番外編:ウィリアムの場合
完結したらお気に入りや評価がものすごいことに!何と感想まで・・・!
読んで下さった皆さま、応援して評価まで入れて下さった皆さま、ありがとうございます!!!
なのにこの番外編。すいません。楽しそうな番外編は後でまた・・・・・・・。
振られた。
あんなに周到に罠を仕掛け・・・、いや作戦を立てたのに。
ウィリアムはこの世の終わりのような顔をして、
-----仕事をしていた。
彼は優秀な跡取りであり、失恋ごときで仕事を休んだりしない。
身体が動く限り仕事を疎かにしないのである。
少ない予算でやりくりする役所仕事は休めないほど忙しいという事情もあるが。
ボキリとペン先が折れた。
本日3本目だ。
ニナから振られた後、親兄弟から腫れ物に触るような態度で接されている。
それも惨めで落ち込む要因だが、一方で家族が心配してくれているのは良く理解している。
ウィリアムは弟達を上手いこと誘導し、一人は婿に行くように仕向けた。もう一人は男色の噂で染め上げようとしたが、知恵の回る弟はその前にどうやってか領主仕えに転職を決めてきた。
両親は驚いたが、ウィリアムは少しの心当たりがあった。しかし家を出て働くのなら理由など問わない。跡取りが自分だけになったことが重要だ。漸く、婚姻適齢期ギリギリであり唯一の跡取りになれた。
これで多少周りの意に沿わない条件の花嫁を迎えても、口煩い連中は強気に出れないだろう。
「お待たせしました、ニナさん。」
美男だといわれる顔が最大限魅力的に見えるように微笑み、休憩室にいるニナに近づいていく。仕事終わりに用事があると彼女に残ってもらっていたのだ。ウィリアムは懐に入れた小さい箱を服の上から確かめた。
ニナはこちらに気が付くと柔らかく笑ったが、その顔に疲れが見て取れた。
そのことを指摘すると彼女は慣れない業務に少し疲れただけだと言った。
最近末の弟のおかげで収入が増え、職員を増員することができた。その新人教育を勤務歴の長いニナに任せていた。
負担が大きかったのかと焦って聞くと、やりがいがあるから楽しいくらいだと返された。働き者の彼女らしい。
「それに、立つ鳥跡を濁さずといいますでしょう。」
「うん?」
その意味は知っているが何故ここで使うのかがわからない。いや、理解したくないのだ。とても嫌な予感がする。
「すいません。お伝えしていませんでした。
私、新人の方々に引き継ぎが終わり次第、結婚のため退職させていただくんです。」
日々周りに気を配って情報を集めていたが、寿退職は初耳だった。あまりの予想外の出来事にウィリアムは言葉が出て来なかった。
「キルラー婦人には言いましたが、私が婦人に退職まで内緒にして下さるように頼んだのです。」
ウィリアムの反応に慌てたニナは、彼の母親が隠していたんじゃないと庇った。
先程からウィリアムは考え込んでいるように視線を下に落としたまま動かない。
焦ったニナは次々と残酷な言葉を落としていった。
曰く、他の領地で見聞を広めるのだとこの地を出奔していた幼馴染が十日前に戻ってきたという。
お互いが大人になった今までも手紙のやり取りをしており、まるで兄弟のように仲が良かった。
だが、ニナの離婚歴も理解した上で嫁に貰いたいと、帰って来たその日に告白されたときは驚いたと言った。
お互いの両親も、片や息子がやっと落ち着いてくれると喜び、片や娘の事を幼い頃から慕っていた相手に託すことができるということで大賛成らしい。
「前の結婚は辛い結果になりましたが、今の彼は絶対に幸せにすると言ってくれました。」
ただののろけたセリフだったが、彼女は噛みしめるようにゆっくりと言った。
顔をあげて見た彼女の表情から、幼馴染とかいう男に強く惹かれていることが見て取れた。
「そんな、長く離れていた人を、信用できるのですか?」
嫉妬に焼かれたウィリアムはそれしか言えなかった。
ウィリアムも黒いどろどろした感情を飲み込もうとしたがかなわず、非難するようなセリフしか出てこなかったのだ。
彼女は驚いて目を瞬かせた。
