルはもう一つ溜息をついた。


コンコン、とノックされ町長一家が入ってきた。

町長の後ろに三人の息子と町長の奥方が項垂れて続く。息子たちは二十歳前後でお互い似たような顔つきをして同じ作業着を着ている。奥方は仕立ての良さそうなドレスに整った顔立ちの年増美人だが、釣り目の狐顔で計算高そうに見える。町長が言い含めてきたのか全員がばつが悪そうに立っていた。



「マーガレットの言うとおり、息子たちがチョコレートの金額を偽ってキラ星石を借り上げていた。

 本当にすまなかった!」


町長が進み出て勢いよく頭を下げた。続いて四人も深々と頭を下げた。キラ星石のレンタル先は奥方の紹介ということだった。


「もういいよ! 怒ってないから。ね、頭を上げて?」


マーガレットは大したことだと思っていなかった事が大事になったと焦った。町一番に偉い町長一家が頭を下げているのだ。対して自分はそこまで怒っていない。そもそも自分では気づかずにアベルに指摘されて相談に来たのだった。


チョコレートは美味しかった。対価にキラ星石を貸しただけ。ただ領主様の目にとまってしまったのは困ったが、アベルが取り成してくれるし問題解決だ。そう、今回のことでアベルと友達になれたのだ。初めての友人!得た物の方が大きい。


「・・・・・・俺たちを許してくれるのか?」


長男と思われる息子がおずおずと言った。


「チョコレート代はもう払わなくて良いんだよね。なら、これからは正当な取引をするって誓って。

 だったらもう怒る理由がないよー。」


懐が痛まないならもう問題無しと良い笑顔のマーガレットをみてアベルはちょっと呆れた。俺のことは初対面で見捨てるは疑うは散々だったような。


「許してくれてありがとう。俺たちは商人の神に、マーガレットに、正当な取引を誓う。」


長男が謝罪と誓いの言葉を宣言し、後の皆もそれに倣った。


今回は謝罪がされて、正式な誓いの宣言もされた。まあ、慰謝料を請求するわけでもなし町長側も余計な逆恨みもしないだろう。取り敢えずマーガレットのハッパー町の生活は守られるのではないだろうか。婚姻についてはマーガレットも気づいていないようだし今は保留だな。



アベルは横目でマーガレットにこれでいい?と聞くとマーガレットは何度も首を縦に振った。

8/17修正しました。

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