第三話 持久力
そんなこんなで馬を走らせ。
馬を休ませるため、森で休憩をとった。
日は完全に昇っている。
「隊長。どうぞ」
「あぁ」
エウィルがそう言って手渡してきたもの。
広げてみると、程よい厚さの大きな布。
マントか……。
俺はそれを手早く身に着け。
エウィルの方を確認。
奴はフェムと自分が乗ってきた馬に水を与えていた。
……用意周到だな…………。
俺は感心すると共に軽く呆れた。
その後俺たちは再びファバルに向け、少し休んだ後。
再び馬を走らせた。
その日の夜。
馬とエウィルに疲労の色が濃かったため、休みを取った。
「エウィル。少し休め。見張りは俺一人で十分だ」
「ですが――――」
「時間がない。休め」
「……わかりました」
そう返事をし、エウィルは座り込んでいる自身の馬の傍に行き。
マントを肩にかけ、座った。
さすがに冷え込むが、面倒事を避けるために火は焚かない。
俺は腰の剣を外し。
直ぐに取れるよう、横に置き。
片膝をたて、座る。
カコカコっと音を立て、フェムが来た。
そして俺のすぐ隣で座り込んだ。
どうやら傍に居てくれるようだ。
感謝の気持ちを込め、背を撫でる。
耳鳴りがしそうなほど静まり返った夜。
闇にまぎれ、接近してくるものが無いか、神経を研ぎ澄ませた。
こうした小さな休憩を取っては再び馬を駆る。
それを翌日からは夜だけ休憩をとるようにし、七日後。
その辺の馬とは違い。
持久力のあるフェム達のおかげで、ファバル皇国本土・国境にたどり着いた。
さぁ、ここからが仕事だ。
俺はフェムから降り、入国を待つ者の列に並ぶ。
その中には甲冑をまとった者や、俺たち同様。
軽装にもかかわらず腰に剣を帯びた男も交じっている。
先ほど『軽装』と称したが、一目で上等物だと分かるものだ……。
果たして本人どもはそれに気づいているのだろうか?
…………あぁ。
俺とエウィルの剣か?
もちろん売った。
そしてその金で護身用の小さな剣を買った。
目的は護身用だ。
短くなろうが長かろうか大差はない。
俺の服装は元から華美なものでも、上物でもない。
綿で作られた只の安物だ。
エウィルが着ている者も安物。
いつもはもう少し上等な物を着ている。
おそらく任務のための服であろう。
まったく。
用意周到なことで……。
「出身国と氏名を名乗れ」
回ってきた鎧を身に着け、腰には剣を帯びた男。
ファバルの風習のため、髪は長い。
「国はセゲル。ダニル・オルドー」
「なぜ離れたこの国へ来た」
「貴族の反感を食らい、殺されかけたため逃げてきた」
……嘘は言っていない。
ただ、体よく国を追い出されたってこと以外はな。
「…………そいつは?」
男が顎をしゃくって示した先は、無表情のエウィル。
「エウィル。俺の部下だ」
「……行け」
男は手に持っていた板の上の紙に俺らの名と、出身国、理由を書き。
そう言って俺らの傍を離れた。
こうして俺たちは国境を越え。
ファバル本国に入った。