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第二十一話

 二日後、ユーディーとエファは、ヴェステンシュタットにあるエグナー邸を訪れていた。使いの者に通され、二人は応接間に座っている。そこに下がり眉が印象的な一人の紳士と、華美なネックレスをつけた婦人がやってきて、挨拶をした。

「途中トラブルもあったようだが、娘を無事送り届けてくれたこと、感謝するよ」

 ヘルマン・エグナーの言葉を、ユーディーは無言で聞いていた。次にアマンダが笑顔を作り、エファに話しかける。

「エファ、今日からは一緒に暮らせるわね。嬉しいわ」

「いえ、私はあなた達とは一緒に暮らせません」

 意志の通ったエファの声が、応接間の中ではっきりと聞こえる。

 まったく予想外の返答に、アマンダの笑顔は硬直した。

「な、何を言っているのエファ。冗談はやめて頂戴」

 隠しきれない怒気を含んだアマンダの声色に、エファははっきりとした声で返す。

「冗談ではありません。今言った通り、私はあなた達と暮らすことは出来ません」

「どういう、ことかな」

 ヘルマンは穏やかな口調で尋ねる。その問いに、ユーディーが口を開く。

「ボクのおじいさん、グスタフ・グライリヒからの報告を『教団』に流し、『教団』がボクとエファを襲うように仕組んだのはあなたですね。ヘルマン・エグナーさん」

 静かな口調で、ユーディーは問い返す。

「な、何を言って……」

 ヘルマンの額に脂汗が浮き出る。

「そして、あなたはエファを『教団』に売り渡す代償として莫大なお金と、会社に対してのバックアップを得るはずだった」

「デタラメなことを言わないで!」

 夫が黙っているので、アマンダは代わりに声を荒げた。

「『教団』はボクが潰した。重要な情報は全部こちらにある。あなたが『教団』と非合法な契約を交わした記録も、公開しようと思えば可能なんだ」

「何が望みだ」

 ヘルマンは呻くような声を絞り出す。

「ちょっと、あなた、どういうことなの!」

 アマンダはさらに激昂した。ユーディーはそれを無視して、ヘルマンに告げる。

「エファの親権を渡してもらう。それと、今後一切エファに関わらないこと。この二つの条件を飲んでもらえれば、あなたを警察に突き出すことだけは、しないでおくよ」

「ふざけないで! たかがボディガードの分際で! そのアルビノは私の……」

 怒り狂うアマンダの怒声を、火薬の作り出す轟音がかき消した。彼女の顔の横をリボルバーの弾丸が通り過ぎ、背後の壁に応接間には似つかわしくない弾痕を作った。

「少し、黙れ」

 いつの間にか取り出していた銃を手に、ユーディーが鋭い声で釘をさすと、アマンダは声を失う。

「分かった、条件を飲もう」

 ヘルマンは枯れた声で、そう言った。

 ユーディーは銃をホルスターに収めながら立ち上がり、エファの手を取る。

「親権の書類は、グスタフ・グライリヒの事務所に送ってくれればいい」

「ああ、言う通りにしよう」

 ヘルマンがそう言ったのを聞いてから、ユーディーはエファの手を引いて応接間の出口へと向かう。エファは一度だけ振り返り、エグナー夫妻の姿を見た。

「さようなら」

 エファの消え入りそうな声を残して、少女二人は邸を後にした。

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