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領主と客人2

「やあ、マーガレット。それにアベル。待たせましたね。さあ、こちらに。」



飛空籠の前で手招きするバレットがいた。




全く待っていない。むしろもう帰ってくれて良かったのだが。

バレットの言葉にマーガレットとアベルは心のつぶやきがハモった。


クレイアはルーン領主と共に飛空籠の前に広げた敷物に座っていた。もう荷の積み込みも終わり、騎士も馬車に戻ったのだろう。最低限の守りの距離を取った護衛が遠巻きにいるだけだった。



「ルーン領主とお話出来て色々収穫がありました。黙って帰還せずに良かったです。

 二人とも、領主を紹介して下ってありがとうございました。」


実際は面倒事を偉い人に押し付けただけだが、わかっていて言っているのだろうこの従事バレットは。アベルは流されてはいけないとバレットを真っ直ぐに見て言った。


「こちらこそ過分な褒美をいただき、ありがとうございました。」


過分すぎてマーガレットは人に言えないがな。言外に含めて言う。慇懃無礼な態度が出てしまうのは仕方がないだろう。



「おやおや、アルベルト君。強引に案内に就いて貰った任務だが、立派にこなしてくれてありがとう。

 こちらからも後ほど報奨を贈るつもりだよ。期待してくれたまえ。」



強引に、というのは客人からの要求では?と思ったが、さらりと嫌味を挟んだルーン領主は嫌味なく、ニコニコしていた。後ろには影のように例の強面執事が立っていた。

執事、いたのか。まるで見えなかった。

相変わらず領主様たちは喰えない方達のようだ。



「客人方はもう出発するそうだよ。方角は星でもわかるんだと言われたよ。すごい知識だね。」


「はあ。ルクシャーン王国は発展しているそうですね。」


「彼らから君たちの事も色々聞いたよ。ああ、大丈夫だ。悪いようにしないよ。」



警戒をあらわにしたアベルとマーガレットを領主は両手をひらひらさせて宥めた。



「前に見せた私の家に伝わる石が、マーガレットの石とそっくりだったのは覚えているかい?」


ああ、そういえば、と二人は顔を合わせた。数日前のことなのに、もう遠い出来事のように感じる。


「先程偶然に、客人が同じ石を持っているところを見かけてね。私のもみてもらったんだよ。

 奥さんの曾祖母殿の遺言の真意も知りたかったしね。」



遺言とは、自分の死後、不思議な能力を持つ者が現れたら、領主の名の下に手厚く保護して欲しいということだった。この石を見せたら相手は安心して保護されるだろうとも記してあったそうだ。

領主一家は彼女の死後、病気や事故など短命な世代交代が続き、現在の入り婿である領主様は様々なことで引き継ぎが出来なかったらしい。


領主にはルクシャーン王家か、それに準ずる高い身分のルクシャーン人が嫁いでいたようだ。当時のルクシャーン人は、周りから化け物扱いされないように、能力を隠してこの領地に馴染んでいったようだ

不幸にも能力がばれてしまったものが出てきたら、うまく匿えるようにとの遺言だったようだ。うまく伝わらなかったのは不幸だったが、なるほど、領主様の好奇心はこういう理由があったのか。



「それにね、不思議な能力とは何なんだろうね? 何とも楽しそうじゃないか!」



ああ、根っから好奇心旺盛だったようだ。後で詳しく教えてくれたまえよ!と目を輝かせてマーガレットに頼んでいた。タヌキな面と少年の気持ちを持ち合わせているようだ。後ろで強面執事が渋い顔をしていた。



