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自宅兼薬草の森 2

「お前の名は、アカリだ。」



何もなかったようにクレイアが話しかけてきた。

バレットはクレイアからそっと離れた。このまま様子をみるようだ。

アベルがマーガレットを抱えたままバレットを目で伺うと、そのまま聞いているようにと、これまた視線で促された。



「少し昔話を聞いてもらおう、アカリ。それを聞いて、親元に行きたいなら送ってやろう。」



話の流れから、親元というのは危険な象徴のようだ。バレットも眉をしかめている。

話は聞くとマーガレットの代わりに先を促した。

しかし何かあったらマーガレットは裏の温泉に逃がそうと、廊下側の椅子に移動して座る。



「15年前、ルクシャーン前国王が亡くなった。

 その夜、王宮から妹のララナ王女を逃すため、私は完成前の飛空籠を無理やり飛ばした。」







王族はルクシャーン人の中でもさらに特殊な血筋だ。生まれるものは皆力が大きく、死んだ後もまわりに影響する。


王族が失われる度に国が揺れた。

王族の遺体・・が周りにいる者に力を与え続けるのだ。

それは城の地下墓地に入れても変わらず力を与え続け、影響は何年続くか分からない。


ただ、若くして亡くなる者ほど、大きく、長い間力を与えるようだ。

幼い時期や病弱など、弱い立場の王族は特に狙われ危険だ。


ララナ王女は生まれた時から両方の理由で狙われ続けた。

生まれながらに臓器に欠陥があり、長く生きられないと医者から言われていたのだ。

強大な力を持って生まれた第四王子である私とララナ王女は、不思議と気が合い仲良く共に過ごした。



「お兄様。私は皆を狂わせたくありません。静かに眠りたいのです。」



ララナ王女は幼い頃から異常に賢かった。力が頭脳に対して働いていたのだろう。

その先を見据え、常に私に言っていた。


しかしながら強大な力を身に取り込むことは、大きなリスクがある。

力を取り込む代わりに、元から持っている何かを失っていくのだ。


母である王女が亡くなった時から、父と兄達は言動が少しづつおかしくなっていった。

女王も王家の血筋を引く他家から嫁いできたのだ。直系ほどじゃないにしろ、力は影響した。

王と兄達も力と引き換えに、言動をおかしくする何かを失っていったはずだ。

失う何かを知られることは弱みにもなるため、王や兄達のそれは未だにわからないが。


私も心から人間らしさを、ララナ王女は生命力を少しづつ失いながら力を取り込んでいった。

望んでいないにも関わらず。



ララナ王女はその頭脳を最大限に生かし、しかし密かに飛空籠の開発に力を注いだ。

私は動けないララナ王女の代わりに市井に降り、飛空籠を飛ばすのに必要な能力を持った者を探した。


私の能力は、広い範囲で対象物の身体の自由を奪うことができる力だった。小さな町なら数分で、丸ごと息の根を止めることができるだろう。

幼い頃から身を守る以上の力を持ち、ララナ王女とは反対の意味で、兄達から恐れられ何度も狙われた。しかし圧倒的な力の差で倒されることはなかった。


15年前の前王が亡くなった夜、前王の力が城を揺らすほど溢れ、三人の兄達がそれぞれに動いた。

王位継承争いに、力をぶつけ合ったようだった。



「お兄様。王の力が、私の最後の命を削リ取ったようです。

 私はもう長くありません。

 ここに居れば、感づいた他の兄王子達がすぐにでもやってくるでしょう。」


「ララナ。もう時間がないのだな。」


「ええ。お兄様が探して下さった風遣い、ありがとうございました。」


「風遣いの妻は城で侍女をしていた。身の回りの世話にちょうど良い。連れて行け。」


「私のために二人の命も・・・・・・・。」


もうすぐ遺体となり、周りを狂わせるのなら、と死の旅に出る。

誰の手も届かない土地に行くためには飛空籠の操作を頼む犠牲者が要った。


「・・・・・・娘に十分なお金を残してやれました。」

「王女様の為に、最後まで喜んでお伴いたします。」


悲壮な顔をする王女に、風遣いの夫婦は慌てて言葉を挟んだ。

悲しい運命を背負う王女の賢明な選択に、最後まで忠誠を誓っているのだ。


二人には北の山脈をさらに北へ飛び、王女の遺体を誰の手も届かないところに運べと言ってある。

