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波乱の幕開け

 街道を進むこと一時間弱、それまで順調に進んでいた馬車が急に止まったので振り向くと、私たちの馬車の前方、少し離れた場所に貴族の馬車が横転しているのが見えた。

 どうやら片方の車輪が壊れたことによって横転してしまったようで、馬車の持ち主らしき小太りの男性が御者らしき男性に怒鳴り散らしている。

 

 「どうします?このままじゃあ進めませんよ?」

 私に近づいて耳元でフィリアが囁く。

 馬車は街道の丁度ど真ん中で横転しており、左右は木々が生い茂っていて馬車で通り抜けることは難しく、馬車が退くのを待つにしてもどれほどの時間が掛かるのか予想もつかない。

 「私が浮遊魔法で脇の方に退かすか、錬金術で破損した部分を修繕するか、どっちがいいと思う?」

 本当は目立たず退いてくれるのを待った方が良いんだろうけど、待つことが苦手な私は自分が出来る範囲で速効問題が解決する方法をフィリアに提案する。

 「ですが、それでは目立ってしまって素性を調べられる可能性があります」

 案の定却下され、戦力外とみなされたのかフィリアはダミアンの元に行ってしまう。

 一応私が主人なんだぞ!と内心思いつつも、確かにいい案は思い浮かびそうもないので私は事の成り行きを見守ることにした。

 

 

 「で、結局は強硬手段に出るんじゃない!」

 二人が出した結論を聞き終えた私の第一声はそれだった。

 

 ダミアンの説明によると、まずフィリアが貴族の男性と御者の注意を惹き、その隙に私が壊れた車輪を錬金術で修復する。で、馬車が直ったらダミアンが貴族の男性と御者の二人に催眠術を掛けて私たちに関しての記憶を消し去るという話だった。

 

 「ダミアン、それならフィリアが注目を惹かなくてもあなたが最初に催眠術を掛ければ良い話じゃない?」

 催眠術を使うのなら貴族の男性と御者を眠らせるなりすれば、いちいちフィリアが注目を惹かなくても良いはずだと思いそう聞くと、

 「真琴お姉さんは本当に魔法に関しての知識は全然ないんだね・・・催眠術は相手に触れていないと発動できないんだよ?知らない男が近づいて来て警戒しない人はいない。でも、綺麗な女性なら男は鼻の下を伸ばして油断するでしょ?」

 ため息とともダミアンはそう返した。

 「・・・まぁ、いいわ」

 フィリアは確かに美人だけど、全員が全員女の人を見たらデレデレするような馬鹿ばかりではないと思いたい。でも、反論する理由もないので受け入れることにした。

 「じゃあ、異論がなければそろそろ作戦を決行したいんだけど」

 確認するように私たちの顔を交互に見てダミアンは言う。

 「異論は無いわ」

 「えぇ、何時でも大丈夫です」

 私、フィリアの順にそう言うと、ダミアンは深くうなずいてから景気よく宣言する。

 「作戦決行ーーー!!」

 

 依然御者の男性に怒鳴り散らしている貴族の男性へとフィリアは近づき、話し掛ける。

 少し距離があるのでここからじゃあ何を話しているのか聞こえないが、貴族の男性はフィリアの頭の上からつま先までを舐め回すような視線で見ていて、先程ダミアンが言った通り鼻の下を伸ばしていやらしい顔をしていた。

