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人類最後の国 序章 下

 アレンたちがアンデルドの町へと帰還した頃と同時刻、真琴たちは小さな泉の畔で小休止を取っていた。

  

 「真琴様、先程私たちを襲撃した者は仲間らしき竜使いと共に反対方向へ移動しています。この近くに生命反応は無いので危険は無いと私は判断します」

 探知魔法は苦手なのでフィリアに追手がいないかを探知してもらい、危険が無いと言うことなので偶然見つけた泉の傍で休息をとることにした。

 

 魔力にはまだまだ余力があったけど、集中力が切れてしまい先程二人を地面へ落としてしまった。

 フィリアは特に気にした素振りもなく許してくれたけれど、ダミアンの方はものすごい剣幕で文句を言ってきた。でも、私が素直に謝るとそっぽを向いたものの許してくれた。

 

 私は手ごろな岩を見つけて腰かけ、フィリアとダミアンを見遣る。

 ダミアンはパンツだけ残して服を脱ぎ泉で泳いでおり、フィリアは少し離れた場所の木になる果物を翼を羽ばたかせて取っていた。

 二人ともっとコミュニケーションをとってどんな魔法が得意のか聞いておいた方が良いかなと内心思いつつ、私はさっき警告してきたフィースの声が何処から聞こえて来たのか気になっていた。

 一番怪しいのは転送魔法を使われる前にフィースに渡されたこのウエストポーチ。きちんと腰に巻き付けているのだが、見かけによらずかなり重いのだ。

 

 私はポーチのチャックをゆっくりと開けて中を覗き込む。特に怪しい物は入ってなく、手のひら大の半透明な水晶、茶色い革張りの手帳、麻袋に入った数枚の金貨に薄紅色の指輪が一つ入っていた。

 手帳は全ページ白紙で何も書かれておらず、水晶は占いで使うような物のミニチュア版と言ったところ。金貨はこの世界の通貨なのだろう裏と表に神聖文字で世界銀行と刻印を施されていた。そして薄紅色の指輪は私の中指にぴったりで、まるで私のために作られた物の様だ。 

 一通りポーチの中身を確認したが通信機の類は一切なかった。

 もしかしたら思念で警告をしてきたのかと思い、私は心の中でフィースを呼ぶ。

 

 フィース、聞こえてる?聞こえていたら返事をして!

 

 しかし、返事は帰ってこない。

 これからどうすれば良いのか分から無いのにフィースとは連絡は取れなくて、さっき襲撃してきたのがアンデルドの騎士団長ってことは私たちはすでに敵視されちゃっている可能性が高い。

 もし、うかつに町へと近づいてしまったら・・・と私はそこまで考えて止める。

 もしもの時を考えていてもらちが明かない。

 私はこれからの事を相談するためにフィリアとダミアンを呼ぶことにした。


 「真琴様、話とは何でしょう?」

 果物を腕いっぱいに持ったフィリアは私の呼びかけにすぐに応じ、私の目の前に飛んできて微笑を浮かべて言った。

 「今後について二人の意見が聞きたいのよ」

 私はフィリアの問いに答えつつ、びしょ濡れのダミアンを木の皮から錬金したタオルで拭いてあげる。

 ダミアンは自分でやるというけれど、私は母性本能に目覚めたらしくやってあげたいという気持ちの方が勝ってしまう。なので、嫌がるダミアンの髪の毛や未発達な体を無理やりに拭いて行く。

 「今後と言うのは、これからの私たちの目的と言うことですか?」

 どうにか全身を拭き終えるとダミアンは着替えて来ると言って木陰に隠れてしまい、それを見計らってフィリアが私に声を掛けてくる。

 「そうよ。だって、フィースとは連絡は取れないし、さっき襲われちゃったし、考えなしに動けば確実に私は死ぬわ」

 フィース達に渡された魔道書には天使族についての記述もあり、天使族は不老不死の属性を持つのだという。そのため、さっきの様に襲撃されてもフィリアだけは生き残り、私とダミアンは命を落とす危険性が高い。

