はじめてのおつかい 4
「マーガレット。こんな事言える立場じゃないのはわかっているんだけど、
領主様にキラ星石のことを話すときに、褒美にマーガレットの親を探してもらうように頼んでみても良い?」
部屋を移してから単刀直入に切り出した。
もちろん扉は開けてある。
思わず怒ってしまったが、歩くうちに頭も冷えた。マーガレットの秘密を領主様に報告することになるのだ。マーガレットは裏切られたと思っているだろう。今までの生活が脅かされるかもしれないのだ。
それならばせめて条件を付けられないかと思ったのだ。
これぐらいの条件なら領主様も頷いてくれるだろう。
領主様ご一家が治めるこの土地は善政を敷かれ、悪い噂は聞かない。
個性的な点はちょっと好奇心旺盛なぐらいだ(まあ、これが今回の元凶なのだが)。
アベルが忠誠を誓い騎士をするぐらいは良い領主様であった。
「領主様は好奇心が旺盛で偶に無茶も言うけど、民のために長い事善政を敷いている。
連れて行こうとする俺が言うのもなんだけど、悪いようにはしないと思うんだ。」
秘密を暴いてしまうのだ。せめて報いれないかとマーガレットの親の捜索依頼をと考えた。
「俺は領主様を裏切るわけにはいかないが、マーガレットを裏切って売るつもりもないからね。」
自分でも何とも説得力のない言い分だと思う。でも言わずにはおれなかった。
彼女にひどい目に遭って欲しくないのだ。
秘密を知った途端、意見を翻した自分を信じてくれると思わないが、信頼を取り戻すまで精一杯努力するつもりだった。
「アベルがそう言うならきっといいようになるよ! ありがとう!」
ところが、マーガレットは怒るどころか感謝をしてきた。
アベルは呆気にとられてしまった。
「・・・・・・なんで君はここでありがとうがでるの?」
「?」
マーガレットはアベルの言葉に首を傾げた。
マーガレットは純粋に嬉しかったのだ。
今までの人生は、ほとんど記憶にない親が迎えに来てくれるという不確かな未来にすがって生きてきた。
現実の大切な家族だったおばあちゃんはもういない。
しかし今、一緒にいてくれる、本気で心配して怒ってもくれる友人のアベルがいる。
その上、領主様が親探しをしてくれるなら儲けモノだ。
アベルを信じてるからねー、と伝えるとアベルは驚いた顔をした。
そして少し顔を赤くしながら、最初に会ったときから比べると大違いだねと苦笑いしていた。
おばあちゃんが居なくなってからの森の生活は、声を出さない一日も珍しくなかった。
なのに今はどうだろう。
おばあちゃん、ばれちゃっても案外人生楽しいものだったよ。
マーガレットは胸の内でつぶやいた。
アベルはもう勘違いは勘弁と、気になっていたことをいくつか聞き始めた。
マーガレットも人生で一番というほど真剣に答えた。
「えっと、キラ星石っていうのは石を光らせた物を私がそう呼んでいるだけなんだ。
光れって気持ちを込めるんだけど、たぶん周りの精霊の力を込めているんだと思う。
ここは森じゃないから、この光も弱いし3日も持たないと思う。
え、おばあちゃんはできなかったよ。私だけの力だよ。」
アベルの手元のキラ星石は確かに薄ぼんやり光っていた。摘み上げて覗き込んでみると、火花のように幾つもの光が中ではじけては消えると繰り返している。なんとも幻想的で美しい。
「・・・・・・聞けば聞くほど領主様の好奇心を刺激しそうな話だな。」
それにしても何故マーガレットは不思議な力があるのだろう。
それに彼女は力があることを特別だと思っていないように見える。まるで当たり前のような。
しかし先代魔女が同じように使えたわけではないと言った。
領主様でなくても気になる・・・・・・・。
「領主様・・・・・・、そういえばアベル! 私が魔女だってあらかじめ領主様に知らせていた?」
アベルはキラ星石の持ち主を連れてきたとしか知らせていなかった。
「初めに小さな魔女様って言われたよね。てっきりアベルが手紙に書いていたんだと・・・・・・」
「書いてないよ! いや、気付かなかった・・・・・・。
キラ星石だけじゃない。初めから鎌をかけられていたんだ!
