大逆転
俺は慌てて父親がいる場所を目指して走り出した。
耳には銃声に続いて、金属が跳ね返る音と、地面の舗装が飛び散る音が聞こえてきた。
俺は走りながら、視線を父親たちに向けていた。
頭を抱え、銃弾から身を守ろうとしている俺の父親。
毅然と立ったままの佐川。
身をひるがえして、逃げ出し気味の大森議員。
誰も赤く染まってはいない。
だが、ヒューマノイドたちも動いていない。
予想外の事態に、平澤たち三人か呆然としている。
「ヒューマノイド!」
岡崎と田中がぼそりとつぶやくと、きょろきょろと辺りを探索し始めた。
正門付近に向けた二人の視界の先。開発棟の壁際付近に兵士たちの遺体の山が出来上がっていた。
「だましたな!
ヒューマノイドをまだ隠していやがったな!」
田中が怒鳴った。
俺はもちろん、俺の父親たち三人も何が起きたのか分からず、呆然としていた。
「お前たち、私を守りなさい」
あの少女の声がした。
少女の声がした方向に振り返った。開発棟のドアから少女が九重さんと八重樫さん、それに大勢のクローンを従えて出てきた。その少女の近くに現れた二体のヒューマノイド。俺には見覚えがあった。地下室に残してきた二体のヒューマノイドだ。
「あなたたち、ここでやっていたクローンを使った人体実験を隠すために、また人を殺そうって言うの。
懲りないわね」
少女が冷たい視線を向けながら言う。
「君のした事なのか?」
俺の父親が言ったが、少女は俺の父親に目を合わせることもなく、平澤たちの下に進んでいく。
一人の少女。それだけだったが、妙な威圧感があった。それに気圧され、平澤が数歩後退する。SPが少女に向けて、銃を構えた。
その次の瞬間、SPたちは数m後方に吹き飛んでいた。
「命が惜しければ、そんな事は止めなさい」
屈強なSPたちが一瞬の内に倒された事に平澤の顔色が真っ青になっているのが、分かる。
「さてと、交渉の相手は私になったわよ。
私の要求は二つ。
ここで行われていたクローンを使った人体実験の謝罪。
そして、生き残ったクローンたちをこの国の人間として扱うこと」
平澤たちは恐怖も手伝って、声を出せないでいる。
「どうなの?」
少女が威圧した。
「わ、わ、分かった。
そうしよう」
平澤が言う。
「でも、信じられるのかしら?
今も交渉していたこの人たちを殺そうとしたわよね」
「あ、あ、謝る。
それはほんの手違いからなんだ」
平澤が狼狽しながら、答えた。こんな寒い冬空、汗などかく訳ない気温だと言うのに、平澤が額ににじむ汗を右腕の袖でぬぐった。
こいつらの事である。ここはまずは丸く収めて、一旦退却する。それから、先の事は後で考えればいい。
そう考えているはずだ。俺はこの少女を完全に許す気にはなれてはいなかったが、どちらかと言えば、この場では味方したい気はあった。
「信用するな。
こいつらはここを収めれば、再び手を変えて俺たちを殺しに来るはずだ」
俺の言葉に少女が振り向き、にこりと微笑んだ。ありがとうと言う意味なんだろうか?それは、今までこの少女が見せてきた冷たいような蔑むような表情ではなく、優しい優衣ちゃんの表情である。
その少女はすぐに平澤たちに向き直って、話を続けた。
「じゃあ、全て認めるのね。
何をやっていたの?
私はあなたたちの口から聞きたいの」
「密かに造ったクローンたちを人体実験に使い、ここでヒューマノイドを開発していた。
そして、その秘密を知る者たちを抹殺しようとした」
その言葉に、少女がにやっと笑みを浮かべて、言った。
「あなたたち。
この場を取り繕って、後で何とかしようと思っていたでしょうけど、もう遅いわよ。
今、全ては終わったのよ」




