ご褒美と友達と
すいませんすいませんすいません。もう2月になってました・・・・・・・。
キルラー家の男達が心配していたその頃。
アベルとマーガレットは前回より広めの城の応接室にいた。公式の集まりのため、領主と執事はもちろん、事情を知るお偉い方々も数人控えているため広い部屋が必要だったのだ。
待ち受けていた領主より感謝の言葉とともに本日の要件である褒美として希望があるかと聞かれた。
アベルは領主の意向に沿うつもりであった。そう言って次にマーガレットに発言を促すつもりだった。
しかしマーガレットは斜め前に立つアベルを押しのけ、大きな声で言った。
「アベルを買い上げるだけのお金を下さい。アベルが欲しいんです。領主様!」
その発言で、室内の時が止まった。
皆が彼女の言葉を理解するのに時間を要したのだ。
アベルはあまりのことに一瞬意識を飛ばした。
なぜ俺を買い上げる必要があるんだ!?
そういえば、とアベルは突然今朝のやり取りを思い出した。出かける前にマーガレットと母親が何か熱心に話し込んでいた。これはその時の母の入れ知恵に違いない。
しかし。わかっても口から出てしまった言葉は無かったことにならない。
---アベルとこれからも一緒に居たいけど、平民と貴族は友達になれないのって?
・・・・・・じゃあ、アベルをもらってちょうだいよ。
売れ残りになりそうだったから助かるわー!
金額?なにそれ。私とマーガレットちゃんの仲じゃない!
身分?魔女様でいいじゃない。ダメなの?マーガレットちゃんが気になるの?
んー・・・・・・・。そうよ! 領主様にアベルを貰いたい、ってそう言えば?
きっと全て上手くいくわ!---
大事な息子をもらい受けるにはいか程の金額が必要なのか?
その時に聞いたのだが教えてもらえなかった、と残念そうにマーガレットはそう付け加えた。アベルは顔を青から赤に変えて悶えた。周りの目が生ぬるい。
「この私を踏みつけるぐらい優秀な騎士だ。さぞやお高いのだろうな?」
ニヤリと笑うのはブラウン団長だ。居なくてもいいだろうに見物しに来たらしい。アベルは半眼で睨んだ。
上司だろうが気にしない。
出世はあの時に諦めている。
それから散々だった。マーガレットは頑なに意見を曲げなかった。アベルが欲しいんですと言い張られ、最後にはあの強面執事にすら憐れんだ笑顔で見られた。
情けないことにアベルはうろたえるばかりで口が挟めなかったのだ。
アベルも褒美について聞かれたが、特に希望は無いということを伝えられたぐらいだ。アベルの気力を削りながら話し合いは終わり、二人の褒美は後日使者が遣わされて受け取ることとなった。
応接室を出てから、マーガレットは一言も口を利かず下を向いて歩いていた。アベルが話をしようと覗き込んでも目線すら合わせてくれなかった。
アベルは少し考えて、昼食は広場の屋台で食べようとマーガレットを強引に引っ張っていった。
城から出てしばらく歩くと城下町の広場にでる。大きな通りは全て中心地の広場へつながっている。どこの町でも大抵このようなつくりになっているのだ。
目的の広場は馬車道と同じく石畳が広場一面に敷いてあり、雨が降ってもぬかるまないため屋台や出店で年中にぎわっているのだ。
広場には水場として四方に井戸が掘られ、それぞれ周りには石造りのベンチがあり休憩できるようになっている。取り敢えずマーガレットをベンチに座らせ、アベルは買い出しにいった。
二人は抜けるような青空の下、並んでベンチに座った。傍には葉の茂った木が数本、木陰を作っている。
そばの屋台から買ったボリュームたっぷりの肉増しピタンが二人の手に握られているが、しかしマーガレットは下を向いてじっと見ているだけだった。
「ここのピタンは見回りの時によく買うんだ。このジュースもさっぱりしていて美味しいよ。」
アベルは軽く話しかけた。マーガレットは手に持ったピタンと横に置いてあったジュースに目をやったが、顔は上げてくれなかった。仕方なくアベルは、話すよりも冷える前に食べようかと肉にかぶりついた。
「・・・・・・美味しい!」
思ったよりも早くマーガレットは顔を上げた。食い気に負けたようだ。ピタンが見る見るうちに小さくなっていく。しかし食べてくれたのは良いが、大きな口を開けてかぶりつくからソースが口からはみ出てしまっている。
見かねて口の周りのソースをハンカチで拭ってあげると、マーガレットは猫のように目をつむってされるがままになっていた。
確か彼女は俺と同じぐらいの年齢だよなあ、と思ったが、深く考えると顔が赤くなりそうで、慌てて頭を振って思考を飛ばした。
口元がキレイになり、マーガレットは続いてジュースもずずっと勢いよく飲んだ。それで一息ついたらしく、ぽそりとつぶやいた。
「アベルは、やっぱり貴族様だね。ハンカチなんて上品。」
アベルはハンカチ貴族云々の前に、食べっぷりが男前なことが問題では?と思ったが、ここは言葉を飲み込んだ。
「・・・・・・ねえマーガレット、俺は身分違いだからって君と離れることは考えていないよ?
