はじめてのおつかい 3
「・・・・・・と言うことで、光る石っていうのはキラキラするだけの石なんです。
私が勝手に持ち出して貸し出したのです。どうか返していただけないでしょうか。」
神妙な態度でマーガレットは説明をした。アベルが助けを出すことなく。
彼女は気合を入れたら賢く振る舞えるのか?
マーガレットは単に心を許した者には気を許し(過ぎ?)ているだけなのだが、アベルはその内の一人になっていることに気が付かなかった。
「確かに昨夜は光らなかった。
しかしお嬢さん、これを持ってきた騎士は確かに光っていたと証言したのだよ。」
「月の光が映ったのではないかと。」
予想していた質問に予定通りに答えた。
「一昨日は曇り空であったろう?暦の上でも月はやせ細っているしなぁ。
キラキラするぐらいで噂になるとは到底思えないんだよ。」
のらりくらりと受け答えしていた領主様は控えていた執事から平たい箱を受け取った。二人に中身が見えるように蓋を開け差し出した。
「これだろう、お嬢さん。」
アクセサリーセットが箱に収まっていた。石は丸く碧のビー玉のようで、一粒一粒に金色の模様が掘りこんである。
「・・・・・・領主様、これは?」
マーガレットは手を出さずにじっと石を見つめていた。
「君のではないのかい? ではこれは?」
執事がトレイからもう一つ同じ箱を渡す。先ほどとよく似たものだった。アベルには同じに見えたが。
「これです!」
マーガレットが迷わず声を上げた。
「・・・・・・ふぅむ。すまなかったね、お嬢さん。
こうでもしないと貴方が本当の持ち主かわからなかったものだからね。」
かまをかけられたようだ。領主様は苦笑いしつつ再び箱を執事に渡し、マーガレットへ返す手続きをするようにと指示を出した。
「なるほど。そういえば最初のキラ星石はなんですか?そっくりでしたけど。」
「昔からこの城の宝物庫にあったものだよ。偶々見覚えがあったので比べてみたらそっくりじゃないか。
ぜひもう一つの持ち主にも見てもらいたかったんだ。
君はもう一組同じ物があったと知っていたかい?」
「おばあ様は何も言わずに他のものとまとめて形見として遺したので・・・・・・・。」
「ああ、君のおばあ様は亡くなられたばかりだったね。
つらい時期に呼び出す形となってすまなかった。
また石の出どころが詳しくわかったら教えてくれ。今日はご苦労だった。」
領主様は強面執事と共にさっさと出て行ってしまった。
意外とあっさり終わった。
二人はすぐに退出し、簡単な手続きでキラ星石で受け取った。
城を出た途端一気に力が抜けて、二人同時に階段につまずいたのはご愛嬌だ。
「無事にキラ星石は戻ったけれども謎が増した! どういう事だ!!
・・・・・・アベルどうしよう? 気にせず見ないふりでいいかなー。」
「君は強気なのか弱気なのか・・・・・・・。」
城からの帰り道。もう日も落ちてしまった。今夜はアベルの家に泊めてもらうので一緒に家路を急いでいた。マーガレットが一人で宿に、と考えたら心配に(恐ろしく)なったためだ。
本人はどちらでも良いよー、と何も考えていないようだった。
母たちにからかわれるんだろうな。でもマーガレットを一人にするよりは・・・・・・・。
アベルは遠い目をした。
「ところでマーガレット。キラ星石って領主様も持っていたけどなんなの?
てっきり君が作ったんだと思っていたんだけど、形見なの?」
「あー、たぶん迷子の時に持っていた物だと思う。
おばあちゃんが迎えにきた人に見せなさいって品と一緒に箱に入っていたから。
死ぬ前に渡されたから形見だよね。」
「なぜ似た物が領主様のところに・・・・・・・。」
「私って領主様の隠し子?」
「・・・・・・案外俗物だな、マーガレット。
だったらなおさら領主様が同じ物をうかつに見せるかな? ついでに君まったく似てないし。」
「お姫様だったらなーって夢が!」
「で? 作ったってのは何? なんか言ってる事に違和感があるんだよねぇ。」
「あー・・・・・・・。」
キラ星石が返って来たし、アベルには言っても良いかと(いつもと同じく)思ったところ。
「あー! アベルが本当に女連れてる!!!」
目の前の古いお屋敷から男性の声があがった。アベルが嫌な顔をして兄さん!と怒っている。
アベルの家、キルラー男爵家に着いたようだ。
先に連絡を入れておいたのだが、やはり面倒なことになりそうだ。
広い玄関にはキラキラしい金髪碧眼王子様が二人と、同じ色合いの王女様、茶髪茶目のムキムキのおじさんの4人が出迎えてくれた。
「お帰りなさい、アベル。お嬢さんも長旅で疲れたでしょう?