「心配していただいてありがとうございます。ウィリアム様はお優しいんですね。」
そう言うとタレ気味な目を細くしておっとりと微笑んだ。
素直な彼女はウィリアムのセリフを良いように取ったようだ。
「周りの友人や、両親でさえも、この婚約を手放しで喜ぶんです。
こんな急な婚約は心配するものじゃないのって思うぐらい。
離婚歴のある私が邪魔だったから、急いで片付けたいのだと穿った見方をしてしまう時もあるぐらいですよ。」
幸せすぎて少し感傷的になっているのでしょうか、贅沢ものですよね、とニナは頼りなさ気に言った。
ウィリアムの目にギラリとした光が宿った。
「ニナさんはそんな結婚に焦る必要はないですよ。」
「もう大年増ですよ?何の取柄もなくて年ばかりいって。離婚歴もあるし。彼に申し訳ないぐらいです。」
ニナは突然の結婚話に幸せな反面、困惑しているのだろう。自信なさ気にしている。
この隙を狙って・・・・・・・。ウィリアムは黒い笑顔になった。
「では、僕にしましょう。僕はニナさんの魅力は余すところなく理解しています。」
「は?」
ニナは驚きで発した言葉のまま口があいたままになった。
どうしたのだろう、年下の上司が突然変なことを言いだした。
慣れない後進の指導をして、疲れて幻聴まで聞こえるようになったのだろうか。
仕事が終わった先程、ニナはウィリアムに呼び出された。てっきり新人の引き継ぎの進捗を聞かれるのかと思っていた。
会話の流れで退職を報告し、続く雑談の中で二度目の結婚に不安を感じてるとついウィリアム様に愚痴をこぼしてしまった。そこから会話がおかしくなったように思う。
物腰も穏やかなこの美形なウィリアム様は、甘い顔立ちにもかかわらず強かさと強引さを絶妙に使い分け、大量の仕事を熟していく有能なお人だ。
こんな冗談をいうお人ではない。
「貴方の魅力は神が与えた奇跡です。究極の曲線美です。自信を持って下さい。」
褒められているようだが言葉の意味が取れなかった。そしてウィリアム様の様子が怪しい。恍惚としている表情で私の魅力を語られているようだが、なんだろう、寒気しか感じない。
ニナは無意識にウィリアムから距離を取った。
「子供を産むのにも最適な形です。スカートが揺れる様に何度目を奪われたことか。」
キョクセンビ・・・子供を産むのに良い形? スカート?・・・曲線・び?・・・・・・曲線美?
「ニナさん、結婚して下さい。私の目と同じ色のピアスです。
ピアスは付けたら外せない仕様になっていますから、付ける位置は慎重にね。」
ウィリアムは色気漂う笑顔で結婚の申込みをした。断られると思っていないのだろう、その顔は自信に満ち溢れている。そして懐からキレイに包装された小さな箱を取り出し、ニナに差し出した。
「・・・・・・付けたら外せない? お、重っ!
ごめんなさーーーーい!!」
ニナは下町生まれの下町育ちだ。思わず敬語が取れて素で反応していた。
年下上司はまるで天気の話をするように、結婚が決まっている自分に結婚を申込み、何故その手に婚約の証のアクセサリーを持っていたのか?
深く考えたら負けだ。
ニナは本能のまま走り出し、けして振り返ることなく、そのまま職場に戻ることなく職を辞した。
その後数日、ニナはウィリアムに見つめられるという悪夢にうなされたという。
そうやってウィリアムは、振られた。
その場を隠れて見ていた父親とロバートは、そうだろうな、と半ば予想していた結果に彼を憐れんだ。
ロバートはウィリアムが犯罪者にならないように(半分は男色疑惑で脅された仕返し)、こっそりニナの情報が行かないようにしていたのだ。父親ももちろん協力者だった。
ニナは結婚後、相手と共に海に臨む遠い領地に移住する予定だ。新しい職場の上司には異例の早さでおりた移住の許可で世話になった。
ボキリ。
またペン先が折れた。
本日4本目だ。
ウィリアムの傷心が癒されるのはまだ先・・・・・・・。
完結したら番外編を入れられないんですね。システムを理解していませんでした。
完結詐欺ですいません!
あと数話、番外編を入れたら完結します。




