第二話 出身は平民
大体。
俺は己の腕でのし上がっただけの、ただの平民だってのに。
そう言うことは、プロに任せろよな。
プロに。
ま、俺みたいなのが捨て駒にはちょうどいいってか。
……………………これを機に出奔してやろうか……。
まぁ。
それは置いておいて。
大方。
つい最近ブタブッティ王が殺されて、ファバルが領土を広げたことで慌てているのだろう。
ま、当然だな。
ブタブッティは強国。
いや。
もう消えたのだから、『だった』が正しいな。
こう考えつつ。
手元を照らしている蝋燭の炎で手紙を焼く。
手紙はあっという間に炎を纏い。
俺の手に近づく。
それを火傷しないギリギリのところで吹き消し、ふと考えた。
ファバル皇国と言う国は、つい最近までは弱体化し、国土をけずられ続けていた国だ。
おまけに第一皇子と第二皇子が内戦起こして、政治も国もガタガタ。
しかし、つい十年かそこら前まではバリバリの強国。
それが急速に力を取り戻した。
となれば、次に行うことは侵略。
そして領土の拡大。
「隊長。いかがなさいました」
「……大したことはない。しばらく留守にする。あとは頼んだぞ、エウィル」
俺は椅子から立ち。
羽織ってる金銀の糸で刺繍を施されたうえ。
両肩の位置に連なる金の短い紐のついた、笑えるほど豪奢な、重いワインレッドのジャケットを椅子の背に掛け。
燃やし損ねた手紙の隅と、黒くなった手紙の燃えカスとを片手で握り潰し、火の入った暖炉に投げ入れ。
出入り口に向かい、扉に手をかける。
……ところで。
「何故お前は俺も後ろに居るんだ? エウィル」
「私も隊長と同じ任を受けておりますので、必然ではないかと」
「……………………そうか……」
表情も動かないくせに、感情すらこもっていない声を出す、口うるさいのも一緒か……。
…………こいつ撒いて。
どこぞの国へと出奔してしまおうか……。
そう本気で思考えたが。
さすがに、この国を守るための第六部隊のうちの一つ。
第一部隊・隊長職に就かされている身だしな……。
放棄は無理か………………。
しかも扱いは平民出身のせいか、雑だしな。
はぁ……。
ま、そんだけ貴族が力を持ってるってことだな。
………………嫌な時代だ……。
なんて考えながら移動した厩で手早く支度を済ませ。
馬に乗る。
「フェム。頼むぞ」
そう馬に声を掛け。
俺は無表情で無感情、おまけに声に抑揚のない上。
口うるさい部下と共に、人目を避け。
ファバル皇国を目指した。
……今日の日暮れには、貴族出身でもない俺が、隊長職に就いたのを気に入らない。
噂好きの貴族どもが、俺を逆臣に仕立てあげていることだろう。
はぁ……。
誰も好き好んでこんな神経すり減らす職に就くかよ……。
…………待てよ?
てことは、だ。
俺はもう戻ってこなくて良いのではないか?
それに、近い将来。
確実にセゲルはファバルに呑まれる。
ふっ。
そうしたら、貴族も王族も無くなる。
待っている者も、守りたい、守らなければならない者もいない。
こんな国に……愛着など毛頭ない…………。