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友人の事情

お日様の光が上ってくる少し前、川から水をくむために外に出た。

見上げると薄闇の空がだんだんと色付いていきた。

夜明けだ。この時間がマーガレットは好きだった。


すると後ろから足音が近づいてきた。


「おはよう、マーガレット。水汲みだろ、手伝うよ。」


「おはようアベル! ありがとう。でもよくここにいるってわかったねー。」


温泉と源を別とするこの小川は家から森に入って五分の道のりだが、下草が茂っていて道なき道だ。


「俺は下っ端だけど、気配を追うのは得意なんだ。

 さ、水桶貸して。」


昨晩はいろいろ考えていて眠りが浅かったのもあるり、マーガレットが部屋を出ていく気配で目が覚めた。おそらく朝の水汲みだろう。マーガレットの気配は覚えている。アベルは軽く身だしなみを整えて後を追った。

不思議なのはいつも以上に気配が楽に追えたことだった。この森の精霊の加護ってやつだろうか?


この水場は温泉とはまた別の川らしく、生活用水はここで賄っているのだという。温泉は薬効もあるが飲みすぎると腹を下すらしい。

帰り道、マーガレットはちょっと待っててと言って急に横道に入った。

そこから止める間も無くマーガレットはスルスルと木に上り、鳥の巣から朝食の卵を二つだけ頂戴した。アベルは目と口が開きっぱなしの顔を笑われて我に返った。

危険だと注意するアベルを笑いつつ、最後に家の裏の小さな畑から朝食分の葉野菜を収穫して戻った。

新鮮な食材の美味しい朝食を頂いた後、出発の準備をしていたアベルにコップが差し出された。


「食後のお茶はいかが。美味しいし目が覚めるよー。」


「目が覚める? 熱っ、ホントだ、美味しいね! この地方の特産品なの?」


食後にお茶を出されて驚いた。アベルのいる地域では、お茶は普通眠りを誘うものとして夜に飲まれている。朝食後は白湯が定番だった。

このお茶は香ばしい香りにほろ苦い味が合っている。成程、気分がすっきりするようだ。



「トクサンヒン?おばあちゃんといるときから飲んでいるけど。ああ、町にはないだろうねー。」


マーガレットはぽんっと手を打ってこちらをみた。


「森で初めて会ったとき、採取していた根っこだよ。これ。乾燥して細かく砕いて炒るんだ。

 あの木は町では生えてないと思う。」



・・・・・・ぶはっ!


吹いた。


びちびち動き回ってた根っこ? あれそもそも根っこだったの? それがこれ!


確かに目は覚めた。



「なに、むせちゃった? 慌てなくてもお代わりはあるからねー。」


マーガレットは見当違いの気遣いをしてくれた。

しかし昨日から思うに、言葉の端々に年下扱いされているような気がする。

絶対に俺の方が年上だ。根拠のない自信だが、年齢の上下ははっきりさせたい。

そういう考えがむしろ幼いのだが、アベルは気が付かない。



「マーガレット、お茶、美味しかったよ。ごちそうさま。

 ところで気になったんだけど、マーガレットは俺より年下だよね? ちなみに俺は19。」



女性に年齢を聞くことは失礼だと知っていたが、マーガレットは気にしないだろうと率直に聞いた。

気遣いのできない残念な王子様、アベルであった。



「ああ、だったらたぶん年下だよ。18歳くらい。

 私、迷子らしくてねー。

 その時自分で3歳って言ってたらしいから、それが正しかったらそれぐらいになるみたい。」


「いや・・・・・・踏み入ったことを聞いてしまって、すまなかった。」



俺のほうが年上じゃないかというつもりが、思った以上の話がでてきてしまった。

いや、迷子? 捨て子じゃなくて?



「え?なんで謝る?怒ってないよ。」


「それはデリケートな話題でしょ。いや、迷子は別か?」


「おばあちゃんが、いつか親が探しに来るだろうからここで待っていなさいって。

 探しに来た人に渡す手紙もたくさん書いておいてくれているんだ。成長記録っていってた。

 15年経っても、おばあちゃんが居なくなっても、でもまだ諦めきれなくてさ。

 どうせ待つなら、ここを取り上げる貴族の人とかに絶対見つかっちゃいけないっていわれていたんだ。」


思った以上の事情が出てきてしまった。


「なのにキラ星石を作って、領主様の目を引いてしまったと。」


思わずマーガレットを咎めるように呟いてしまった。

なにをやっているんだマーガレット。

友人の生活を守ってあげるつもりだが、この危機感の無さはどうしてくれよう。


「だって、最近町から入ってきたチョコレートってお菓子がさ。すっごく美味しいんだけどすっごく高価でね。

 無駄遣いしたら将来生活が大変になるから、内職で儲けようかなっと。」


言い訳が、賢いのか間抜けなのかわからない。チョコレートは確かに高価だが、将来設計に響くほどだろうか。


「五粒がひと月の収入と引き換えだから、買えないって言ったんだけど。

 そうしたら味見した分は払えって言われて、それも無理ならここに住んで働いて返せとか言われるし。」


「え?」


「ヒドイよね!味見は無料タダだと思うよね?

 仕方がないからキラ星石をレンタルに出してお金を稼ごうとしたんだ。

 キラキラしてキレイでしょ。借り手は絶対いると思って。

 でも借主はあいつらが選んでいたから私はどうなっているかよく知らないよ。」


確認したいことが山のように出てきた。大事にされているはずの魔女様が、町で誰かに騙されているようだ。町に着くまでに解決できるよう策を練らなくてはいけない。

騎士でありマーガレットの友人である俺は気合をいれた。


治安維持担当巡回係のアベルは、領民の相談にのる事も仕事のうちであった。むしろそちらの方が仕事の割合が大きいくらいだ。騎士っぽいかどうかは聞かないで欲しい。


「まず、マーガレットに確認するね。キラ星石は回収してもう作らない、貸し出さないんだよね。」


こくり。アベルの目が真剣で思わず顎を引いていた。


「じゃあ、領主様にはお祖母さんが作ったものだと報告しよう。もう作れないということになるけど、領主様の興味はだいぶ逸れると思う。良い?」


こくり。あれ?まって、でもチョコ代は。


「チョコレートはそこまで高価じゃない。価格は今から話し合って訂正させよう。まだ欲しかったら俺が真っ当な仕入れ先を紹介するよ。良い?」


心の疑問はアベルに見えるのか。

こくりと頷く。安くなるならうれしい。



「あと大事なこと。あいつらって誰だ。」



アベルの声が低ーくなって、碧の目がぎらっとした。

マーガレットはすくみ上った。

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