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嘘がはがれて

お風呂から上がった不審者アベルはなんと、金髪碧眼の王子様だった!

ちらりと見えた碧の目も珍しかったのに、泥を落とした髪はキラキラふわふわの金髪だった。


洗濯中に突然、服を着ろ!と叫びだしたり、良いと言っているのに風呂に浸かる順番を律儀に待っていたり(日暮れに間に合うかこっちが焦った)、おかしな人だと思っていたが、泥を落とした姿は素敵な王子様だった。

金髪はゆるく巻いていて獅子のようだし、碧の眼は森の奥にある深い湖のようだ。こんな色合いなんて、家にあるたった一冊の絵本に出てくる王子様だけだ。

マーガレットは髪も目も地味な茶色だった。亡きおばあちゃんも、唯一出かける近くのハッパー町の住人もほとんどがマーガレットと同じく茶色だった。



「物語の王子様みたいな髪と目だね!」



二人は風呂上りに洗濯物を干していた。今は乾燥する時期だし、室内干しでも明朝には乾くはずである。

マーガレットは揺れる金の巻き毛を鑑賞しながらご機嫌だった。

嘘つき騎士だろうがキレイなものはキレイ。テンションが上がる。

アベルも手は動かしながら、



「住んでいる町でも結構珍しいみたいだよ。おかげで顔と名前は覚えてもらいやすいんだ。」



と苦笑いして言った。

ちなみに顔の作りはまあまあなのだが、上二人の兄がかなりの美男子ということもあり、周りでは残念な三男坊と呼ばれて切ない想いもしている。



「マーガレットのほうこそ汚れを落とした姿に驚かされたよ。

 土が取れたら想像以上の素敵なお嬢さんでビックリした。

 艶やかな髪に澄んだ瞳。まるで森の妖精だね。」


アベルはさらりとほめた。

本音は森の妖精≒小リスである。


「!」


お世辞をすらすらと言われ、くすぐったくなったマーガレットは話を変えた。

ここに泊めるとなってから色んな意味で気になっていたのだ。



「そういえば、アベルさんは一晩帰らなくて心配する人はいないの?」



「明日の昼ぐらいまでに戻れば問題ないよ。

 昨日ハッパー町に着いて、三日間の予定で仕入れ先を探し歩いているんだ。

 宿に馬を預けてるから、三日経って取りに来なかったら連絡する先も伝えてあるしね。」



暗にアベルが帰らなかったらマーガレットも面倒なことになるよ、と言ってみたが。



「ふぅーん。だったら大丈夫か・・・・・・。」



とマーガレットは気づかずに安心しているようだった。

アベルも、マーガレットが二重の意味で安心していることに気が付いていなかった。


実はアベルが探している光るアクセサリー改めキラ星石は、五夜しか光らない。

マーガレットは三日前、町長にネックレスと指輪とイヤリングの3点セットを納品してきた。


いつも一夜目は自分で光るところを確認してから持って行くから、昨夜で四夜、今夜で五夜目。


おそらくアベルには何人か仲間がいるだろう。騎士は数人のグループで行動すると聞いたことがある。

昨日に着いたと言うのは嘘をつく必要がないだろうから、最速でそのうちの一人に昨夜に光っているところを見つかったとして。

今朝それを持って出発したとしても、領主様のところまでは馬を飛ばしても一晩はかかるから、最後の五夜目は騎士の懐で終わるだろう。


目の前で光らなければ、いくら騎士が騒いでもご領主様は信用しないだろう。と、思いたい。


キラ星石で騎士が出る騒ぎになろうとは思わなかった。

アベルは隠しているつもりだろうが彼は騎士だ。

騎士団の剣の手入れをする油はマーガレットが作っている。その油独特の臭いがアベルからしたのだ。

その油は特殊で、マーガレットしか作れないし、今まで騎士団以外には卸していない。

町長経由で売ってもらっているのでマーガレットが作っているとは気が付かれていないだろう。



「マーガレット嬢こそ、おばあ様かな?いつ帰ってくるんだい?

