尋問
「よろしい。君はつまりイケメン主義に逆らうか否か、この点に関しては何もしていないのですね?」
白髪の男は美麗な顔をこちらに向け、紳士的なゆったりとした口調でこう尋ねてきた。こざっぱりとした教室を借り切って行われているこの会談は「尋問」という言葉の響きから少し遠く感じられた。
「はい。僕はただ先生の授業をちゃんと聞いてなかっただけです。」
この返答は半分本当で半分嘘だ。確かに破家田の怒りを買った原因はこれで間違いない。しかし、綿太の頭の中ではそんなささいすぎる問題より、ずっと大きな疑問がぐるぐる回っていた。ただ、授業を聞き流して授業から置いていかれたのが問題?いや俺は世界に置いていかれたんだ。
綿太はこの紳士的な男にぶちまけたかった。何がどうなっているのか?自分は正常なのか?このふざけた現象の正体は何なのか?
しかし、ここで覆面男の言葉が綿太の思考を遮る。
「なるべく自分に起きた現象について話さない方がいい。この世界で正常だと思われる人間を演出した方がいい。」
トイレで白髪の男とその仲間たち―帝国警察―と遭遇した際に言われた言葉だ。その後、覆面男は窓を突き破って逃走し、綿太は捕縛された。今この部屋に軟禁され取り調べというものを受けているのはそういうわけである。
「分かりました。もう1つ聞きましょう。こっちも本当に簡単な質問です。あのマスクを被った男は何者なのですか?」
「分かりません。僕が知りたいです。彼は一体何者なんですか?」
「分からないのはお互い様のようですね。あなたと彼は関係ないと、そういうことでよろしいですね?」
「はい。」
「その言葉に嘘偽りはありませんね?では、授業態度を改善し勉学に励んでください。もう帰って結構ですよ。」
綿太は拍子抜けした。帝国警察と言う物々しい名前から想像したものより遥かにあっさりしている。この世界ではこういうものなのだろうか。まあいいか。一つずつこの世界のことを調べていこう。元に戻る方法も見つかるかもしれないし。
そういうことを考えながら綿太は部屋をあとにした。
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帝国警察学校部治安課課長の鳥師鞠です。
例の生徒の尋問を終えました。調書は同封してあります。彼の証言は全体として疑わしい点が多々ありますが、近年のフツメン人口問題を考慮して、強硬な尋問は避けました。しかし、今後の彼の動向には注視が必要です。
それから破家田教諭の処遇ですが、彼は以前から生徒たちに実習と称して私刑を行っていたようです。これまでイケメン階級に属していたので通常であれば違法性なしと判断されますが、今回の負傷で彼がブサメン階級まで転落したことから、相応の処罰を与えるのが適当だと思われます。該当階級の通常法規に則って二十年の極地労働刑が妥当だと思われます。
覆面の男の正体は依然判明しておりません。現在治安課内で担当班を編成し調査を開始しております…