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特技が増えた

ゴロゴロガタゴトゴロゴロガタゴト・・・・・・・。

マーガレットの住む森は遠く、4人は未だ馬車の中にいた。



マーガレットが15年前の迷子であることを言ってしまった。

しかし、あのままだったらクレイアの力で締め上げられて、二人とも無事ではなかっただろう。

実際、喉が潰されたらしゃべられなくなったし、ナイスタイミングだったよ、とバレットに褒められた。

まったく嬉しくないが。


持っていたキラ星石は、高貴な身分の者が持つ身分証らしい。子供の頃から迷子札として持たせるものだと言われた。ララナと彫りこんであるのを見てクレイアがキレたのはそのせいだ。

王女の名はララナ。

それをマーガレットが持っていた。


もうこの際、マーガレットが王女であることにしたら丸く収まりそうだが、ルクシャーン人達は血族の見分けがつくというから厄介だ。


わかったことは、マーガレットはルクシャーン人、だが王女ではない、ということ。

そして飛空籠(と呼ぶと教えてもらった)とクレイアに怯えていること。

王女の証をそれと知らずに持っていたこと。



15年前に何故王女はこちらにやって来たのか。

不機嫌に座る王子と読めない従者は教えてくれるだろうか。

下手をすれば先ほどのように力で危害を加えられそうで

、こちらからは聞けない。

マーガレットの言う先代魔女の手紙を読むまで大人しくしているしかないか・・・・・・。


火傷と打撲の痛みで思考が上手くまとまらない。アベルはつらつらと考えては鈍く響く痛みに耐えた。



「傷が痛む?」


マーガレットが心配して聞いてくるが、どうしようもないのでニコリと笑顔でごまかした。



「あー、火傷になりますからね。軟膏が売っているところに寄りましょうか。」


バレットが悪びれることなく火傷の傷を心配してきた。

あんたが攻撃した傷なんだがな、と言いたいが飲み込む。



「ただの軟膏如きでお前の付けた傷が治るか。特級軟膏は国にしかないだろう。

 ・・・・・・特級、そうか。」


「街道沿いに店があれば分けてもらいましょう。」



勝手に客人同士で納得顔になり、バレットはすぐに馬車内の小窓から御者に指示をした。

それはすぐに道中の食堂で手に入れることができた。街道沿いの食堂や宿屋などの店舗は萬屋に近く、細々こまごまとした商品を扱っているのだ。


ついでに遅い昼食も食堂で頂いた。込み合う時間からずれていたため変な輩に絡まれることもない。

メニューも、パンに甘辛いタレの肉と野菜を挟んだだけのピタンとスープという質素なものだ。

しかし驚いたことに高貴な身分の二人も庶民の食事を美味しそうに食べた。



「国のように毒殺を恐れる心配もありませんから。久しぶりに食事が楽しめます。」


「甘くて辛い味は初めてだが、美味しい。」



バレットの物騒な話は聞きたくなかったが、不機嫌だった王子様が美味しそうに食べてくれたのは良かった。

食事が終わり、馬車に戻ったところでバレットがマーガレットへ軟膏を渡してきた。


「自分で付けた傷を治して差し上げるというのは変な話ですが、」


「?」


「マーガレットちゃんの力を使う練習にもなりますからね。

 石に力を込める要領で、この軟膏に傷の回復を願ってみて下さい。

 アベル君の傷に効くはずです。」


「! それって薬草を煎じる時にしていたかも。治りがいいっていわれてた・・・・・・・。」


「知らずに力を使っていたのでしょうね。覚醒した今はもっと効くようになるはずですよ。」



マーガレットは、早速やってみます!と良い返事でとりかかった。

と言っても軟膏を持って祈るだけだったが。


しかしアベルは気になることがあった。

軟膏が出来たら、誰が自分に塗るのだろう。

いや自分でできる範囲はするが、たぶん手が届かない部分もあるだろう。

客人にさせるわけにはいかない。

残るマーガレットに、と想像して顔が赤くなるのが止められなかった。やばい。



「では試しに腕から脇腹に塗ってみてください。」


期待に目をキラキラさせているマーガレットから軟膏を受け取り、片袖をまくり上げて自分で塗る。火傷で赤く爛れて、その下は打撲になっているようだ。触れるだけで思わず呻いてしまった。


