岐路
布都綿太は走っていた。平素、体を鍛えているわけでもない彼がこれだけ走ることができるのは裏を返せば事態がそれだけ切迫しているということである。最初二、三人だった追手は次々と増え、今では十数人の一団が綿太たちを追跡していた。
俺、何か悪いことしたっけ?
綿太はランナーズハイ気味の苦しいような気持ちいいようなよくわからない状態の頭で懸命に考えた。
状況を整理しよう。俺が破家田に殴られてたら、変な覆面男が入ってきて破家田が倒れてたんだっけ?いや、破家田が倒れたあと覆面男が入ってきたような気がするぞ?待てよ、覆面男は元々教室内にいたけど誰も気づかなくて破家田が倒れたあと覆面男にみんな気づいたのか?まあいいや、それで俺たちは破家田の仇ってことで追いかけられて、えーっとだからつまり…
綿太は横で並走している男をチラリと見た。特に考える必要はなかった。悪いのこいつじゃん!少なくとも俺は完全に被害者じゃん!何で一緒に追いかけられてんの俺!?
覆面男は猛烈な勢いで息切れを起こしていた。正直、非運動部の綿太からしてもそんなにハイペースでも何でもないスピードだったが、覆面男はフルマラソンのコースを往復させられたあと、シャトルランを休みなしで三回計測して今四回目が始まるというような顔つきで走り続けていた。置いていこうかな。
階段が見えてきた。どうする?登るか?降りるか?すると覆面男が唐突に切り出した。
「二手に別れよう!連中の狙いは俺だ!俺は下の階から校舎外に出てやつらをまく!おまえは上の階でほとぼりが覚めるまで隠れていろ!」
何だちゃんと考えてるじゃん!綿太は少しホッとした。この人のことは心配だが、今は身の安全が最優先だ。
「アトリエで待つ!」
そう言い残して覆面男は階段下へと消えていった。