表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/36

自宅兼薬草の森

信じられないことに一晩寝たら身体は元通り、傷一つ残らなかった。


思わず脇腹を撫で擦った。かさぶたすら無い。

マーガレットの薬(劇薬?)と、それに耐えた頑丈な体に感謝だ。



昨日の内にマーガレット達は町長に挨拶を済ませてくれていたそうで、朝日が昇ると同時に出発した。



「昨日は傷を治していただき、ありがとうございました。」



客人に朝一番でお礼を伝えた。

昨夜はアベルが目を覚ましたと聞いたマーガレットに、感動の抱擁(という名の攻撃)を受けたのだ。

気合でお礼を言ったのは覚えているが、その後の記憶はない。

情けないことにそのままベッドに逆戻りしてしまい、客人へはお礼を言いそびれていた。



「私は方法を教えただけですから。」


にこやかに言われたが、顔には貸し一つだと書いてあった。

バレットはそれだけ言うと、クレイアと共に先に歩いていってしまった。

だからそもそもケガの原因は・・・・・・・。




薬草の森の入口に近づくにつれて、客人の二人はそろって表情を堅くした。

特にクレイアは何かに耐える様子で辛そうにしていた。



「ここは精霊の森とも呼ばれています。精霊の力はお二人はダメですか?」



客人達の様子に気づき、マーガレットは心配そうに聞いた。



「精霊・・・・・・・ねぇ?」


「・・・・・・早く進もう。」



しかしそれは余計なお世話だったようだ。

客人は含むところがあるようで碌に答えず、お互いに目くばせをして黙った。

アベルとマーガレットも問いただすこともできず、黙って道案内に徹した。


四人はガサガサパキパキと山の小道を踏み散らかして進んでいく。

時折、木々の間を小動物らしき影が逃げていく。自然が深い森だ。

しばらく歩くとマーガレットの小屋が姿を現した。

三日前と何も変わっていない。マーガレットの表情が安堵で緩んでいた。



「狭い所ですが、どうぞ。」



マーガレットが客人をリビングに招き、おばあちゃんの手紙を取ってくると奥に消えた。

先代魔女は何を残してくれたのだろうか。



場合によっては俺たち人質組は、先日のクレイアの力でくびり殺されそうだ。

アベルは神経を張りつめて、いつでも剣を抜けるようにしていた。

望みは限りなく低いが、一瞬の隙(があればだが)を狙うしかない。


マーガレットは同郷ということに加え、力の使い方を覚えて気を許したのだろう。

手紙を渡せば、クレイアとバレットの役に立つとしか思っていないに違いない。



「アベル、昨日は力をぶつけてしまってすまなかった。」



リビングのソファで寛いでいると思っていたクレイアが、アベルのいるダイニングテーブルの前に座っていた。距離を取っていたはずなのに?


さらにおかしな事に、昨日の事を謝罪された。

アベルは予想外のことに目をパチパチさせた。



「クレイア様。アベル君は気配を追う事に慣れ過ぎているんです。

 急に近づいたら驚かれますよ。」


「そうか。だがアベル、それはこの国では通用するが、これからは気を付けた方が良い。

 私達のように気配を押える術もあるのだから。」


「っだからか。後ろを取られることが多いと思った。」



客人が気付かないうちに移動している謎がとけた。

しかし気を張っていたのに後ろを何度も取られるとは、騎士として恥ずかしすぎる。

穴があったら入る、というか埋まりたい・・・・・・・。



「アベル君も、気配を読むことばかりに頼っているから、気配が消せる同族に気が付かないんですよ?」


「!」


「アベル君は色素も含めて先祖返りですね。

 我々に比べたら弱いですが、無意識に力を使っていますよ。」


アベルはバレットが言うことに合点がいった。

アベルは普段から気配を読めることを特に隠していなかった。騎士の誰もまねできなかったからだ。

しかし家族は気配が薄くて読みづらかった。

なるほど血が成せる技だったのか。



「で、私の謝罪は記憶に残っているかい?」


「あ、はい。たぶん?」


「クレイア様はいつも突然だから。アベル君も混乱していますよ。

 アベル君も大丈夫ですよ。この方が単刀直入なのは常ですから。」



珍しい事に慰められた。

常日頃、バレットがクレイアに苦労している様子がちらりと窺えた。



「クレイア様のお力は強大で、感情の揺れで暴走しやすいのです。

 貴方たちの事を疑っていたこともあって、私もクレイア様のさせるがままにしておりました。

 先日は危険な目に合わせてしまい、失礼いたしました。」



ツラッとバレットも謝った。あれ、バレットの方が悪意がないか?

いやそれより。



「疑っていた、ということは、もう疑っていないのですか?」


「ええ。この森の様子である程度はわかりましたので。

 マーガレットちゃんの言う手紙も、確認になるでしょう。」


「?」


「お待たせしましたー。」


マーガレットの間延びした声が割って入ってきた。

一抱えほどの木の皮を裂いて編んだ籠を持っている。


「手紙の他にもガラクタ?みたいなものが一緒に入ってるみたい。

 そうそう、キラ星石も入っていたくらいだから、扱いに気を付けてねー。」


言いながらリビングテーブルに籠を置き、お茶を入れる準備を始める。


「壊れ易い物も一緒に入ってるの?」


アベルはそっと被せてある蓋を持ち上げた。まず一番上に布きれが見えた。


「たぶん? あまりちゃんと確認したことがなくて。」


形見だと思ったら、なかなか見ることが出来なくて、と苦笑いするマーガレット。

キラ星石セットは一番上に置いてあったそうだ。

アベルはマーガレットに許可を取り、籠の品々をテーブルに並べていく。


煤で汚れた布、領主様から取り返したキラ星石セット、表紙が擦り切れた絵本、先代魔女の手紙。


「その絵本、そこに入っていたのね。おばあちゃんたら入れ間違えたのかなー。」


お茶を出し終えたマーガレットは懐かしそうに絵本を手に取った。

マーガレットがパラパラとめくると、そこにはアベルが見たことのない文字が躍っていた。

いや違う。つい最近見た。バレットと書類を作成していた時だ。


「それ、」


「お前は!」


同時に声を上げたのはアベルとクレイアだった。


「ひぃ!」


クレイアはマーガレットの絵本を持っている手ごと掴んで引き寄せた。

マーガレットは怯えて身体をこわばらせている。


アベルが反射的に腰の剣に手を伸ばすと、素早くバレットがその上から抑え込んで叫んだ。


「クレイア様!」


「・・・・・・思い出した。死んでいなかったのか、アカリ。」


「アカリ?」


マーガレットを見ながらアカリと呼び、しかし目はなんの感情も宿していない。


「今まで寂しかっただろう。あの時息の根をきちんと止めておけばよかった。

 ここで会えてちょうどよかった。

 アカリ、両親のところへ送ってやろう。」



マーガレットはただ震えることしかできなかった。


そうだ、この人はいつも怖かった。

あの晩はお城が揺れて、お母さんもいなくて、逃げ切れなかったんだ・・・・・・・。



「クレイア様!」


「マーガレット!」



お互いが、お互いの相手を抱き込んで距離を取った。

マーガレットは震えるばかりで何もしゃべられない状態だ。


クレイアは抱き込まれながら、不思議な顔をしてバレットに話しかけていた。



「どうした? バレット。また私は何か違ったか?」


「・・・・・・マーガレットちゃんは、今が幸せそうに見えます。」


「親と共にある必要はないのか?」


「ええ、そのように見えます。」


「そうなのか。」



淡々とした会話が、ひどく不気味に感じた。

読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