 まぁ、自分じゃあ何もできないのに御者に怒鳴り散らしているような奴なので、仕方がないのかもしれないけどフィリアはよくあの視線に耐えられるものだ。

 「まこちゃん、今のうちに!」

 ダミアンに促されて私は馬車の裏側、車輪の壊れている方へと近づいて行く。

 手にはダミアンに持っていくようにと言われて小ぶりの木材を持っているが、一体全体なにに使うというのか疑問に思っていた。

 どうにか気付かれずに目的地にたどり着いた私は、壊れて地面に散乱した木片を浮遊魔法で集めて錬金術でくっつけ始める。

 二つの魔法を同時に使うのはこれが初めてだったので相当な集中力を要したが、どうにか近くに散乱していた木片を全て車輪へとくっつけることに成功する。

 しかし、全部集めきれなかったのか所々に欠損部分が見られた。

 こういうことだったのねと思いつつ、ダミアンに持たせられた木材を使って欠損部分を補い浮遊魔法で道の端に移動させて私の仕事は完了だ。

 ダミアンたちの方はどうなのかと馬車の陰からこっそり覗くと、丁度催眠術で貴族の男性を眠らせるところだった。

 御者の男性は地面に倒れており、すでに催眠術を受けた後なのだろうと予想が付いた。

 

 「いやぁ、何事もなく無事に終わったね」

 上機嫌に手綱を引くダミアンに何か不機嫌なソフィア。

 理由を聞いても二人とも教えてくれなかったので私は無理に聞き出すことはしなかった。

 こういう時、千里眼の魔法が使えると便利なのになと私は思いつつ、アンデルドの町へと馬車は進んでいく。

 

 

 結局、アンデルドの町へとたどり着いたのは次の日の朝になってしまった。

 「ねぇ、フィリア」

 遠目に見えるアンデルドの街並みを見ながら、私は興奮気味に隣に座っているフィリアに声を掛ける。

 「どうかしましたか?」

 フィリアも町の方に視線を向けているが、初めから知っていたのか特に気にした様子もなくいつもの調子で返された。

 「町って言うからそれなりの規模のを想像してたけど、目の前に見えるのはどう考えても町と言うよりは都市よね」

 堅牢そうな石壁に囲まれたアンデルドの町は、どう見ても町というには不釣り合いなものだった。

 石壁から覗く巨大な王城らしき立派な建物を始め、全てではないが見える限りではどれもこれも貴金属をふんだんに使われた建物ばかりだ。

 「そりゃそうだよ。だって、アンデルドの町は人間の国の王城だからね」

 手綱を器用に操りながら、ダミアンが答えるとフィリアもそれに同意する。

 「それにですね。あのアンデルドの町全体はフィース様の御力によって造られたものなのです。ですから、どれも立派な造りをしているのですよ」

 顔は微笑んでいるのだが、全身から禍々しいオーラを発してフィリアは付け加えた。

 この二人と会ってから一日は経過したけど、二人に対しての印象が変わってしまった。

 ダミアンは意地っ張りで素直じゃないけど優しい一面も持っていて、フィリアは優しいが負の部分も同時に持ち合わせている。

 だからといって二人に対しての態度を変えるつもりはないけど、私は少し複雑な気持ちになっていた。

 

 両開きの大きな正門前で門兵に止められ、私は極度の緊張に陥っていた。

 十歳前後の少女の姿になっているのでボロが出ないように恥ずかしがる子供を装ってフィリアの後ろに隠れていると、門兵が私に話し掛けて来る。

 「お嬢ちゃん、名前と歳は言えるかな?」

 子供扱いをされて少しイラついたが、私は事前にダミアンたちと話し合って決めた通りに返事をする。

 「私、カティ・・九歳・・・」

 フィリアのロングスカートをギュッと握りしめて言う私に、門兵は怖がらせてごめんねと謝って頭を撫でて来る。

 どうやら騙せているみたいなので、私は心の中でガッツポーズをした。

 後はダミアンたちだが、ダミアンもフィリアも何処にでもいるようなオーソドックスな夫婦を演じていて、その演技力は一流の劇団でも通用するような完璧そのもの。

 私はそんな二人を尊敬の眼差しで見上げ、二人の演技に騙された門兵は通行許可証を発行するために金貨一枚を要求してきたので私が渡すと、少し驚きつつも「パパとママにはお金の管理を任せられないから・・・」とやはりフィリアの陰に隠れながら言うと苦笑いを浮かべつつも許可証を発行してくれた。 

