イケメン補正、ブサメン補正
面ノ介は広々とした校庭をポツンと一人で歩いていた。まず近くにいる学校内に残っているエミグレの救助を先決にせよ、という美絵からの指示だった。暑い。マスクが蒸れて頭部に熱がこもる。苦しい。初夏のさわやかなど、まるで感じられない。
(クソッ、イケメン補正か…)
面ノ介は美絵の言ったことを思い出した。
◇◇
「RV793によってあなたはあらゆる意味でブサメン化してしまったわ。それはあなたの能力も例外じゃない。」
「フヒッ!と申されますと?」
「以前のあなたは超絶イケメンだったわけ。だからあなたのやることなすことに″イケメン補正″が働いていたと考えられるわ。」
「イケメン補正!?」ブフォッ
「漫画やアニメなんかで強キャラはイケメン!みたいな法則が存在するでしょう?実はこれ現実世界にも同じようなことを当てはめることができるの。同じ行動を起こしても、イケメンであることによって成功率が高くなる。イケメンであることによってすごい人物に見えてくる。このようにイケメンにはポジティブな評価が集まり、実際にそれが現実に影響を与え、ますますイケメンであることによるメリットが強くなる。このイケメンの特権をイケメン補正という。」
「それはすごいでござる。」ブッファッ
「でもあなたは今はただの、いや人外級のブサメンよ。イケメン補正は失われてしまったわ。あなたがイケメンであることによって享受した利益、能力はほとんど無に帰した。」
なるほど。これでいくつかの事象が説明できるぞ。確か少し前の俺は闇の虚王と戦って倒していたり、カント哲学に明るかったり、十打席連続満塁ホームランを打っていたり、とにかく超高校生級の体力知力を誇っていたはずだ。にもかかわらずゴリバナにあっさり負けたり、今すごく頭悪そうだったりするのは、あれが全部イケメン補正だったからなのか。
「まあでも、今の状態は、結局あなたの本当の実力なんてこんなもの、ってことね。イケメン補正がなくなったとき、その人がイケメンであることにどれだけ頼りきっていたのかが分かるわ。本当にかっこいい人は不細工でもかっこいいのよ。」
グサリ。心に突き刺さったでござる。身も心もブサメン化して凍えそうでござる。ブヒブヒブヒブヒブヒブヒ。
「それとブサメン補正ってのもあるけど…これはおまけね。イケメン補正ほど絶対的ではないし、比べたら微少な効果しか及ぼさないわ。邪だったり常識はずれなことを考えやすくなる、体が頑丈になる。別名ギャグキャラ補正とも言う。」
「あれ、怪我が治ってるでこざる!?」
「そうよ。体力は落ちるけれども復活しやすくなる。そこはブサメン化のいいところね。」
ブヒョヒョ、何だか愉快な気分になってきたでござる。
およ、そういえば中学二年生で感情と性欲を失った設定も無くなっているでござるか?あんなの超絶イケメンだから許されたようなもんでそうじゃなかったらドン引きもんでござるからな。あれ、美絵殿、そんなにしゃがんだらヘソ出しルックで激アツな上にシャツの胸元ががら空きですぞ。よく見たら結構デカいでござるな。美絵殿の美絵がみえ…
バキッ!
かたじけない、いや、ごめんなさい。
◇◇
面ノ介は思えば今まで苦労と言う苦労をしたことがなかった。確かに友情、努力、勝利みたいな爽やかな汗を流して健全に苦労を重ねてきたことはあったが、きつい、汚い、危険のような泥臭い本当の苦労は始めてだ。いや、面ノ介がサボってきたわけではない。イケメン補正というものがなくなり、あらゆる能力が低減して今まで苦でもなかったものにまで苦に感じるようになっているのである。
ふう、ふう。イケメンに戻りたい。
息が切れてきたが、その分かなり進んだだろう。あと一息で校舎だ。面ノ介の中には確かな目的と意思が宿っており、その目はまっすぐ自らの進むべき道を見据えていた。
池面ノ介は果たしてRV793ウイルスのワクチンを完成させ、この淀んだブサメン空気に風穴を開けることができるのだろうか!?
校舎まであと500メートル(アトリエからの進度100メートル)