 風呂までもらって早く御礼を言いたいんだけど。」


「! いや、そういえば遅いなー。どこまで行ってんだろう?」


そうだった。おばあちゃんがいるフリをしていたんだった。

他に大人がいると言えば変なことはしないだろうと咄嗟に嘘をついたのだった。

それに、半年前に亡くなったおばあちゃんが居る振りをするのは、なんだか楽しかったのだ。



「・・・・・・もう日が暮れてだいぶ経つけど大丈夫?」



アベルの方は本気で心配になっていた。

高齢の女性となれば余計にだ。二人暮らしで心細いだろうに。

アベルは震える膝を叩きながら、一緒に探しに行こうとマーガレットに声をかけた。

腐っても騎士だ。娘一人で外へ行かせられない。

でも独りでは行けそうにない。

逸れ人に遭遇することなんてめったにないと頭ではわかっているのだが身体がなかなか動いてくれないのだ。

毎度のことながら情けなくて泣きそうだ。


マーガレットは震える膝に激を飛ばすアベルの様子をみて、思っていたよりも良い人な様子に、なにより情けない感じも加わって、だましていることに罪悪感が湧いてきた。


これなら一人暮らしだって言っても大丈夫そうだなぁ・・・・・・。

嘘を考えるのも面倒になってきたし(本音)。


マーガレットは反省とか危機感とかいう言葉がうまく理解できていないようだ。




「いやぁ、実は・・・・・・。」



先ほどマーガレットがぺらっと全てしゃべった。

実は独り暮らしなんだと。ついでにアクセサリーは自分が作ったけど渡せないと。


「だましてごめんねー。アベルさん。」


えへへぇと笑っている。

まるで子供のいたずらがバレた時の態度のようだ。


「・・・・・・。」


こちらが言うのも何だが、危機感がないのだろうか?

夜の森を歩かずに済んで本気で助かったが、素性のわからない男がいるのに独り暮らしと言ってしまうなんて。襲われても仕方がないぞ。

自分の立場を忘れて思った。


アベルは何と注意して良いのか言葉が見つからず、ただ彼女を眺めるだけだった。


それにしても、初めに来たのが自分で良かったとしみじみ思った。

悲しいことに、騎士であっても素行の悪い輩は珍しくないのだ。

自分は弱き者たちを守る騎士であり、誇り高き紳士(初めてを素敵な体験にすべく大事にとっておいている派)だ。


マーガレットと話してみて気が付いたが、彼女は見た目の年の割に幼い。

特に男性を意識していないようだ。

目の前で下着を干しても干されても気にしていない。逆に男性用の下ばきは初めて見た形だと興味深げだった。もちろんすぐに手ぬぐいで囲って隠したが。まるでこちらの方が乙女だ。


ちなみに渡された着替えはズボンではあるが女性用だった。丈が足りずに半そで短パンになっている。



「もう、そんなにムスッとした顔で睨まないでよ。

 でもさ、アベルさんも嘘たくさんついているよね!」


返事をしないので怒っているのと思われたようだ。

こちらの嘘に気づいていたとは、危機感がないわりに聡い子らしい。



「そういえば、騎士ってどうして・・・・・・・。」



アベルは、初めて会話が出来た時から騎士とばれていたことを思い出した。

気にはなっていたが、慣れない嘘にボロが出そうで今まで聞けなかったのだ。


実はアベルにとってこの任務はイレギュラーだった。

アベルは騎士になってからずっと、領主城下の治安維持担当、巡回係である。

なのに、噂話の確認なんてやる気の出ない先輩騎士達が、町以外の森の住人の調査を下っ端のアベルに押し付けたのだ。



「ホントの事を言い合って、お互いスッキリしてお話ししたいなー。」


マーガレットはこちらの誠意を促した。

ずいぶん小生意気な態度だが、なんだか笑ってしまって、嫌な気はしなかった。



「・・・・・・そうだね。」


相手が素直に話してくれたのだ。

もう話を聞き出すためにと騙さなくても良いだろう。

アベルからふっと力が抜けた。



その時、マーガレットはアベルの自然な笑顔を初めてみた。

そして、もっと見たいなと思った。

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