 正門を潜るとそこには中世ヨーロッパの街並みが広がり、街道から見えた王城や豪華な建物は丘の上に建っていて目の前の町とは曲がりくねった道で繋がっているのが見える。

 さすがにフィースが造ったと言うこともあり、目の前に立ち並んでいる建物は丘の上に建つ建物にも引けを取らないほどに立派なものばかりだ。

 正門の目の前に伸びる中央通りは多くの人々が行き交っていて、到底馬車で通り抜けることは出来ないので私たちは馬屋に馬を預けることにする。

 「荷車に乗ってる商品はどうするの?」

 馬屋に向かう道中、少し気になったので聞いてみるとダミアンが意地の悪い笑みを浮かべてこう言った。

 「初めにルアンナに会いに行ってから、露店でも開いて格安の値段で売っぱらうさ」

 

 斯くして馬屋に馬車を預けた私たちは、どうにかこうにか賢者ルアンナが経営するお店の前にたどり着くことが出来た。

 道中色々あって私の有り金が半分まで減ったが、ルアンナを通じてフィースと話すことが出来ればさほど問題でもない。

 私は人語で『賢者ルアンナの魔法の館』と看板が掲げられている店舗の扉に手を掛けて、勢いよく開ける。

 店内には様々な魔法道具らしきものが棚に並べられていて、店の奥の方に十代後半に見える肩のあたりで切り揃えられた黒髪の女性と、鎧を身に纏う金髪の青年、青年によく似た十代前半位の魔法使いの少年がいた。

 「いらっしゃい。ゆっくり見て行ってね」

 私たちに気づいた黒髪の女性はこちらに視線を向けて、可愛らしい笑みを見せてくれる。

 少し若いようにも思えるが、私の後ろにいるダミアンが耳元で「彼女がルアンナだよ」と教えてくれたので間違いはないと思う。

 「お客さん困るわ」

 ルアンナは何かに気づいたようで、私たちの元へと近づいてくる。

 「店内で魔法を使う事は禁止よ」

 目の前まで来たルアンナはそう言うと、指をぱちんと鳴らして私たちの変身魔法を解除してしまう。

 変身魔法を解かれた私たちは元の姿へと戻ってしまい、フィリアの姿を見た店の奥にいた青年と少年から殺気が発せられる。

 「あら、ダミアンじゃない?と言うことは、この二人もフィースの使いなのかしら?」

 ダミアンに気づいたルアンナは緊張感なく声を掛けて来る。

 「使いってわけじゃないけど、困ってるから助けてくれない?」

 ダミアンもいつもの調子で返事をしているが、店の奥から青年と少年が殺気を放ちながら近づいて来ていた。

 その二人の標的ともいえるフィリアは、顔に微笑みを浮かべながら負のオーラが視認できるほどに全身から染み出ていた。

 「賢者ルアンナ、こちらの方々はお知合いですか?」

 ルアンナの真後ろまで来た青年が、抑揚のない淡々とした口調で告げる。

 ルアンナは青年たちが発する殺気に気づいていないのか、気づいているけど無視しているのかは分からないけど、こんな一触即発の状況にも関わらず先程までと変わらずに返事をした。

 「知り合いって訳じゃないけど、この子たち創造主様の関係者だと思うのよ」

 顎に手を当てて考え込むルアンナ、そのルアンナの返答を聞いた金髪の青年と少年はそれまでフィリアに向けていた殺気を消した。

 「と、言うことはこの人たちは敵ではないのですね?」

 確認のために質問する金髪の青年。

 「えぇ、そうよ」

 何やら考え事をしつつ、ルアンナは青年の質問に返事をした。

 それを聞いた青年と少年は途端にフィリアへの興味を失ったようで、視線をルアンナへと移す。

 「なぁ、ルアンナ。こいつら誰?」

 私も思っていた事をダミアンが口にすると、いまだに考え事をしていたルアンナが顎から手を離して答える。

 「こっちのでかい方が聖騎士団聖騎士長アレスで、小さい方は竜騎士のシリルよ」

 その答えを聞いた私はここへ飛ばされた時の事を思い出して卒倒しかけた。

 今目の前にいるこの金髪の青年が人類最強の戦士アレス、昨日急に私たちを襲ってきた人物だったからだ。

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