挨拶は食事の時にでもしましょう。先にお部屋へ案内するわ。」
王女様自らがマーガレットを案内してくれるらしい。
「母上、マーガレットをよろしくお願いします。仕事で預かることになりましたお嬢さんです。」
「・・・・・・ふふ、わかっております。」
アベル母は絶対にわかっていない態度でマーガレットを連れて行った。
父上も兄上たちもニヤニヤしているが、あの小リスは友人だってどういったら理解してもらえるやら。考えるだけでげっそりしながら部屋へ急いだ。夕飯が待っている。
その日の夕食はマーガレットにとって人生で一番騒がしい食事だった。
自己紹介もそこそこに、王子様二人(アベル兄達)はムキムキおじさん(アベル父)と共に上品かつすごい早さで食事を平らげて行くし、そこに会話とおかずの取り合いを挟む。
女王様(アベル母)とアベルに挟まれてマーガレットのおかずは確保されていたが、落ち着いて食べることは難しかった。
そして女王様と会話では、何度もアベルはお買い得だからいらないだろうかと勧められる。
息子も三人いれば世間では売り買いするのだろうか?
アベルは我関せずと黙々と食べていた。
紹介された時に貧乏貴族の男爵家と言っていたとおり、確かに使用人は一人も見かけなかったし、食堂ではみんな大皿に自分で取り分けて食べていた。
しかし貴族らしくないだけで、家族みんな幸せそうだと胸が温かくなったマーガレットだった。
そうだ、キラ星石の説明をしてないやとアベルに会いに行ったらなぜか怒られた。寝室に来るなんてだとか、夜着のままでとかチクチクと注意された。
結局大きいカーディガンを羽織らされた。
何だよ、聞いてきたのそっちなのにーと理不尽に思った私は悪くないと思う。
だから説明も投げ遣りになってしまったのも仕方がないと思う。
実はこれ、光ってーって気持ちを込めると5日間光るんだ、これが作るって言ってたわけ、とキラ星石を取り出して渡した。
ほら!
って光っているキラ星石を見せたら。
「お前はもう少し事の重大さを考えろーーーーーーー!!!」
出会って一番怒られた。
「・・・・・・光りは消せないのか?」
首を横に振るマーガレット。しゅんとしているが、もう少し反省して欲しい。
アベルは油断していた自分にイライラした。
何かやらかすと思って目の届く自宅に泊めたのにこれだ。
本当に光ると思っていなかったのだ。それが光ったとは。
知った自分は報告しなければならない立場の騎士だ。
忠誠を誓っているのだ。
ただのアクセサリーなら製作者を間違えても大したことにはならないだろう。
しかしこれは領主様のご希望の光る石だ。
思わず舌打ちがでた。
「アベル、ごめんなさい・・・・・・・。」
小リスのくりくり目玉に涙が溜まっていた。
しまった。八つ当たりだ。
「謝らなくてはいけないのは俺だ、マーガレット。
君をまた城に連れて行かなくては行けなくなった。」
「!」
「俺が聞かなきゃ君も言わなくて済んだのに、すまない・・・・・・・。」
明日にも城に行かなくてはならないとマーガレットに説明し、なるべく早く帰られるように一緒に対策を練ろうと居間へと誘った。寝室で長時間過ごすわけにはいかない。
マナーのために少し開けていた扉を開けると、ゴツンとした手ごたえに、母と兄二人が額を押えてしゃがんでいた。(ここにいない父は常識人だ)
しまった。身内は気配が読みにくいのだ。聞かれてしまったか?
「せっかく女性のほうから勇気を出して誘ったのに、あなたは怒ってばっかり!」
「据え膳も食わないのは男としてどうかと思う。」
「だから残念なピュア青年から卒業できな・・・ぐぅ」
下の兄へみぞおちに一撃を食らわして、アベルはマーガレットと共に居間へ向かった。
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