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アベル暴走→被害者二番目兄

「アベルお前!」


二番目の兄は未知なる恐怖で思わず身を引いた。

おかげでアベルのこぶしは空を切り、二番目の兄の顔へ鋭い風切り音が走るだけで済んだ。



「おっまえ、それ当たったらやばい勢いじゃねぇか!

 ってか見てみろ自分を!」


「言い訳はいい。」


「ちょ、こっち来るな。騎士と役人の力の差なんてわかり切ってるだろ。冗談だって、冗談!

 いやいや、それより自分を見ろって!おかしな事になってるぞ!」



中庭を囲むように部屋が並ぶ男爵家で、今いる広間は一番広く、別館への渡り廊下もつながっている。その中を二番目の兄は慎重に距離を取りながら大声でアベルへ話しかけた。これで中庭はもちろん、職場の父や兄も気付いてくれるんじゃないかと思う。


一方、アベルは切り込む間合いをはかりながら腰に手をやった。しかし今日は巡回仕事でなかったため、帯剣していなかったことを思い出した。



あれ、今は剣が必要か?



ふと視界に周りの景色が戻って来た。今まで俺は何を見ていたのか。



「お兄ちゃんが悪かったっ。剣に手をかけるなー!」



兄の側からは帯剣しているか見えなかったらしい。兄は蒼白な顔で両手を上げていた。

アベルはやっと暴走していた自分に気が付いた。意識をなくしたわけではなく、抗えない激情に流されてしまていたようだ。こんなこと初めてだと呆然としていると、中庭から何やら騒いでいるのが聞こえた。兄が叫んだ声が聞こえたのだろう、母とメグがこちらを見て驚いているのが見えた。

メグの驚いた顔がここからも良く見えた。見開いた丸い目が零れ落ちそうだ。



「・・・・・・アベル、アベル!」


いつの間にか傍に来た二番目の兄が心配そうに呼びかけていた。


「っああ、兄さん。・・・ごめん。なんだか止まらなかった。」


「あ、消えた。」



兄はまた驚いた顔をしてこちらを指さしてきてた。



「お前、さっきまで光ってたんだよ。」


「俺が?」



お前だよ、お前が光ってたの!と騒ぎ立てる兄を見て、そういや同じような事がさっきあったようなとアベルはふと思った。

まだ頭がぼんやりしているようだ。帰り道の胸の疼きを引きずっているのだろうか。



「アベル!何があったの?また光っていたよ!」


駆けつけたメグが兄の発言を肯定した。


「また?」


今度は兄がメグの言葉に混乱した。そう言えばあの夜に光った件は家族に言っていなかった。言葉にすると嘘くさくてとても言えなかった。まして自分の意思で扱えない、まぐれの力だ。

