表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/36

噂の真相をなんとかしたい

「マーガレット嬢の言うとおり、俺は騎士で、光るアクセサリーの噂を確かめにきたんだ。

 実物を後で見せてくれるとうれしいんだけど。

 あ、逸れ人がダメなのもホントだからな!

 今から外に放り出さないでくれよ。逸れ人は本当にダメなんだ!」



話している途中からマーガレットが難しい顔をしだした。

嘘つきな騎士がトラウマを偽って家に入り込んだと思っているのだろうか。

いかに女性の家に上がり込むのが非常識であろうと、追い出されてはかなわないのだ!



「大丈夫、涙と鼻水が演技だとは思ってないから。

 今更放り出したりしないから安心して。」



マーガレットはパッと顔を上げ、こちらを気遣う様子で言った。

だがしかし、アベルはえらい恥ずかしかった。こっそりと涙と鼻水は拭ったはずなんだが。

気遣ってくれているんだよね? やさしい子なんだよね?



「あの、キラ星石は、・・・・・・今手元にないから見せられないんだ。

 まあ町に行けば貸し出した分があるけど(もう光らないしなー)・・・・・・。」



先ほどはマーガレットは光る石について考えていたようだった。



「ハッパー町にあるの? じゃあ他の奴が見つけちゃってるかな。

 キラ星石っていうんだね。町にまだあったら貸してもらって良いかな。

 その時は預かり証を書くね。ありがとう!」


アベルは任務が早く終わりそうで助かったと嬉しそうだった。やはり仲間の騎士はいたようだ。

他の騎士に回収されてないようなら、村長に掛け合ってキラ星石を貸すように取り計らってもらう約束をした。


「でも(今は)光らないよ?」


アベルがあまりに嬉しそうにするので申し訳なくなってきて、マーガレットは思わず言ってしまった。

アベルはその様子をみて思い至った。

マーガレットが心配そうにしていたのは石が噂通り光らないってことだったのか。


「いやいや、もとから噂の確認だから。光る石を持ってこいって無茶な任務じゃないの。

 マーガレット嬢は光るってみんなを騙していたの?」


ふるふるとマーガレットは首を横に振った。決して騙してはいない。


「違うんだよね。だったら安心して。

 俺がキラ星石を持って行って、領主様に実際に見せて誤解を説いてくるから。」


領主様の好奇心で騎士が動くことはそれほど珍しいことではない。

基本的に、噂の真相がわかったり、領主様の好奇心が満たされたら任務完了であった。

アベルは光る噂は噂に過ぎないと、うまく勘違いしてくれた。

マーガレットはその幸運に感謝した。このまま、月の光をうまく反射する石だと押し通してしまおう。



「それとさ、ずっと気になっていたんだけど、なんで俺が騎士だってわかったのさ。」



アベルは現実味のないキラ星石よりも、自分の正体を見破った理由が気になった。



「んー、匂いだよ。脛の辺りに短刀かなんか仕込んでるでしょ。

 アベルさんから騎士団専用の剣の手入れ用油の匂いがする。」


「! 隠している場所までわかるんだ?

 これ、そんなに匂うかな。気になったことなかったけどなぁ。」



予想外の返答に驚き、隠していた短刀までバレていたことにこっそり落ち込んだ。

アベルは隠している短刀の場所を嗅いでみたが、草の汁のような匂いが少しするだけだった。

この油を塗ってるときだって匂いが気になる事はなかった。

騎士団に入って初めてこの油を知ったが、これを塗っておけば切った相手の傷が治りやすいそうだ。

対犯罪者の騎士団にしか卸していないと聞いていたが、確かに切った相手まで思いやる必要があるのは犯罪者を裁く必要がある騎士団ぐらいだろう。

マーガレットはなんでそれを知っているんだろう。



「毎日薬草の調合をしているから、匂いに敏感になったのかなー?

