第二十話
大聖堂を抜け出した二人は、町医者でユーディーの左肩を正式に手当てし、服屋を回って血の付いたブラウスとミリタリーコートを買い換えた。そしてそのままツェントゥルムのホテル街で宿を取った。
部屋はもちろんダブルで、一つのベッドの中で身を寄せた。
翌日、消耗していた心身はいくらか回復していた。寝起きの二人はベッドに並んで腰掛ける。
「今日は、これからどうするんですか?」
エファはユーディーの左手に自分の右手をそっと重ねる。
「ちょっと人に会おうと思う。ボクの仕事仲間なんだけど」
ユーディーは出発の前に、この街でリーゼと会う算段をつけていた。
「お仕事の方、ですか」
「今回の件で、気になることを調べてもらっていてね。それと、ビブリオシュタットで落として行ってしまった旅の荷物も、回収して持ってきてくれるように頼んであるんだ。あの詩集も、きっと手元に戻ってくるよ」
「あの本、てっきりもう戻ってこないものだと諦めていました」
「大丈夫、何も諦めることはない。それにもし戻ってこなくても、そのときはボクがビブリオシュタット中の古書店を駆け回って、同じ本を探すよ」
「その時は、お願いしますね」
久しぶりの冗談で、少女たちは顔を見合わせ破顔した。
宿を出ると、空は曇天でわずかに雨も降っていた。二人は手をつないで、駅を目指す。
駅に併設されたカフェで少女たちはブランチを取りながら、リーゼを待った。食事がほとんど終わった頃合いに、快活なブロンドショートカットの女性が二人の席へ近づいてきた。手にはエファの持ち物であるワインレッドの旅行鞄がある。
「お待たせ。あら、可愛い子がいる」
リーゼはユーディーに軽い調子で声をかけてから、エファに視線を向けた。
「は、はじめまして。エファ・エグナーです」
エファはシルクハットをとって可愛らしい挨拶の仕草をする。
「はじめまして、リーゼよ。リーゼ・ランメルツ」
リーゼはエファの手をとって力強く握手した。それからトラベルバッグをエファへ手渡す。
「はい、あなたの鞄よ。エファちゃん」
「あ、ありがとうございます」
エファは恐縮しながら、鞄を受け取った。
「それで、何か分かったのかい?」
食後のコーヒーカップをソーサーに置きながら、ユーディーは情報を促す。
「まぁね。それよりユーディーこそ、ちゃんと報酬の情報、聞き出してきたんでしょうね?」
「あぁ、大丈夫」
「それじゃあ、情報交換といきましょうか」
リーゼも二人が座っている丸テーブルの席に着いた。三人はちょうど三角形を作るような位置取りで座る。
「あの、私も聞いてしまって大丈夫なんでしょうか?」
情報の機密を気にするエファに、リーゼは珍しく真剣な声色で答える。
「むしろ、これからする話はエファちゃん、あなたに聞いてほしいの。そして、選択してほしい。これからどうするのかを。あなた自身にしかできないことよ」
そしてリーゼは調べてきた事実を、二人に告げた。