母上が何か言ったんだよね。ゴメン。」
あれ、言いようが交際を反対されている恋人同士みたいだ、とふとアベルは思った。
「違うよ。アベルのお母さんは相談に乗ってくれただけ。」
マーガレットは茶色の丸い目を揺らしながらアベルの顔を見上げた。
「私、アベルの力の指導もできなかったし。
アベルは森に来る理由も無くなるでしょ。
・・・・・・もう、会えないでしょう?」
マーガレットはつい顔を上げてアベルの顔を見てしまった。アベルのキレイな碧の目を覗き込んだら、最後は声が震えてしまった。もう涙はおばあちゃんの時に枯れてしまったと思ったのに。マーガレットは唇をぎゅっとかみしめた。
いざ森に帰るとなったら、孤独を癒してくれた友達を、なんとしても手放したくないとマーガレットは思ってしまった。しかし引き留める術はなにも思いつかなかった。
マーガレットはこの休暇中に気付いてしまった。滞在した男爵邸は、町一番の豪華だと思っていた町長宅が霞むほど、古くはあるが豪華で立派な建物だった。服や食事も言わずもがなである。森の小屋に住む小娘が滞在する場所じゃない。城下町はきらびやかで、アベル達以上のお屋敷も貴族たちも数多くいるのだろう。
森の魔女である小娘が、騎士であり貴族であるアベルと友達でいられるとは到底思えなかった。マーガレットは生まれて初めて身分差をありありと感じた。こんな惨めな気持ちに気づくくらいなら城下の宿に泊まっていれば良かったと思ったくらいだ。
そして、現実を突き付けられ落ち込むマーガレットに気がつき相談に乗ったのは、キルラー男爵家のジョーカー、アベルの母親であった。
彼女は稀有な金髪碧眼イケメン三兄弟を持つ母であり、自身も同じ色を持つ妖艶な美女であった。
しかし残念なことに、相談されれば事はさらに解決から遠退き、明後日の方向に迷走する。そしてそれらを全く反省しない、というやっかいな性格だった。
ちなみに役所の彼女は書類仕事専門だ。相談窓口担当は常に夫だ。
アベルは焦っていた。
いつも人目など気にしている様子もなかったマーガレットが、何故か自分を卑下しているのだ。今までアベルを友達だと言ってくれていたのに、今はアベルが友達じゃなくなるとおもいこんでそれを恐れている。
「確かに森に頻繁にいくわけには行かないけど、仕事が休みになったら遊びにいくよ?」
往復で三日ほどと考えると毎週末はむりだが、長い休みが取れたら必ず行くよと付け加える。
「本当に?ホントにホントだからね!」
必死に何度も確認してくるマーガレットに何度も是とアベルも答えた。今後の事はちゃんと話し合っておけば良かったと今更に思った。帰ったら母親にはきつく注意しよう、とアベルは誓った。聞かないと思うけど。
「なんだか恋人同士の会話みたいだったね。」
アベルがホッとして言葉をもらした。
「「「恋人同士じゃなかったの?!」」」
周りの野次馬から一斉に言われて、二人は飛び上がった。
読んでいただきありがとうございました。
※8/10少し修正しました。話の流れは殆ど変わりません。