 まあちょっとクセのある草ばかり入っているしね。

 うーん、普通の人にはわからないかなー。」



マーガレットはうっかりな子のようだ。しかしどうやら優秀な魔女らしい。


魔女とは薬草を扱う者の総称だ。

魔法使いは絵本の中にしかいないが、魔女は人々の生活に重要な役割を担っている。医者に薬を卸している者も珍しくない。

どうりで町で話が聞けないわけだ。ハッパー町はこの魔女(マーガレット)を大事に隠していたようだ。

権力者が魔女を召上げて帰さないという話は珍しくない。



「マーガレット嬢は優秀な魔女なんだね。これは失礼をいたしました。」


胸に手を当て優雅な騎士の礼を取ると、マーガレットも乗ってきた。


「そうよ!偶々、月の光できらめくキラ星石を作っただけの魔女様よ。」


偶々かどうかはさておき。

彼女の平穏な生活に、余計な波風は立てなくて良いだろう。


「わかったよ。領主様の報告は上手くしておくよ。一宿一飯の御礼はきちんとする。」


「ありがとう!助かる。」


マーガレットは洗濯を終えると、夕食の支度に取り掛かると言って倉庫に食材を取りに行った。


嘘も必要なくなり、マーガレットは何か月ぶりかの人との会話を存分に楽しんだ。

アベルの話は面白く、とても興味深かった。

領主様の城下町など行ったこともない所の話、それから流行のお菓子から旅の苦労話などなど。質素な夕食がとても美味しく感じたくらいだ。

寝る前にはお互い打ち解けて、自然に敬称も付けずに呼び合うようにまでなった。

もう俺たちは友だと言ってアベルとマーガレットは笑いあった。

マーガレットの人生初の友人ができた夜だった。


マーガレットはこの森から滅多に出ることもなく、半年前までは祖母と二人暮らしだった。年の近い友達はおろか、人の知り合いもほとんどいなかった。

身内以外で会話するのは、数か月毎に納品で顔を合わせる町長一家ぐらいだ。町長の息子たちは何人かいたが、年が近い兄弟のおかげで会っても誰が誰か区別がつかない。よく森で会う小動物の方が顔の区別がつくと思う。その点アベルは王子様的配色だからわかりやすい。



夜もふけて、二人は明日の朝出発する約束をして寝ることにした。

寝る前に、アベルは頑なにリビングのソファーで寝ると主張した。同じ部屋なんてダメだよ!と言っていたが、マーガレットにはよくわからなかった。ベッドは二つあるのに。

二部屋あるうち、寝室が一つ、作業部屋が一つで、おばあちゃんのベッドももちろんマーガレットの寝室にあったのだった。

仕方がないのでマーガレットは、まあソファーが好きなら無理にベッドを勧めないよ、とおばあちゃんのベッドから毛布だけ持ってきてアベルに渡した。



マーガレットは布団の中で、アベルがまた家に訪ねてきてくれないだろうかと考えていた。アベルとの夕食はとても楽しかったのだ。しかし良い考えは浮かばなかった。

騎士様が遠い領地から来たのはキラ星石が理由だったのだ。もしこのきっかけでこの森を離れるようなことになったら・・・・・・。そんな危険は冒せない。



同じように、アベルもソファーに寝そべって、無邪気な友人のことを考えていた。

彼女と話していてとても楽しかった。受け答えが的確で、会話の端々に知性が感じられた。彼女の祖母は教育をきちんとしたようだ。ただし、対人関係を除いて。

マーガレットは、人間はだいたい男と女に分かれていて、夫婦になれば子供ができる、程度しか知らないようだ。森の動物も一緒だからわかるって!とニコニコ顔で言ったときは黙るしかなかった。

年頃の男(アベル)と同室で寝ることも気にしていなかった。いくら友人だろうが、穢れ無き俺だろうが、同室は無理だ!



もし、キラ星石がきっかけで領主様が魔女(マーガレット)に興味を持ったらどうなるだろう。

とても今のままではいられないだろう。

世間知らずな彼女は、欲張った大人たちに食い物にされるかもしれない。


任務対象者から友人になってしまったマーガレット。

こちらの都合で平穏な生活を奪うわけにはいかない。

友人の穏やかな生活は守らねば。

痩せた月の光の下、アベルは明日にやるべきことを考えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