「それで客人方が君たちを上手く保護してくれるようにと言ったわけだ。

 安心しなさい。領主の名の下、今までの生活と何ら変わらないように取り計らうよ。」



中年のオジサンがバチーンとウィンクをしてくれた。

・・・・・・いろんな事が予想外だった。



「まあ、ルクシャーン人の迫害が起きないようにと、過去にこの地に渡った私達の先祖が手配してくれていたのですね。」


バレットが要約して言った。そう言えば、客人が何故話に参加しているのだろう。客人が帰った明日にでも、城に呼び出して伝えればよい話のような気がする。



「迫害されると脅した手前、安心してこちらで暮らせるようにした・・と、直接お伝えしたかったのです。」



こちらの気持ちを読んだようにバレットが続けた。ああ、恩着せがましいのも通常運転だ。それは領主のご先祖様の功績じゃないだろうか。

バレットはアベルの疑わしい目を欠片も気にせず話を続けた。



「クレイア様もこちらに。お二人に最後の挨拶をしたいと思って呼んでもらったんです。」


敷物からこちらへ歩いてくるクレイアが見えた。領主も一歩下がって5人が向き合う形となった。


「お二方のおかげでこんなに早く目的を果たせました。ルーン領主と国交について話すこともできました。本当に感謝しているのですよ。」


「ああ、ララナに会えたことも含めて、この度の事、本当に感謝する。いつか、お前たちがルクシャーン王国に来れるようになったら、王宮で歓迎すると約束しよう。」



釣り目の強い視線が相変わらず怖かったクレイアだったが、交わした言葉は温かく感じた。

バレットは細い目をさらに細めてにこやかに見守っていた。




「では、失礼いたします。」



バレットはそう告げ、クレイアは鷹揚に頷いて、客人二人は飛空籠に入って行った。

するとすぐにバレットの力から生まれる激しい熱風が、飛空籠の上部にある巨大な布袋を膨らませた。まるで巨人がゆっくりと立ち上がるように膨らんでいったソレは、飛空籠をそぅっと持ち上げた。



「すごい!落ちてくるところもビックリしたけど、飛ぶところの方がもっと迫力があるねー!!」


マーガレットが興奮して横で飛び跳ねている。年頃の娘なはずなのだが、魔女には関係ないらしい。

アベルはやっと一息つけると感慨深く見ていると、上昇中の籠が振り子のように行っては来るような横滑りに動き始めた。

籠は2、3度揺れを繰り返し、最後にひと際遠くに離れ、次にぐんとこちらに向かって来たのだ。


篝火の焚かれた薄闇の中、マーガレットめがけて不自然な位置で白い腕が伸びたのを、アベルは目の端に捕えた。

アベルは反射的にマーガレットへ手を伸ばしたが、あとほんの数センチのところで空をかいた。


マーガレットのうめき声が上から聞こえて初めて皆が空を見上げた。何がどうなっているのか、夜空を見上げるアベル達にはなにもわからなかったが、飛空籠の底から、かがり火に反射するマーガレットの白い下穿きがバタバタと動いているのが見えた。どうやら箱の底も開閉が出来たようだ。中に引き摺り込まれまいと、マーガレットが抵抗しているようだ。

飛空籠は静かに横揺れを止め、再び上昇を始めた。バレットは最後にやってくれた。箱はもう3メーターほど上昇していた。



「アルベルト、飛べ!!お前の方が身が軽い!」



先程の中年騎士がひざの辺りで手を結び、踏み台になってくれていた。さすが経験豊富な騎士だ。アベルは我に返り、怒りと焦りを抑え走り出した。高度が上がっているのか、マーガレットの下穿きもほとんど闇に沈んでいた。上昇が終わり、横方向の移動になれば速度はさらに上がるに違いない。そうなればマーガレットを取り返すことは絶望的だ。



「遅えぇ!!!」



中年騎士がアベルの右足を持ち上げるよりも早く、アベルの左の足は中年騎士の顔面を迷いなく踏みつけ、アベルは驚異的な跳躍を見せた。



それはアッという間の出来事だったが、周りで見ていた者達は時が止まったように見えたと、後に聞いた。

金の髪をなびかせ、天をかけたアベルはキラキラと発光し、ありえない高さまで飛び上がった。

金の怒れる獅子に下半身を抱きしめられたマーガレットは、引っ張り上げるのに苦労していたバレットの手を難なく逃れられた。そう、バレットの支えきれなくなった二人分の重みは、籠から自由落下した。



「これは俺のだ!」



落下中、アベルはバレットに向けて叫んだ。それはまるで獅子の咆哮のようだった。

読んでいただきありがとうございました。

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