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第十三話

 これは、いよいよどうにかしないとまずいなと、ユーディーは心の中で思った。

 懸念していたように、エファと引き離されてしまった。このままエファがこの建物から連れ出されてしまうと、追跡が難しい。時間はあまり残されていない。

 見張りに残った男は三人で、全員が自動拳銃を持っていた。

 彼らはチラチラと、ユーディーに視線を送っている。見張りを建前にして、実際のところ彼らはユーディーの大きく張り出した胸や、白く丈の短いプリーツスカートから伸びる脚を見ている。

 こんなときまで、いや、こんなときだからなのか、男というのはどうしようもなくわかりやすい生物だとユーディーは思った。ただ、彼らが自分のことを戦闘能力を持ったエージェントとしてではなく、女として見ているところがあるならば、それは付け入る隙になる。ユーディーはそう考えていた。

 また、彼らが自分を凌辱しようとしないことには少し安堵していた。宗教的な信念が理由なのかはわからないが、運が良かったと思った。胸を見られるくらいならまだしも、むき出しの欲望を晒されるのはさすがに堪え難い。

 状況を頭の中で整理してから、ユーディーはわざと大きく脚を動かした。これは彼女の作戦だった。狙い通り、男達は下着が見えそうになるユーディーのスカートに一瞬注意を奪われた。

 その隙を見逃さず、ユーディーは床を蹴って飛び上がった。

 勢いそのままに、一人目の男の後頭部に飛び回し蹴りを喰らわせる。

「うっ……」

 喰らった男は短い呻き声とともに前のめりに倒れ、残りの二人は拳銃を構える。ユーディーは既に姿勢を低くして二人目の懐に入り込んでいた。

「クソッ!」

 二人目の男は、無理な至近距離で銃を撃とうとしたが、ユーディーの身のこなしが早い。全身の体重と移動の勢いを存分にのせた当身を鳩尾に叩き込んだ。男は衝撃で息が止まり、気を失った。

 三人目はさすがに銃の狙いを定める余裕があった。ユーディーに銃口を向ける。しかし、ユーディーの身体と当身を喰らった仲間の身体が重なっていた為に、弾を撃つのを躊躇った。

 ユーディーはその一瞬の隙をついて、当身で気絶させた男を三人目の男に向かって突き飛ばした。男は思わず仲間を抱きとめる。

「しまった!」

 男がそう思ったときにはすでに、ユーディーは男の背後に回り込んでいた。金属の手枷がついた両手で、ユーディーは思いっきり男の頭を殴った。

 それで、部屋に居た屈強な見張りは全員意識を失った。

「戦争を経験してるような相手だったら、こうは上手くいかないだろうな……」

 気絶している男のポケットから手枷と部屋の鍵を抜き取りながら、ユーディーは厳し過ぎる祖父の教えを思い出していた。

「まあ、今日のところはキミ達の迂闊さに感謝しておくよ」

 手枷を外して、足下にのびている男達の横に放り投げる。石の床と金属がぶつかり、耳障りな音が部屋に響いた。

 男達の持っていた拳銃を一丁失敬してから、鍵を使ってユーディーは部屋の外へ出る。気絶させた男達を閉じ込めておくために、部屋の外から再び鍵を閉めた。

「さて、エファを探さないと」

 廊下の奥に、二つの部屋があるのが見える。まだエファが建物の中にいるなら、どちらかの部屋か、入ってくるときに通った講堂だろう。

 ユーディーは奥の部屋から調べることにした。

 足音を殺して扉の前に立ち、部屋の中の音に聞き耳を立てる。

 ひとつの部屋は静まり返っていたが、もうひとつの部屋からは複数人の声が聴こえた。

 ユーディーはまず、人気のない部屋の扉を静かに開けた。

 木製の棚に、簡素な食器や茶器が置かれている。テーブルの上には、燭台と果物ナイフがある。燭台とナイフを手許に引き寄せてから、ユーディーは棚の食器を適当に手に取り、床に叩きつけた。

 そして素早く部屋の入口の横に身を隠した。

 物音を聞きつけて、隣の部屋から何人かの男がやって来たらしく、入口の扉が開かれる。

 ユーディーは最初に入ってきた男の首筋に燭台の尖った先端を突き立てた。

 男は首から息が漏れたような、声ともつかない妙な音を立てて倒れた。

 後ろに続いていた男の一人が不審に思って、倒れた男を乗り越えるようにして部屋に入ってくる。彼らは、自分たちが優位な状況や、身構えて準備ができている状況ならばプロらしい動きをする。しかし不意をつかれたり、予想外の状況では迂闊な行動が散見される。その点でやはり祖父の教えに比べればやりやすい相手だとユーディーは確信した。

 ユーディーは部屋に入ってきた男の腕を掴み、引き寄せた。足下の仲間を跨ごうとしていたためにバランスが不安定だった男は、あっさりとユーディーの方へ倒れる。ユーディーはその男の首に果物ナイフを刺した。

 あっという間に二人を倒したユーディーは、男の首からナイフを抜き、開いた扉の正面に躍り出た。視界には、状況を理解できず呆然と立っている男がひとり。

 ユーディーは視界の男に血まみれの果物ナイフを投げつけた。血と脂で切れ味は期待できなくなっているが、男の不意をつくことはできた。男は飛んできた物体をおもわず手で防ごうとした為に、銃を抜く反応が著しく遅れた。ユーディーは先程失敬した自動拳銃を男に向けて撃った。

 乾いた音と共に放たれた弾丸は男の胸に命中した。

 これで六人。わずか数分の間の出来事だった。

 銃を使ってしまったので、おそらく残りの連中にも感付かれたはずだ。エファ救出のミッションをユーディーはさらに急ぐ。

 銃を構えながらもうひとつの部屋に入ると、そこに人はいなかった。いま倒した三人だけがこの部屋から聞こえていた声の主だったらしい。

 一応警戒を解かず、銃を構えたままユーディーは部屋の中を見回した。部屋の中には、取り上げられた回転式拳銃と弾丸が置いてあった。

「やっぱり、オートマチックは手に馴染まないな」

 ユーディーはそう言って、手に持っている銃を置き、自分のリボルバーに持ち替えた。

 シリンダーやハンマーの状態を確認して、弾を込めなおす。

「ここにもいないってことは、エファは講堂か」

 閉じ込められてから、エンジンの音のたぐいは聞こえていない。車でエファが連れ去られてしまったということはないはずだ。しかし急がなければ、状況がどう変化するかわからない。

 ユーディーは、ミリタリーコートをなびかせて講堂へ走った。

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