 ダミアンも見た目は人間だけど、もしかしたら異種族でフィリアと同じように不老不死の属性を持っている可能性もある。その場合、犬死するのは私一人だけだ。

 「大丈夫です。そんな事にならないように私たちはいるのですから」

 私を安心させるためにそう言ってくれるのはありがたいのだが、今日会ったばかりの二人を私は信じきれていない。

 他人は裏切るものだと決めつけている私は、口では「ありがとう。頼りにしてるわよ」と言いつつも内心では危なくなったら私を置いて逃げてしまうんでしょうと思っている。

 魔道書に書かれていた天使族の不老不死は、あらかじめ魂の複製をつくって命のストックをするものらしく、もし命のストックが底をつけば死んでしまうのだ。

 「まぁ、私が死ぬっていう話は冗談だとして、これからどうすれば良いのか目的が無いままじゃあ動きようもないってことを私は言いたかったの」

 私の言葉にフィリアは「それもそうですね」と同意し、ダミアンが着替えから帰ってきてから話し合う事にして、私とフィリアはフィリアの取ってきた果物を食べながら待つことにした。

 フィリアが取って来てくれた果物は洋梨の様な形をした薄紅色の果実で、味は少し酸味のある桃のような感じがした。

 

 ダミアンが帰って来たのは私が三個目の果物を食べ終えた頃だった。

 「で?話って何?」

 相変わらず私の事が嫌いらしく、顔をしかめてダミアンは言う。

 可愛い顔をしてるんだから少しは愛想よくした方が良いんじゃないと思いつつ、私はさっきフィリアと話した内容をダミアンに伝える。

 

 「そう、じゃあ僕はアンデルドの町に潜入した方が良いと思うよ?」

 私の話を聞き終えたダミアンは、何か考えるような素振りをしてからそう言った。

 「何か考えがあるのですか?」

 フィリアの問いにダミアンは頷き、一度私を見てから説明を始める。

 

 「まず、相手が僕たちに気づいたのはアンデルドの王城を中心に展開されている結界のせいだよ。この結界はフィースが張ったもので、結界内に異種族を通さないためと、万が一入ってきた場合に侵入者の位置情報を察知する機能がある。この侵入者を察知する機能は、対象の魔力を探知してるから変身魔法でどうにか誤魔化すことが出来ると思う」

 どうやら私たちが襲われたのは全面的にフィースのせいらしい。創造主が張った結界に侵入できるような存在なんて脅威以外の何物でもないからね。

 「それで?変身魔法でアンデルドの町に潜入した後はどうするの?」

 私は続きを話すようにダミアンに促す。

 私の言葉を聞いて一瞬睨んできたが、特に何も言わずに続きを話出す。

 「アンデルドの町に潜入したらまず、賢者ルアンナに会いに行くことを勧めるよ。あの人だったらフィースと連絡が取れるからね」

 どうやら賢者ルアンナと言うのは、人類では珍しい魔法が使える者の中でも魔力が多く魔法の才に優れた人でフィースの弟子と言うことだ。ダミアンは何回か会った事があってルアンナさんとは顔見知りなのだという。 

 ダミアンの考えを聞き、私とフィリアに異論が出なかったので早速変身魔法を各々自分にかけ始めた。

 

 昨日読んだ魔道書の中に変身魔法の記述が無かったのでフィリアに頼んで教えてもらうが、要は何に変身したいのかイメージすればいいらしい。

 簡単に言うフィリアだが、絵心もなく想像力も乏しい私には無理難題に等しい。

 何度やっても失敗する私に呆れ果てたダミアンが変身魔法を私に掛けてくれ、私たちはアンデルドに続く街道に向かって歩いて行く。ダミアンが言うには街道に出たほうが色々と都合がいいのだという。

 

 道中、変身魔法で姿を変えても魔力探知されてたらばれるんじゃないかと問うた私に

 「真琴お姉さんって本当に魔法に関しての知識が無いよね。変身魔法は見た目を変える魔法ではなく、存在そのものを変える魔法だよ?だから、魔力の質や量も変わるから魔力探知に引っかからずに潜入できるの」

 と、ダミアンは呆れ半分に説明してくれた。



 

 街道に出た私たちは、ゴーレムを三体作り私たちが今まで変身していた姿かたち魔力を与えてアンデルドとは反対の方向へと歩かせた。それから再び変身魔法で姿を変え、私は十歳前後の少女、ダミアンとフィリアは二十代後半の人間の男女に変身し、行商人の家族と言う設定でアンデルドに潜入する事となった。

 

 「真琴お姉さんはそこにある木で荷車を造ってて」

 街道脇に生える木々を指さしダミアンは言う。

 まぁ、文句が無いと言えば嘘になるけれど、今のところ使える魔法は浮遊魔法と錬金術、結界術の三つなので戦闘になったら私は二人の足手まといとなってしまう。そのため、真っ向から反論できないでいる。