ちなみにブラウン団長を踏んだことは言った。さらに騎士として出世は無くなっただろうことも。あの時は皆切ない溜息をついていた。



「バレットから助けてくれたときみたいに光ってたんだよ。

 もしかして力の制御ができるようになった?」



メグは興奮してアベルの体中をパタパタとはたいた。光のかけらが出てくるとでも思っているのだろうか。

母がそれを見てメグちゃんダイタンね、と感心していた。それを聞いてアベルは赤面し、慌ててメグの手を止めた。



「いや、力を操作した感じはないよ。強いていえば感情を制御できなくなったのに近いかな。」


突然、腹の底からマグマのように煮えたぎる感情が突き上げてきたのだ。原因は何だったけ?はて、と考えてみたら、のこのことその原因が視界に入ってきた。



「アイツ、いつから光るようになったの?」


二番目の兄はメグの肩に顔を寄せて話しかけた。


「客人を見送った時だよ。私が捕まえられて、アベルが空を駆けて助けてくれたんだ。」



メグは説明しているようで説明になっていないことを得意げに言った。

アベルは二人の距離が離れないことにイラつき、思わず繋いでいた手を引いた。


繋いだ手?そう言えば身体をはたいていた時に止めたまま手を握ったままだ。



「アベル?」


引っ張られたメグが不思議そうにこちらを見ていた。

やばい、繋いだ手が今度は何故か、すごく恥ずかしい。アベルは慌てて手を振り払ってしまった。


「アベル?」


メグがもの言いたげにこちらを見たがアベルはそちらを見れなかった。


目線を逸らすと、その先に騒ぎを聞きつけた父親と一番目の兄がこちらに走って来たのが見えた。



「先祖返りの力だそうだよ。でも自分で扱えないから、使えないも一緒だろ。だから言ってなかった。」


皆がまた揃い、アベルはちょっと投げ遣り気味になって言った。二番目の兄がふむふむと何やら考えている様子だが、アベルは小さな焦りがくすぶって消えないことに気を取られ気づかなかった。


母親が駆けつけ二人に大したことでないと今までの事を説明していた。この母親にとって、息子が光ることは大したことでないらしい。



「またおかしなことがあるもんだ。ソフィーは聞いたことあるか?」


「おばあ様もお父様からも何も聞かなかったわ。

 船の民だった証拠は金の髪に碧の目だったくらいよ。」



「アベル、光るんだって?面白いね!!見たかったなー。」


「もしかしたら・・・・・・見れるかもよ。」



一番目の兄の言葉に反応し、二番目の兄はぼそりとつぶやいた。



「ロバート、何かわかったの?」


「んー。たぶん。」


こそこそと話し合う二人を気にする者はいなかった。



「ちょっと検証してみるか。ウィル兄さん、やばくなったら助けてくれよ。」


二番目の兄、ロバートはニヤリと貴族らしくない顔で笑った。



その時、もう彼ら二人以外は各々の場所へ戻ろうとしていた。




「メグちゃーん!」



ロバートが笑顔で呼びかけると、何故かアベルも振り返り嫌な顔をした。

メグが何でしょう?と問いかけると、おいでと手招きされる。

二人は母親と連れだって、もう中庭の渡り廊下近くにいた。

メグはアベルと母親に話し、数メートルの距離を小走りで寄っていった。アベルはついて来たそうにしていたが、結局母親について中庭へ向かった。母親にお茶セットの追加分を運ぶように言われていたのだ。アベルも茶会参加という母の取り調べを受けるらしい。



「おう、好都合。」


「え?」


「いえいえこちらの話。はい、ここに立っていてくれる?」



ロバートは目の前にメグを立たせると、徐に片膝をついた。メグは何が始まるのかわからず、それを見ているしかできなかった。

そしてロバートは流れるような動作でメグの手を取り、目を見つめながらその手に口付けるフリをした。



「メグちゃん。突然だけど、俺と付き合わない? 俺ってアベルより良い男だろ。」



ロバートは下町で人気の男爵スマイルを浮かべる。酒場でこれをやれば八割はお持ち帰りできるやつである。



「断る。」



すぐさま手をひっこ抜いたメグは思わず素で返してしまった。


付き合うとは結婚の前にすることだと聞いたやつだ。なぜアベルのお兄さんとそれをしなくてはいけないのか。それに良い男とは何だろう。アベルは碧の目がキレイだ。髪もふわふわして金色で触りたくなる。でもお兄さんは同じ色なのに何とも思わない。


あれ、何でだろ?


触られた手をこすりながらメグは考えた。



「即答だね。残念だ。」



悲しそうでなく、何か企んだような笑みを浮かべて、まだアベルのお兄さんは跪いたままだ。後ろにいるもう一人のお兄さんは不思議そうにこちらを見ていた。



「私はアベルが良いの。」


「えぇー、見た目、俺の方が良くない?」


「アベルじゃないと嫌だ。」


「・・・・・・・あいつ愛されているなぁ。っていうか、そろそろかな?」



メグがその言葉に首を傾げたその時、長兄ウィリアムは渾身の力でロバートの襟首を後ろに引っ張った。

ロバートは、アベルのブーツが自分の鼻をかすめて通り過ぎていくのが見えた。


GWがいつの間にか過ぎ去っていました。

今回も読んでいただきありがとうございました。

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