番外編:アベルは願う
もうホント遅い投稿でごめんなさい。とりあえずこれで完結とします。最後にR15設定が役立ちました。
「婚約期間は一年とする。それまでに魔女殿の心を射止めなさい。」
領主が笑顔で言った。後ろで強面執事がまた憐れんだ顔をしていた。
〔心を射止める〕= メグに結婚という言葉を理解させる・又はメグに本能的に惚れてもらう
「今日から金の騎士殿の上司になる。なんとも光栄なことだ!よろしくな。」
ブラウン旧団長改めブラウン護衛隊長がにこやかに言った。
〔新しい上司がブラウン団長〕+〔アベルが副隊長の役職に就く〕=
アベルは上層部から監視を受けている
おかしい。
好きだと自覚した子と婚約できて、さらに出世したのに。
・・・・・・なんで苦労の予感しかしないのだろう。
「メグーーー? 巡回に来たよ!」
メグの気配を追って森に入ったところで心もち上に向かって声をかけた。
「アベル!ブラウン隊長!森の巡回ご苦労様ー。ここはいつもと変わりなしだよー。」
「魔女殿!?」
予想通り声は上から降って来た。アベルは木の上のメグに呆れながら降りるように言った。魔女の薬の材料か、今日の献立の食材か。いつもしているから大丈夫と言われても見ていれは毎回肝が冷えた。
ブラウン隊長は横でメグを受け止めようと手を伸ばしていた。木に登る淑女をみるのは初めてなのだろう、驚いて目がまんまるになっていた。
こちらに赴任してから週に一度、森の警備を目的に巡回することになっていた。メグに会える大切な機会だ。ブラウン隊長が邪魔だとか思っていない、たぶん。
アベルは領主様から褒美を賜ってからすぐ、副隊長の役も頂いた。
諦めていた出世だ!と一瞬喜んだがなんのことはない。ハッパー町に新しく騎士を置いて、ゆくゆくは精霊の森の護衛団を作るという気の長い任務であった。
傍から見れば左遷だろう。
ちなみに隊員は引退間近と噂のブラウン団長が隊長となり、副隊長の俺の二人のみだ。今は隊員はいないが、ハッパー町の自警団を鍛え直して隊員となるよう教育している。
本音は、俺と不思議な力と持つメグを精霊の森へ閉じ込めて、客人達の秘密を広げないように監視するためだろう。
だがしかし。領主様へ剣を捧げた騎士として、命令とあれば従うことは当たり前だ。そこに不満はない。
それに副団長なんて役職はこんなこともなけりゃ拝命することもなかっただろう。
俺的にはうっかり口を滑らしそうなメグを近くで見守れることもありがたい。むしろこの好待遇に感謝しているぐらいだ。
しかし、一番厄介な命令はアレだ。騎士として受けた命令としてでなく、男としてなんとかしたかった。
只今、誠心誠意努力中と言ったところかな。
「君の魔女殿はどうして木の上に居るんだい?」
ブラウン隊長はメグが落ちたら受け止めようと腕を差し出して木の周りをうろうろしていた。
「隊長。彼女は木登りなど慣れていますから大丈夫ですよ。」
「木の実と卵を取っていただけだよ、隊長!」
「魔女殿はなんとも勇ましい。」
するすると降りてきたメグを見て、隊長はその動きにしきりに感心していた。その上、これを訓練に取り入れたら・・・・・・と呟いていた。何人落ちてケガをすることか、勘弁してほしい。
メグはこちらに走り寄ってくると、今日の収穫を広げて見せてくれた。腰にくくり付けた籠にドングリのような実がぎっしりと入っており、さらにその上には布に包んだ卵らしきものも入れてあった。
「あ、この実は強くぶつけたりしたら質が落ちるからあまり触らないでね。」
覗き込んだ男二人にメグが少し身を引いた。
「ドングリじゃないの?」
「ドングリに似た実なんだけどちょっと違うかな?
