仲良しですがなにか。
3月どこにいった?え、もう4月?
「いやいやいや、それで付き合ってないなんて。騎士さんどうなってんだ。」
「甘い雰囲気につられて見ていたら。とんだ期待外れだよ!」
「まあ、今までが今までだしなぁ。」
「そうさねぇ。女の子を連れているだけ進歩したかね?」
「だなぁ。」
「・・・・・・・。」
よくよく周りを見てみれば、広場に出店中の店の者達が少し離れたところに固まって居た。城下を巡回する時に見かける人達だ。
いつの間にいたんだあんたたち。
店を放りだして見物にきたらしい彼らは、アベルが何か言おうとするとそそくさと帰って行った。今から昼の掻き入れ時だー!と言うあたり、わざとらしいことこの上ない。彼らはもうちょっと仕事を優先して欲しい。
「ごめんよ、アベル坊ちゃん。
アベル坊ちゃんが女を連れてるってついしゃべっちまったらこのとおりでさ。」
屋台の店主が顔の前で両手を合わせていた。すまなそうな顔をしているが口元がニヤついている。こいつは確信犯だ。
アベルにとってここは勝手知ったる城下町だ。巡回や警備はやりやすい環境だが知り合いが多いことが頭から抜けていた。アベルは自分が思っていたよりもずっと動揺していたようだ。
「おじさん。ピタン、お肉いっぱいでタレが特に美味しかった!ごちそうさま。」
言葉が出て来ないアベルを助けるように、マーガレットがニコニコして言葉を上げた。
友達宣言を聞いたおかげで機嫌が直ったようだ。
「おう、いい食いっぷりだったな。気に入ったぜ、お嬢さん。
ヘタレなアベル坊ちゃんをよろしくな!」
「こちらこそよろしくー!」
「ヘタレじゃないっ。俺は俺の信念の下にだな、」
「女の子連れてきたの、仕事以外ではじめてじゃねぇか。」
「・・・・・・・。」
顔は良いのにな?がんばれよ!と笑顔で店主に送り出された。
「で、あの人達が言ってた恋人って夫婦になる前のこと?
友達の付き合うことと違うんだよね。」
屋敷に向かって歩き出し広場を出たところでマーガレットが話しかけてきた。あの場では話辛そうなアベルをみて、人目を避けてくれたらしい。
こういう気を遣うところは頭が回るんだけどな、とアベルは思う。
「私は魔女で、町の事はさっぱりだからさ。
あの人達が楽しそうに言っていたことがイマイチわからないんだ。」
他にもヘタレとか最近の言葉もわからないし、アベルにアルベルトとか名前が二つあるのもずっと気になっていたと言ってきた。
彼女は人付き合いがほとんどなかったせいだろうか、知識がずいぶんと偏っているようだった。
町の事うんぬん以前の問題だ。世俗に触れていないマーガレットにどこまで理解させられるのか。
異性と付き合ったこともないアベルであるが、知識と感性を総動員して教えたのであった。
「じゃあ私も愛称が欲しい! アベルと私の仲じゃない。つけてよー!」
アベルはがんばって色々説明した。しかし彼女が一番食いついたことはそれだった。
「ここ数日の付き合いだからね! その言い方は誤解を招くから!
ちゃんと俺の話を聞いてたよね?」
「親友は友人の上、夫婦は恋人の上ってことでしょ?
私達の付き合いは、もう特級な親友だよー。」
とてもおおざっぱに理解しているようだ。アベルはマーガレットの理解度の低さに目を剥いた。
恥を忍んであんなに説明したのに。彼女は興味のないことは右から左へ受け流すようだ。
アベルは愛称について仲の良いもの同士で呼び合う名前だと言った。そちらはマーガレットの興味を大きく引いたらしい。
「そうだなぁ・・・・・・、メグってどうだろう。」
「メグ? メグ、メグ、メグ・・・・・・・。
良いねぇ!気にいった!!」
クルリと振り返ったその顔は、うれしさを一杯に浮かべていた。
マーガレット改めメグは口の中で何回も繰り返し呟いていた。まるで子供のようなはしゃぎようだ。
自分がつけた呼び名ひとつでこんな幸せそうな笑顔をするなんて。
それを見て、アベルは唐突に胸がぐぅっとつまるような感じがした。
激しい熱が体の奥底から一気に上がってきたようだ。
息苦しさで下がった目線を上げると、先行く彼女の後ろ姿が見えた。
そこに何か違和感があった。
日差しが強くてメグがブレて見える?