「マーガレット、年頃の娘が男の裸をじろじろみるものではないよ。」


「クレイア様。でも私の力がアベルに効果があるか心配で・・・・・・。

 それに裸ならもうお風呂で見たことがあるから大丈夫ですよ。」


「うわ、ばかっ!」


「・・・・・・へえ。」


「そうか。なら良い。」


バレットがニヤニヤしているのが何とも腹がたつ。クレイアは納得している。それも困る。

何度も思うが、こんな状態になったのはお前らのせいなんだぞ。


訂正しなければと声をあげようとしたが、急速に力が失われていくのがわかった。

なんだこれ。やばい、視界が暗くなっていく・・・・・・・。

もう身体も支えていられないのか、俺は倒れていくらしい。馬車の床が眼前に迫ってきた。



「アベル!!!」


軟膏を塗ってほんの数分だった。

アベルは馬車の椅子から崩れ落ちた。顔色は白く呼吸が浅い。


「バレット様。私は何を作ったんですか?! アベルが!」


「・・・・・・大丈夫です。成功です。それに恐ろしいほど高性能ですよ。」


「ええ?」


バレットはアベルに抱き付くマーガレットを座らせ、アベルの様子をみて言った。


「貴方の力が働いて傷の回復力が上がり、アベル君の身体の力を根こそぎ使って治しているんです。」


「治っている?」


「ええ。基礎体力はありそうですし、残りの傷にも塗ってしまいましょうか。」



バレットは容赦のない治療をした。

アベルは目が覚めた時にそう悟った。

三日三晩寝ずに走り回ったような疲労感でいっぱいだったからだ。

その代り、傷も痛みも何もなくなっていた。

あまりの疲労感に、嬉しさも半減以下だったが。




アベルが意識を取り戻したのは、御者役の騎士に担がれて宿に入る時だった。

目が覚めたならベッドまで歩けと放り出された。アベルも男に担がれるよりは自分で歩く方が良い。

辺りは夕闇に沈み、見覚えのあるそこは前に泊まったハッパー町の宿だった。


「それにしても無事に目が開いて良かった。

 お前に塗った軟膏って、効くんだろうが怖くて俺には使えねぇや。」


宿の相部屋に入るなり言った。

ああ、御者こいつが塗ったのか。いや、なんか不穏なこと言っているような気がする。


「無事にってなに?」


「お前に軟膏を塗れって馬車で言われたんだけどさ。」


塗るたびにお前の顔色は悪くなっていくし、呼吸も弱くなっていくしで、毒でも塗らされているのかと肝が冷えたと言われた。

その後のみるみる傷が消えていく様子も凄かったけどな!と御者はガハハと笑った。



客人とマーガレットは食事に行ったそうだ。アベルは今夜はマトモに動けないだろうから、騎士組は宿で食事をとって、マーガレットの家には朝一に出発することになったという。



「明日は俺は待機と言われた。馬車も護衛も要らないそうだ。お前と嬢ちゃんだけ連れていくとよ。」


「俺は護衛じゃなく人質か。わかっているが腹が立つ身分だな。」


「そういうな。お前の傷も治してくださったじゃないか。」


「あれは、・・・・・・そうだな。」



正確にはマーガレットのおかげだが、今後の彼女のことも考えて誤解は解かずにおいた。



その晩は、領主様のつけが利くということでタラフク飲み食いさせていただいた。

そして食べすぎて動けなくなっているところにマーガレット達が帰ってきて、感極まったマーガレットに絞殺しめころされそうになるのはもうすぐ・・・・・・・。

読んでいただきありがとうございました。

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