異常
ドゴォーン!
男が男を殴りつけていた。異様な光景だった。授業という場において公然と容認される暴力。それは当然のごとく受け入れられたばかりか、生徒たちの退屈を癒やすエンターテイメントでさえあった。男子生徒はニヤニヤしながら見ていた。女子生徒は目を隠した手のひらの隙間から覗いていた。
「まだまだ歯が抜けないみたいだなあ~。丈夫な歯だ。フツメン身分にしてはやるじゃないか。」
一方的に殴っている男は破家田だった。端正な顔をニヤリと歪め、黒く大きな拳を力一杯振り上げて繰り出す。
異常だ。やっぱり普通なのは自分でこいつらは異常だ。殴られている男は綿太だった。
○○
「え、何だって?」
「だから、僕が、殴られます。」
破家田はひどく驚いた顔をした。醜くて弱い他人を庇って自分が犠牲になろうという人間の存在など想像したこともなかった。何が目的か?金でも積まれたか?
いやまあいい。破家田は再び笑いを取り戻した。所詮はフツメン身分か。この機会にこの愚かな生徒に一つ社会の理を分からせてやるのも悪くはない。それにあっちのウジ虫の処理はあとで自分でやればいい。
「いや、醜い学友を身を挺して庇うその勇気!美しいね!先生感動しちゃったぞ。」
「いえ、もともと僕が悪いので…」
「よく分かってるなあ布都!じゃあ遠慮なくやるぞ!」
○○
ドガッ!
「う…」
「まだまだ折れないね~。なるべく手加減してたけどよく考えたら早く折ってあげた方が楽だよね。じゃあそろそろ決めてあげようかな~。」
破家田はボクシングのファイティングポーズを取った。元々の破家田はボクシングはおろか何の格闘技の経験もない。だが、イケメン補正によって今の破家田はサマになったフォームでパンチを繰り出せるのだ。
「右っ!ストゥーレーイトォッ!」
バキッ!
折れた歯が宙を舞った。悲鳴が轟いた。
一瞬の出来事だった。破家田は歯が折れて流血した口をだらりと無様にさらけ出して黒板にめり込んでいた。代わりに被ったマスクでは隠しきれないほど異常な形の頭をした男が教壇に登ってきた。
「悪いな…先っちょだけのつもりだったんだが。」