ああ、すぐ食べるならぶつけた後の方が美味しいから、少しあげるよ。」
「ぶつける??」
「いや、ちょっと待て。」
アベルの制止より先に、メグは言うが早いかドングリもどきを力いっぱい地面に叩きつけた。足元でパンパンと軽い破裂音がして、二人の騎士は思わず腰の剣に手をかけた。
メグはよいしょっとしゃがみこんでソレをひょいひょいと拾うと笑顔で渡してきた。
「香ばしくて少し甘くて美味しいよ。塩を振ればもっと美味しいんだけどね。」
薬にする為には弾けた実は使えないそうで、うっかり衝撃を受けて弾けたものはおやつ用にしていると教えてくれた。
「ここでは変わったものがおやつになるのだな。」
真紫の、もこもこに弾けたドングリを手にブラウン隊長は感心して言った。ここでは、のここはこの森限定でいっているのか、ハッパー町を言っているのか。隊長には口止めをしておこう、ドングリもどきを齧りながらアベルは思った。
「そうそうアベル、今日は夜ごはん食べに来る?」
メグの家まで送りがてら、巡回という名のデートをしながらのんびり歩く。少し後ろには隊長がいるが仕方がない。まあ仕事中だし、役得と言うべきか。
「お願いしたいけど、良いかな?」
「もちろん!そうだ、イノシシが罠に掛かっていたから明日は捌くの手伝ってよ。」
「お代はそれね。後で塩を買って持っていくよ。」
「よろしく!」
ブラウン隊長が憐れんだ笑みでこちらを見ているが無視だ。こちらに赴任して、週末になればメグの家へ泊まって行く流れになっていた。町では貴族のように婚前交渉など気にしない。それよりも相手の経済状況の方がずっと大事だ。
俺は男爵家の出身だが騎士として働いているし、なにより俺も貴族の習慣なぞ気にしない!気にしていないのだ。
だがしかし。俺たちは清い交際のままである。そしてそれがバレていて、隊長から自警団メンバー全てに知られている。なぜならメグがよくわからないまましゃべってしまうからだ。話の出どころがブラウン隊長の奥方だったとわかったときは食堂の机に突っ伏した。メグに聞けば、花嫁修業と称して奥方から茶会の呼び出しが度々あると言われた。
わかった時は後の祭り。
俺はヘタレの名を欲しいままにしていた。
しかし好きな子と過ごす時間が愛しく貴重な時間であることは変わらない。にやにやしすぎだと隊長に頭をはたかれた。
また後でねー、と俺たちはメグに見送られて森を後にした。
「さっさと食っちまえば良いのになぁ。俺の奥さんが良い仕事しただろ?」
「・・・・・・!奥方の仕込みはあんたの差し金か!!!」
巡回も帰路に着き、慣れた森を進む。そこで隊長の口調が砕けたと思えばとんでもないことをぶちまけてきた。
「ほら、初めて同士ってあれだろ。でもお前は誰とも試さないっていうし。
じゃ、相手に言うしかいないだろ。」
「いらん世話だ!」
前回メグのところに泊まった時だ。思い当たる節がありすぎて顔が赤く火照った。おかげで敬語など吹っ飛んでしまった。
「なんだ、自分色に染めたかったか。これはすまんかった。
でも俺の奥さんは上手いこと仕込んであるからな。魔女殿も上手かっただろう?
あ、まだしてないからわからないか。」
「あんた、自分の奥方に何させてんだ!」
「俺色に染めた。」
「・・・・・・あんた、えげつないな。」
ふんわり笑う優しそうな隊長の奥方を思い出し、アベルは眉間をもんでやり過ごした。
「こんなもんでいいか。」
「十分だよー!ありがとう、アベル。」
早めに仕事が終わった、というか不機嫌なアベルにブラウン隊長がゴマを擦ってきて、早めに終わらせてくれた。嬉しくて全力で走ったら予定より早く着き、明日にしようと思っていたイノシシの解体まで終わらせられた。精霊の森と相性が良いのだろう、身体能力は城下にいるより格段に上がっていた。
「お風呂行って血と汗を流そう!お背中流しますよー。」
「あ、りがと、う。」
いや、俺も健全な男子なわけだし。これぐらいのご褒美は受け取っても良いだろう?
小さく言い訳をして二人で裏の露天風呂温泉へ向かった。
そう、思い上がりじゃなく、メグは俺に好意を持ってくれている。それぐらいはわかる。
週末は俺の訪れを楽しみにしていてくれるし、婚約も結婚も了承してくれている。
しかし。
ずっと俺と一緒にいたいと言うメグの気持ちは受け取ったが、これが恋愛とはまだ言えないと感じる。
俺も錆付いた心が動き始めたのは最近だ。だからわかる。
城下でそこそこ女性から熱い視線を向けられていたが、メグに感じるこの気持ちを今まで感じたことはなかった。
だからこそ、メグにもこの気持ちをわかって欲しい。
俺のわがままだ。
だが、きっと同じ目線に立たせて見せる。
俺の魔女様、その時は覚悟しろよ。
「なんかアベルが光ってる。」
「もうすぐ日も沈むし、ちょうどいいんじゃない?」
「う、うーん。」
メグは寒気を感じたが、日没までに風呂で温まれば良いかと道を急いだ。
☆ 先週の魔女様のはなし ☆
「え?なになに?メグどうしたの?もう夜中だよ??」
「婚約中の恋人はこうするのよって教えてもらったからさー。」
「誰から!ってかいつの間に。いや待って、手を止めて。」
「隊長の奥様。はい、あーん。」
「あ、いやぁ!ダメだって。メグっ。」
「んーもう、なに?」
「メグは、本当にしたくてするの?」
「・・・・・・わからないよ。だって恋人ってなったことないし。」
「じゃ、そのわからない、がわかったらね。」
「だって。」
「俺はいつまでも待つし、それに俺たちは今も恋人でしょ。さ、メグ。」
「ん・・・そっか。」
「そう(耐えた俺は神だ)。」
「はやくわかりたいなぁ。あふぅ。おやすみぃ。」
「はいはい、おやすみ。」
たくさんの評価、読んでいただいた皆様、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。番外編はもう少し書きたいな、と思いつつ蛇足かなと迷ったり。
とりあえずこちらで完結とします。ありがとうございました!!!




