領主と客人
遅くなってすいません・・・・・・・。
「今、食料と水の積み込んでいます。こちらは荷のリストです。ご確認ください。」
騎士の一人がバレットに紙の束を渡し、彼はその足で回れ右をして、積み込み作業に再び加わった。
「ありがとうございます。」
バレットは笑顔で受け取り、リストを確認し始めた。
かがり火がそこここで焚かれ、星明りの夜は台無しだが、飛空籠の周りも昼のように明るくなっていた。そこへ何人もの騎士達が荷物を持って行き来しているのだから、夜は寝るモノとしていたマーガレットは何とも変な感じがした。
あの後、車輪の音がだんだんと大きくなり、思った以上の数の馬車が駆けつけた。そのうちの一台から見覚えのある騎士が、僧侶らしき男性を引き摺るように連れて降りてきた。
その騎士はアベルを見つけると、逸れ人はどこだと勢い込んで叫んだ。アベルを救う使命に燃え、興奮状態の彼に話を聞いてもらえるまで少々の時間を要した。申し訳ない事に無理やり連れて来られた僧侶は夕食を取っていた最中だったそうで、スプーンを掴んだままだった。
その後、逸れ人は皆で祈りをささげたら消えてくれた、客人達にも僧侶の力があったのだとアベルが何度も言って、ようやく納得してもらえた。
やはりマーガレットの力の事は黙っていることにした。バレットの言うとおり、恐怖を持たれてからでは遅いだろうとマーガレットと話し合った結果だ。
今は領主様の護衛の騎士達と城下の騎士達が協力して、飛空籠に物資を運び込んでいる最中だった。
駆けつけた馬車は結構な数だった。驚いたことになんと領主様もいた。客人の用事が終わったと聞き、そのまま帰ってしまうのではと急いで駆けつけたそうだ。周りの者は危険だと止めたが強引に来ることにしてしまい、それがこの大人数の騎士になった理由らしい。今は客人の要望で帰還の旅に必要な物資を取り寄せている真っ最中だった。伝令と荷馬車がここと城下を行きかい、届いた物資を騎士達が籠に積み込んでいた。
アベルとマーガレットは客人を案内したということで、始めは領主と客人の会合に同席をした。しかし国交に関して話すこともあり、二人は途中から席を外された。こちらとしても上層部の機密に進んで関わりたくない。今は二人で端っこにあるかがり火の一つに寄り添って座っていた。
「色々と、大変だったねぇ。」
マーガレットは最後のねぇに溜息を載せてはきだした。
「ホントだよ。俺も、騎士生活で一番肝が冷えた任務だった。」
苦笑いしながらアベルも返した。
「あ、でも俺はトラウマはなくなったから得したな。」
城下町の巡回係にそれほど不満はなかったが、トラウマ持ちでなくなり、下っ端騎士扱いを返上できたことは素直にうれしかった。
「本当?がんばって良かったよー!」
マーガレットが誇らしげに胸を張った。
「私も魔女の力にさらに磨きがかかったね。周りに言えないけど!」
「そうだね。言えないってわかってる辺り、成長したね!
でもマーガレットのすごさは俺が知ってるからさ。」
アベルは草の上にあったマーガレットの手をそっと持ち上げた。
「それと、改めて言わせて。
治療の事、本当にありがとう。」
アベルはマーガレットの顔を見て言った。さっきは混乱していて目線も合わせられなかったが、もう一度、きちんと感謝を伝えたかったのだ。
マーガレットは目をぱちくりとして、次に照れ笑いをしながらアベルの感謝の言葉を受け取った。
「私も、アベルがいたからあの状況に耐えられたんだよ。守ってくれてありがとう!」
お互いに今日までの健闘を称えあい、二人は温かい気持ちに包まれた。
「おーーーい、アルベルトくーーん! マーガレット嬢もこちらに来なさーーい。」
かがり火に当たりながら二人で過ごしていたら領主に付き添っていた騎士に呼ばれた。
領主様と客人方が話し合いを終えて、二人を呼んでいるらしい。
「もう出立されるのかな。」
「だと良いけどね。」
アベルはまた呼びつけられることに嫌な予感がした。
領主付き騎士は叫んだ後、小走りで近づいて来た。見れば父親のような年齢のがっしりとした騎士だった。城下町を警邏する騎士のアベルは、城に仕える騎士に知り合いはいない。しかしどこかで見かけたような顔だった。
アベルが思い出そうとひそかに頭を捻っていると、騎士はニコリとして言った。
「アルベルト君だね。今回の事はよくやった。客人方も目的が果たせたと感謝していたよ。」
「いえ、無事に戻って来られるように努力しただけです。それに、がんばったのは彼女ですよ。」
もう少しで思い出せそうなんだが。上からの物言いが上級職なのだとわかるし、門番で会ったのではないだろうし、誰だったかな・・・・・・・。思い出せないとなるともやもやと気持ちが悪い。
などと思いながら会話しつつ客人に向かう。
「客人の要求に的確に対応できたのは、彼女の案内があったからこそです。
今は亡き前魔女が残した記憶を頼りに目的地に案内してくれたのです。」
「ああ、昔に遭難した王女様の墓に用があったそうだな。知ってる者がいて助かったよ。
もし行方不明者を探すとなると、人海戦術しかないからな。
人員をどれだけ動かさなくてはいけなかったか、考えるだけで恐ろしいよ。」
おどけたように両腕をさすって怖がるフリをした。お茶目な中年である。城の内勤騎士は威張るだけのいけすかない奴というイメージがあって、気さくな上司はとんと縁が無かったんだが、やっぱりこの騎士の顔は知っている。
「お嬢さんは客人の一人に求婚されたんだって?どちらも美男子の上に、玉の輿じゃないか!」
「え!?」
「どちらの御仁に見初められたんだい? ネコ目の王子様かい? それとも狐目の従事殿かい?」
中年騎士は、さあさあと面白そうにマーガレットを肘でつついている。マーガレットはキュウコンて?タマノコシって何だったっけ?と聞きなれない言葉にキョトンとしていた。
しかし衝撃をうけたアベルにはそんなやり取りも見えていなかった。いつの間にそんな事になっていたのか。
というより、何故それに衝撃を受けたのかも分からなかった。
何故だ!俺は騎士だ。冷静に、任務をこなせる騎士なんだ。思い出せ、アルベルト!
嫌な汗が背中をつたっていく。アベルは原因不明の混乱から立ち直るため、自分を奮い立たせるので精一杯だった。
漸くマーガレットがキュウコンが結婚を申し込まれることだと理解したところで客人の下に着いた。
恐ろしい事を言われたマーガレットは、バレットが素敵な笑顔で迎えてくれたことにさらなる恐怖を感じた。
「やあ、マーガレット。それにアベル。待たせましたね。さあ、こちらに。」
二人はものすごく嫌な予感がした。
読んでいただきありがとうございました。
ひと月以上も間を空けてしまいました。やっと書けました。お待たせしてごめんなさい。