扉の前で様子を伺っていたのも、俺たちの会話で何かわからないか探っていたのか!
くそっ、油断した!」
誤魔化したようでいて、逆に年季の入った狸に踊らされていたようだった。
「それと領主様のよく似たネックレス。あれね、ナナイって彫りこんであったよ。
私のはララナってあるから違うってわかったんだ。」
「文字が? どこに?」
アベルには金の模様にしか見えないが、一部は文字らしい。マーガレットが指さして教えてくれるのだが全くわからない。
「もしかして暗号?」
「えー? 絵本にはこの文字が使われていたよ?
そうだ、町長に納品するときの契約書は違う文字だったよ。
そういえば、おばあちゃんが使い分けなさいって言ってたなー。」
「・・・・・・待ってくれ。混乱してきた。」
絵本に書いてあるなら普通に考えて暗号ではないだろう。
マーガレットの故郷の言葉?
この領地でルーン語以外なんて生まれてこの方聞いたことも見たこともない。
この領地は特殊な形をしていて人の出入りはほぼない。
言葉もルーン文字とルーン語以外は使われていないのだ。
この領地は、世界を覆う大陸の北西の一角にあり、人々の住む土地の周りはぐるりと険しい山脈に囲まれ、北には唯一海に面した入江がある。
例えれば、入江を口とした首の窄まった壺のような地形をしている。
入江は小さな港もあるが、沖に行けば海流が複雑で外海へ出られないし、また入って来られない。
そんな閉じた土地だが、歴史の上で大きな船が偶然に流れ着くことがあった。
アベルのご先祖様である曾祖母達だ。
何十隻もあった船の内、無事たどり着けたのは3隻だけだったそうだ。
数十人の助かった人々は、帰る手段もなくこの土地で骨を埋めた。稀に金髪碧眼の色合いが出るのはそのためだ。船にいた殆どの人は金髪碧眼だったそうだ。
南の山脈を超えた地が彼らの国だったが、ルーンの地を囲む険しい山脈はとても越えられず、大陸を南から船でぐるりと周り北の入江へたどり着くしか道はなかった。しかも、予想を超える厳しい船旅と潮の流れに船は次々と沈んでいき、結局3隻しか残らなかったそうだ。もう海路を行く気力もなくした人々は、当時の領主の計らいでルーン領民となった。
それが70年程前の話だった。その国の人々は言語は似ていて会話はすぐに慣れたそうだが、文字は全く違って苦労したらしい。アベルは曾祖母様が文字で苦労したと聞いたことがあった。
先代魔女は船で流れ着いた外国人だったのだろうか。
拾ったマーガレットに戯れに祖国の文字を教えたのだろうか?
髪や目が茶色の外国人も少しはいたらしいし可能性はある。アクセサリーは予想通り形見ということか?
「ねえ、マーガレット。君のおばあ様は外国人だった?」
「ガイコクジンって? ああ船で来た人達ね。違うよー。おばあちゃんは茶髪に茶目だった。
それに町長と生まれた時からの幼馴染って言ってたし。」
「そうか。じゃあなんでマーガレットはその文字が読めるんだろうね・・・・・・・。」
「だから絵本だよ。私の絵本!森で迷子になっていた私の周りに荷物が散らばっていたんだって。
そのうちの一つが絵本なんだ。
あの時は3歳で字が読めたからすごいねってほめてもらえたんだー。」
「3歳で絵本が読めるとは確かに賢いね。・・・・・・じゃなくて!」
15年前に船が入ってきたなんて記録は無い。アベルは学舎の歴史のテストはいつも高得点だった。
「じゃあ、君はどこから来たの?」
遅くなってすみません。表現が未熟でややこしい感じになってます。
上手く書きたいです。
今回も読んでいただき本当にありがとうございました。
次話を早くあげられるようがんばります。




