政府のわな
一度解放された田中と野本は政府に戻り、首相をこの場に連れて来る事になっていた。
交渉、それは首相と直接行う。そう言う事になったらしかった。
俺は動かなくなった優衣ちゃんに寄り添いながら、その時を待った。
早く優衣ちゃんを静かに眠らせて上げたい。
そう思いながら。
やがて、研究所正門に何台もの車が到着した。
その中の一台から降りてきたのは紛れもなく、この国の首相 平澤だった。そして、その後に続くのは岡崎官房長官。その横には田中が寄り添っていて、3人の背後にはSPらしき男たちが従っている。
約束通りやって来た首相たちを出迎えるため、俺の父親、大森議員、佐川が建物を出て行く。
正門と開発棟入り口のほぼ真ん中あたりで、3人と3人が向かい合った。
それはちょうど開発棟の端に近かった。二階からは窓越しにクローンたちが覗き込んでいる。俺はその光景を開発棟の正門からのぞくようにして見ていた。
あいつらが優衣ちゃんを殺した大ボスである。
そう思うと、駆け出して殴りたくなる衝動が込み上げてくる。それをぐっとこらえた。
「君が奈良岡くんだね。
実際に会うのは初めてだが、君の事は存じ上げているよ」
平澤が右手を俺の父親に差し出す。俺の父親もその右手に自分の右手を差し出した。
「はじめまして。奈良岡です」
二人が固い握手を交わす。続いて、平澤が佐川に目を向ける。
「君が佐川一佐かね」
平澤は佐川にも右手を差し出す。
「はっ」
佐川も右手を差出し、固い握手を交わした。
「さて、君たちの要求は田中君から聞いたよ。
私が責任をもって、君たちの要望を受け入れよう」
平澤がそう言いながら、うんうんと言う仕草で頷いている。
一国の総理の言葉である。
「ありがとうございます」
「ところで、ヒューマノイドは危なくていかん
我々の身の安全を保障するため、そのあたりに背を向けて並んでおいてもらえんだろうか」
横から岡崎が言う。
「分かりました」
俺の父親がそう言うと、大声で叫んだ。
「お前たち、全員そこに背を向けて、並べ」
その言葉に応え、ヒューマノイドたちが俺の父親の背後に続々と集まってくる。その動きを平澤たち三人が確認するかのような仕草をしながら、ヒューマノイドたちの近くに移動した。
新たなヒューマノイドが出てこなくなると岡崎が言った。
「これで全部か?」
「はい」
俺の父親の言葉に岡崎と田中が頷きあう。
俺の脳裏にあの言葉が浮かび上がる。
「ヒューマノイドはまだ完全ではないんだよ。
最後に出された命令だけを忠実に実行する」
この状態で俺の父親が襲われても、守ることをしないじゃないか。
本当に信用していいのか?
一国の首相は嘘をつかない。そう信じているのか?
俺は不安げに見つめていた。
「ありがとう」
岡崎がそう言った。それに呼応して、田中が右手を高く上げる。
何だ?
そう思った瞬間だった。
いくつもの銃声がした。