五歳にもならないララナ王女の命は風前の灯だった。

飛ばしたこともない飛空籠で、戻る手段など検討している時間はなかった。



「おかーさーーん!! どこー?」


「アカリ!?」


「お前、アカリは親戚に渡したんじゃあ・・・・・・・。」


「今朝、急に貴方と同乗するように言われて。

 でも警備が厳しくて城内から出られなかったのよ。侍女仲間に頼んだんだけど。」


「お部屋が揺れて、誰もいなくなって、怖かったのーーー!」


絵本を手に、小さな女の子が転がるように走って来た。



「ではお前も親と行くが良い。」


「お兄様!?」


「え? だいよんおーじさま? いやー!」



私は逃げようとする子供の襟首を掴み、怯える子供を籠に放り込んだ。

仲の良い親子なら、最後の時まで一緒に過ごせた方が良いだろう。


風遣いはもう籠を浮かせていた。後戻りはできない状態だった。


私もついて行きたいと思わないでもなかったが、もしもの為にこの地で兄達を止める役目があった。


私が死ぬときのためにも、もう一つ飛空籠がいるな。

ああ、もう一人風遣いも探さなくては。

ぼんやりとそう思った。



その晩、力で周りをねじ伏せた第一王子が王を継いだ。

私はララナ王女の出奔の責任を取って離宮に閉じ込められた。

ララナ王女もいなくなり、王位に興味が湧かなかった私は素直に従った。

日常は今までとたいして変わらなかった。


相変わらず次の風遣いを探し、密かに飛空籠を作らせて過ごしていた。









「しかし先日、その王が病で死んでしまった。それに王には子が出来なかった。」



離宮で過ごす私には関係ないと思っていたが、そうはいかない事態になった。



「今、第二、第三の王弟達が王位継承争いをし、双方ひどいけがをしてしまってな。

 私に王位が転がってきた。」



クレイアの口の端にかすかに笑みが浮かんだ。



「しかし二人は口だけは達者でな。ララナ王女の了解も得るべきだと主張した。」


「それでこちらに参った次第でございます。」


バレットが追加した。


「王弟なぞ二人とも消してしまっても良かったんだが、バレットが手順を踏まねばならぬと言うからな。」


「当たり前です。他の王弟と同じになっても困ります。

 クレイア様は今までにない良き王となるのですから。」


「・・・・・・だそうだ。私も狂った王室を正したい。」




「おい、良い話で終わる感じになってるけどさ。

 何でマーガレットを狙うのかがまったくわからない。」


「私は、クレイア様が怖い理由はわかった。籠に突っ込まれたから。

 でも私を籠に突っ込んだ理由がわからない。」



無礼極まりないが、二人は言わずにはおられなかった。しかしクレイアはキョトンとして言った。



「親から引き離されて、子供一人残されるのは悲しいだろう?」


「そこはわかります。」


二人は頷く。


「一緒に死んでしまえば悲しくないだろう?」


「それか!」


理由はわかったが、理解はできなかった。

アベルとマーガレットが複雑な顔をしていると、バレットが会話に入ってきた。



「今は前王の力の影響がだいぶ抜けて、これでもよほど人間らしくなってきたんですよ?」



これで?と二人は思ったが、今度はなんとかセリフを飲み込んだ。



「クレイア様、お話を聞いても、マーガレットちゃんは今が幸せそうです。

 もう親元へ送ってあげる必要はないでしょう。」


「ええ!バレット様の言う通りです。し、しあわせだわー。」



引きつった笑顔で追随するマーガレット。

クレイアに殺害を諦めてもらい、やっと手紙に手を付けることができる一同であった。



「アベル、ありがとうね。」



マーガレットがこっそりアベルに声をかけた。ついでに腕を叩く。まだアベルはマーガレットを抱えたままだったのだ。

アベルは腕の位置が際どいところにかかっていたのに気づいて慌てて離れたが、椅子をまきこんで派手にコケてしまった。



「ほほえましいですねぇ。」



私の感情は人並みですから、とバレットがにっこりして言った。

読んでいただきありがとうございました。

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