終話
「困りましたね……。私は、『あなた方を連れてこい』と命令されているのですよ」
そう言った変な男。
だが、そんなこと俺は知らん。
関係もない。
立ち止まってやる義理もない。
「いやはや、困りましたね」
まったく困ったようには感じない声音で、その男は俺の右腕を掴んできた。
……すばやいな、この男。
男の手を振り払いつつ感心していると、エウィルが短剣を抜き、男めがけ振り払う。
だが―――
「やめておきなさい。怪我だけではすみませんよ」
そう、静かに男が告げるとともに、エウィルの短剣が砕けた。
「っ?!」
驚愕に目を見開くエウィル。
俺は剣が砕けることより、エウィルの人間らしい表情に驚いた。
「人間らしい表情が出来たんだな」
思わずそう口にしてしまい。
こちらを向いたエウィルは無表情だったが、瞳が怒りに燃えていた。
間違いなく、俺に向けて……。
「生きているのです。当然ではありませんか」
「いやぁ。そうなんだがな、お前作り物めいた顔してるからなぁ。正直驚いた」
「………………」
素直な感想なのに、エウィルに瞳に軽蔑の色が見えた……。
実に失礼な奴だよ……。
「あの……。もし? お話し中に失礼ですが、ご同行願えますか? シルヴィ――主が待っておりますので……」
申し訳なさそうに言う、顔の見えない男。
……若干【主】とやらの名が出たような気がするが……言い換えるところを見ると、知られたくないのだろうな。
「あぁ。良いだろう。面白いものを見せてくれた礼だ」
「ありがとうございます。主も喜びます」
嬉しげに言う男。
エウィルはと言うと目が相変わらず俺を軽蔑してるが、何も言ってこないのでよしとしよう。
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――――――
こうして。
俺は国の命令で間諜としてファバルに来たが……とても信じられないが世界の崩壊の危機と聞いて、寝返ることにした。
それもこれも……俺に話かけて来た顔の分からない男・ウェルコットの主。
ファバル皇国第三皇子。
シルヴィオ・レファニア・ファバルの人柄を知り。
気に入ったからだな……。
エウィルはまだ、寝返ってはいないようだが。
変な高飛車な女に追い掛け回されているところを見ると、どうなるかねぇ……。
さて。
俺はファバルに寝返ったことだし、セゲルを落としに行くとしよう。
そう。
すべては故郷のために…………。
―――――――――
――――――
こうして。
ダニル・オルドーはファバルの力を借り、自国救済のため動きだした。
すべては、世界の崩壊を遅らせるために…………。
【end】
最後までお付き合い下さり誠にありがとうございました。
これにて完結です。