 「分かったわ」

 私の返事を聞いたダミアンはフィリアに何かを伝えると、二人別々の方向へと森の中に入って行ってしまった。

 

 一人になった私は、手ごろな木を見つけると早速錬金術で荷車に錬金し始めた。

 基本的に私が思い描く荷車と言えば、大きな車輪が横に一つずつ付いた屋根のない物だけど、人力か馬力かの違いで構造も若干異なる。

 どっちを造ればいいか迷った私は、結局両方造ることにした。

 

 二つの荷車を錬金し終え、私は二人の帰りを待っていた。

 森の中で怪しい行動をしているとさっきのゴーレムの意味がなくなる事位分かっているはずだけど、ダミアンとフィリアは何処で何をしているんだろう。

 「真琴様、ただいま戻りました」

 若干イライラしていた私の耳にフィリアの声が聞こえ、声のした方へと視線を遣ると白馬を二頭携えたフィリアがこちらへと近づいてくる。

 「フィリア?その馬どうしたの!?」

 私はフィリアが携える二頭の馬を見て言う。

 産まれてこの方、本物の馬を見たことが無かった私は触ってみたいという衝動に駆られながらも必死に抑え込んだ。

 「ダミアンに言われて森の中から探してきました」

 すっかり見慣れてしまっているフィリアの微笑、ダミアンは思ったことを正直に言ってくれるけれどフィリアは本心が全く見えなくて少し気味が悪かった。

 ちゃんと話したことが無いからそう思うだけかもしれないので、少し世間話をすることにした。

 

 「それで?そのダミアンは何処で何をしているの?」

 少し大きめの馬力荷車に二頭を繋ぎ、私とフィリアは荷車に腰掛ける。

 「すみません。私にもわかりません」

 これまで微笑か無表情のどちらかしかなかったフィリアの表情に困り顔が追加された。

 「別に良いわよ」

 私がそう言うと、

 「真琴様は優しいのですね」

 と言いつつ、再び何時もの微笑に戻ってしまう。

 「そんなことは無いわよ?だって、一度嫌な目にあったら末代まで覚えているような人なのよ、私」

 何を考えているのか分からないが、微笑を顔に張り付けたフィリアは私の言葉に頷いている。

 「真琴様、天使族の瞳には相手が嘘を吐いているかどうかわかってしまうのです。ですので、今真琴様が言ったことは嘘だと私にはわかります。真琴様、自分に嘘を吐き続けるのは辛くありませんか?」

 少し間があってからそう、フィリアは言った。穏かな口調にも関わらず、何か咎めるような気迫が伝わってくる。

 私が自分に嘘を吐いているとフィリアは言ったけれど、それは半分正解で半分不正解だと思う。

 確かにフィリアの言う通り、今までも嘘を吐き続けてきたけれど内心はその逆、口で言っている事と本心は全く違うのだ。私って結構天邪鬼だったんだなとつくづく思い知らされた。

 「これからは気をつけないとね」

 私もフィリアに習って微笑を顔に張り付けて言う。言ってから気づいたが、気をつけないとねって認めちゃってるなと思いつつ、私はフィリアをダミアンよりも厄介な相手だと認識を改めた。

 でもまぁ、契約の刻印がある限り、強制的に言う事を聞かせることは可能なんだけどね。

 

 それから数分後、私とフィリアが世間話の続きをしていた時だった。

 大きな袋を背中に背負ってダミアンが戻ってきた。

 「真琴お姉さん、フィリア、これから僕たちは家族と言う設定だから真琴お姉さんの事はまこちゃんって呼ぶことにするね。で、真琴お姉さんは僕とフィリアの事をパパ、ママって呼ぶんだよ?」

 大きな袋を荷車に乗せ、まるで子供に言い聞かせるように私に向かってそういうダミアン。

 今私は少女の姿をしているから周りから見れば可笑しくは無いんだけど、私は内心でものすごく違和感を感じていた。でも、反論する理由もないので言うことを聞くことにする。

 「うん、分かったよ。パパ!」

 無邪気な笑顔で私がそう言うと、少し面喰いながらもダミアンが私の頭を撫でて来る。

 「じゃあ、アンデルドに向かって出発だ」

 景気よく宣言したダミアンは御者台に座り、馬車を発進させる。

 私とフィリアは荷車に座ったまま、さっきまで自分たちがいた場所が遠退くのを眺めていた。

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