表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/36

本能で怖いと感じる人だ

「妙だな。こんな異国の地に何故。」


金髪碧眼の若い男は心底不思議そうに言った。しかし物言いは穏やかなのだが、先ほどアベルが吹き飛んだ事を少しも気にしていない辺り、人を虐げることに慣れた者に違いない。

つり気味の目が射るように見つめてくる。


マーガレットはアベルが吹き飛ばされた辺りを視線で探した。すぐに10メートルほど離れたところに倒れているのが見えた。動く様子はないがこちらを見る目には力が感じられる。


生きているようだ。良かった! いやしかし私の立場はこれっぽっちも良くない。

じりじりと後退ってみるが、離れた場所からアベルを吹き飛ばした(と思われる)のといい、逃げられるとも思えなかった。



「君は言葉が話せないのか?」


釣り目の整った顔の男はまた問うてくる。


その目線にマーガレットはぞわぞわと這い上がるような恐怖を感じた。

怖くて言葉がのどの奥に張り付て出ないだけだ。と言ってやりたい。



「言葉は通じるようです、クレイア様。

 こちらのお嬢さんはクレイア様に怯えているのですよ。」



もう一人の金髪碧眼男が近づいてきた。こちらは細く薄い目で、視線を感じないからか幾分見られる。よく見れば髪もこげ茶色に近い金髪だった。

釣り目の男は目も口も釣り上げて微笑んだが、凄みが増しただけだった。


「女子供に受けない顔なのはわかっている。だが彼女はそれ以上に怖がっているように見えるんだが。」


「あれ、クレイア様。このお嬢さんは・・・・・・・?」


釣り目の男が細い目の男の言葉に、声を潜めて耳打ちした。マーガレットに会話を聞かれたくないようだ。


「そう。こちらの民と混じっていないのだ。初めは姫かとも思ったが、しかし似ても似つかない。

 だが待て。・・・・・・姫と年は同じぐらいだな。関係者か?」



マーガレットは二人がひそひそと会話している隙に周りを伺った。落ちた籠の方には、対峙していた騎士たちが一か所にまとめられて転がっていた。この男がやったのだろう。作業が終わってこちらに来たようだ。