いや、キラキラと輝いていた。例えでも何でもなく、細身な身体の輪郭に沿って、まるで金色の粉が舞うように。
アベルは思わず目を擦った。
するとまるでなにもなかったように、元の茶色の小リスが変わらずひょこひょこ歩いている。
昼時もすでに半ばを過ぎ、初夏の風が気持ちいい日和だ。確かに日差しは強いが見誤るだろうか?
アベルが戸惑っていると、ご機嫌なメグはひょこひょことさらに先を歩いていってしまった。普段から森を行き来しているからだろう、彼女は意外に健脚だ。
アベルはいつの間にか止まっていた息をゆるゆると吐き出し、眉間をもんだ。
幻覚が見えるなんて、そんなに城でのやり取りが疲れたのだろうか?
アベルは軽く頭を振って先行くメグを追いかけた。
「おーい、アベルが帰って来た!
彼女といちゃついてるし、大丈夫そうだー!」
息苦しさに不安をかんじつつ歩いていたらもう屋敷まで来ていた。しかし二番目の兄が不穏なセリフを叫んで屋敷に入って行った。
いちゃついてるも訂正したいが、大丈夫ってなんだ?
「アベルぅ、ごめんなさい。」
門をくぐると母が真っ先に出てきて抱き付かれた。
アベル達が家を出た後、父親たちが母親の仕業に気が付いて問い詰めたらしい。
本人から入れ知恵のことは悪気はなかったと謝られれば、恨み言も飲み込まざるを得ない。いつも愛情が明後日の方向に暴走するだけで、もとから愛情深い母親なのだ。
「母上・・・・・・・。」
アベルは怒るつもりだった気力もそがれ、抱き付いたままの母親を抱擁をし返し、背中を優しくポンポンとたたいた。
父親がすまなそうに母の後ろでこちらを見ていることに気が付くと、ありがとうと目線で訴えられた。なんだかんだで愛しい妻を心配しているのだ。しかし毎回これだと甘やかしすぎだと思う。
「マーガレットちゃんもごめんなさいね。私の助言は良くなかったらしいの。」
アベルの母はしゅんとしてメグにも謝罪の抱擁をしに行った。
「いえ、おばさまのおかげでアベルと特級の友人、いえ親友となれましたから!!感謝しています!」
「しんゆう?」
キルラー家の面々は”親友”の意味を取れず、思わず奇妙なものを踏んでしまったような顔をした。
アベルは興奮するメグをなだめつつ、今日の出来事をキルラー家の面々に伝えた。
「お前さ、アレ、彼女じゃないの?」
遠慮のない二番目の兄がアベルに囁いた。
今この場にいるのは二人だけだった。
城でのやり取りを報告し、家族の面々を赤くさせたり青くさせたり(主に父親)したあと、父親と一番目の兄は職場に戻っていった。男爵家は役所も兼ねており、離れの屋敷は役所となっているのだ。
メグとアベルの母親は中庭で仲直りのお茶をしている。母親のみ臨時休暇だそうだ。
「つうか、もう逃げらんないだろ?
魔女様の監視役はキルラー家に決定だ。役所もそうだが儲けにならない役職が増えるな。」
「兄さん!」
「嫌なら代わってやってもいいぜ。魔女様まあまあ可愛いし。役所勤めよりずっと楽そうだ。」
兄は軽薄な笑いを浮かべて中庭を見ていた。メグ達が庭にテーブルを出してお茶を楽しんでいる様子が見える。
アベルは怒りで目の前が真っ白になった。
読んでいただきありがとうございました。
更新がんばります・・・・・・・。