騎士たちはピクリとも動かない。

殺されたのだろうか? マーガレットが真っ青になったところで気付いた細い目の男が言った。


「大丈夫、殺していませんよ。あの方たちは動けないだけです。

 ああ、すいません。この騎士は動きが良くて、思わず攻撃してしまいました。」


アベルを攻撃したのはこちらの男だったようだ。だが、かなり離れていたのにどうやって攻撃したのだろう。騎士たちの相手もそうだ。争う声も聞こえなかった。

細い目の男は、あなたも中々な使い手ですね、手加減ができませんでした、とまるで世間話をするように話しかけながらアベルの倒れている方に向かっていった。


「クレイア様、彼は彼女の知り合いのようですね。

 ・・・・・・起こしますか?」


男の呼びかけに、クレイアと呼ばれた釣り目の男は小さく頷いた。

とたん、アベルの咳き込む声が聞こえた。

男とアベルは2,3言やり取りをした後、アベルは男に支えられてこちらへやって来た。身体の右側を少し引きずって歩いている。


「アベル!」


やはりケガをしている。ケガの具合を確かめようと手を伸ばしたが、


「マーガレット! 怖い思いをさせてごめん。」


その手を握りこまれたと思ったら、抱き込まれていた。アベルの抱擁にビックリしていると直ぐに背後に回された。


ああ、この人達から隠してくれたのね。なんだか動悸がおさまらないマーガレットは一瞬恐怖を忘れて焦った。

マーガレットはアベルの後ろであたふたしていたが、アベルは男二人に向き直った。



「貴方たちの力は十分に分かった。俺は・・・・・・協力する。」



アベルはこの男達に手も足も出ない自分に情けなく、悔しかった。

しかし今優先させることはマーガレットをここから逃がすことだ。


先ほど抱き起された時、細い目の男は”協力”か”支配”かどちらが良いかと選択を迫った。



「ああ、自ら協力してくれると言ってもらえるとは、手間が省けて助かる。」


「君らが思っているような大したことは要求しませんよ。人探しです。人探し。

 ほら君、そんなに警戒しないでください。」


ニコリという細い目の男。


「・・・・・・人探し。」



なんて嫌な合致だ。マーガレットに関係するかも、いやその可能性がかなり高いが、こいつらを簡単に信じることも難しい。圧倒的な力の差と人質に頷くしかない状況で協力を求める辺り、人々を征する事に慣れている。一騎士であるアベルを言いくるめるなど容易いだろう。ここは何とかして、奴らに気づかれないうちにマーガレットを先に解放させたいがどうしたらいいだろう・・・・・・・。



「君はマーガレットというのか? 私はクレイアと言う。ここにいる間はよろしく頼む。」


「・・・・・・よろしく。クレイアサマ?」



今後のことを考えていたらいつの間にか会話が進んでいた。何故俺を抜かして自己紹介を始めるんだ。協力するのは俺だけだろう? この釣り目男。

マーガレットは恐怖で小さく震えながらも俺の背後から顔を出した。俺のシャツは掴んでいるが。



「あの、人探しならいくらでも手伝いますから、騎士様達を解放してもらえませんか?

 天から来られた理由がわかれば、彼らも安心できるでしょう。

 この地の領主様も(狸的に)賢いかたですから、きっとお力になれると思いますよ。」


「この国の王はその領主とやらか? ここは国交が望めないから隠密に事を運ぼうとしたのだが。

 バレットの籠の操作が下手だから、派手に落ちてひと騒ぎだ。一つ詫びておくのも手か。」


今のところ無駄な殺生はしないようだと踏んで、マーガレットは鎌をかけられた腹いせに、領主様へ押し付けようとした。アベルがギョッとしてこちらを見たが気にしない。偉い人同士で解決してもらえば良いのだ。自分の恐怖やアベルが騎士であることは一時忘れ、マーガレットはアベルにもうケガをして欲しくない一心で言ったのだった。



「クレイア様。この籠を操作できるのは国でも私だけでございます。

 どうぞ、お帰りのこともお忘れなきように。

 しかしこちらの王にご挨拶できるのであれば良い機会ですね。」


主従の関係に見えたが気安い仲なのだろう。細い目の男が慇懃無礼な態度で言ってもクレイアもわかっていると苦笑いだ。細い目の男はそれで満足したのかこちらを見て、クレイアに続き自己紹介を始めた。


「ああ、マーガレット、とアベル、でよろしいですか? 私はクレイア様の従事でバレットと申します。

 少しの間でしょうが、クレイア様共々、よろしくお願いしますね。」


何をよろしく願うのか恐ろしいが、二人とも頷くしかなかった。


優雅に微笑む二人に、警戒する二人の異様な雰囲気の中、自己紹介は終わった。



「・・・・・・クレイア様、バレット殿、早速ですがマーガレットを含め、皆を解放していただけないでしょうか? 

 あの騎士達に領主様へ貴方たちの事を知らせてもらいます。もちろん俺は残りますので。」



アベルは自分で手に負えないのは確かだと割り切るしかなく、結局マーガレットの提案にのる事にした。自分は人質に残る。マーガレットは騎士たちに託そう。



「まあ、挨拶は必要か。バレット、籠に紙がまだあったろう。書面を作った方が良いだろう。アベルと一緒に行け。

 マーガレットは私と一緒に待っていよう。良いね?」


「なっ!」



嫌な予感はしたんだ。こいつら簡単に手放しそうにないって。



「・・・・・・わかりました。」



小リスはプルプル震えながらも、俺の背から出て行った。



「すぐ戻るよ。」



「うん。アベルも気を付けて。」



アベルは動きづらい身体を引きずりながらも何度も振り返りつつバレットについて行った。


マーガレットはクレイアにじっと見つめられているのを感じながら、目線を合わせないように下を見るようにして彼の傍へ移動した。


クレイアはそんなマーガレットをみてやはり、懐かしいような、壊してしまいたいような、不思議な気持ちを感じていた。

読んでいただき本当にありがとうございました。

7/6修正しました。話の流れは変わりません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